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Toy ガンナー  作者: チョーゆんふぁ
第二章 別世界の入口
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第2の巣立ち

「お前に教えることはもう無い、よく頑張った。銀次郎」

僕を見つめる瞳からじいちゃんの思いが伝わってくる

「ありがとう、じいちゃん」

「しばらくは天候にも恵まれるだろ、まだ日は高い。お前の知らない世界を見てこい」

「今から行くの」

いきなり過ぎでしょ、まだ気持ちの整理が

「ばかもん、一人前の男の旅立ちに明日も明後日もない。別れとはある日突然やって来るもんだ」

そうなの?

「世界は広いぞ、ワシとてこの世界の全てを知っている訳じゃない」

木の精霊トレントには離れた場所にいる仲間と特殊なネットワークでやりとりが出来る。その情報から僕はこの世界について色々と学んだ。

そのじいちゃんが知らないことは僕にとっても未知の世界なのだ

日本にいた頃はテレビやネットを通して部屋にいながら地球の裏側の国のことまでま見聞き出来た。もちろんその情報はメディアからの一方的なものだけどあの世界に未知というものを体感することも必要もなかった。



異世界フィヨルディアに来てから96日目


じいちゃんと2人だけの修行の日々、今にして思えばあっという間の3ヵ月だった。

外の世界に希望をふくらませ、旅立ちの日に心を躍らせながらも日本にいた頃には考えられない充実した毎日。


いつかは別れの日が来ると覚悟していた、大好きだったじいちゃんと向こうで死に別れ、この世界で再会し、そして今度は僕の方から別れを告げる。

冒険の旅には危険もあるだろう、もしかしたらこれが最後となるかもしれない。そう思うと後ろ髪をひかれる。


「うん、行ってくる。それでじいちゃんもまだ知らない世界をこの目で見てくるよ」



そうと決まれば決心が揺るがないうちに準備をしないとね


と言ってもアポーツを使えば何時でも必要なものをテントという名の物置小屋から取り寄せるから手荷物は無いので、服装だけ変えよう。

普段はジャージかスエットの上下姿、だけどこんな格好で旅には出たくないし人に会うのも恥ずかしい

じいちゃんから聞いたこの世界は村なら中世ヨーロッパ風で都会でもアメリカ開拓時代に近いらしい、だったら下はジーンズで上はサバイバルゲームで使ってたオリーブドラブのジャケット。

あと冒険者らしく鎧の代わりに防弾ベストでも着るか、防弾といっても本物は日本では違法だったから詰めてあるのは発泡スチロールだけどな

それでも緩衝材にはなるし、気分がのるしね。靴もスニーカーからコンバットブーツに履き代えて、コンバットヘルメットを被り、手には本物の防刃グローブ。

こんなもんかな

「たったそれだけか、ちっとも冒険者らしくないな」

「必要な物はテントから取り出せるからこれでいいんだよ」

わざわざ重い荷物を持ち歩くこともないでしょ、疲れるし

アポーツ最高

「それにしてもな、ま見た目も大切だぞ。せめてリュックを背負うとか武器を持たないとだれも冒険者と思ってくれんぞ」

見た目か、仕方ない

「でも武器なんてないよ」

エアガンじゃこの世界の人が見ても武器と思ってくれないだろうし、戦闘になっても役にたたないからダメだよね

「じゃあ修行用に作った木刀を持って歩くよ、杖にもなるし」

「その木刀を削ってたナイフがあっただろ」

おお、忘れてたよ。コンバットナイフがあったじゃん、銃は好きだから沢山あるけど刃物は興味なかったから一本だけ買ったんだよね、アウトドアにも使えるし

「普通は武器といったら木刀なんかよりナイフを思いつくんじゃないか」

「刃物を振り回す趣味なんて無いから武器=ナイフに繋がらなかったんだよ」

「この先の冒険をしていればイヤでも命を奪わなければならない時がくるぞ。そんな心持ちで大丈夫なのか」

命を奪うか、生き物を殺したり時には人を殺すことも、想像していたら背筋にゾクゾクとした感覚を覚えた。

それが嫌悪感なのかそれとも、期待?

僕の本性は何なんだ

渦巻く疑問を振り払うように頭を振り、

「習うより慣れろだよ」


「そうか、ならばもう行け。真っ直ぐ南に森を抜ければ街道に出る。その道を西に行けば小さな町に着く、まずはそこでハンターギルドに入れ、そのあとは好きに旅をするがいい」

ギルド、ハンターギルド、これぞファンタジーの決定版。この世界を蹂躙する魔獣との血わき肉おどる戦い、ゲームとはいえ戦闘経験豊富な元中年サバイバルゲーマーを舐めんなよ

悲鳴をあげる女性、泣き叫ぶ子供たち

「おう、待っててくれまだ見ぬ美女よ。今から僕が駆けつけます」

可憐な姫君をさっそうと救い名前も告げず立ち去る謎の冒険者

いや、名前は言っておこう、ロマンスしたいし出来れば恋人になって、いずれは結婚とかしたい

「孫よ、頭でも打ったのか」

「失敬な、じいちゃんは前世で結婚してるからいいけど、僕は独身のままだったんだよ」

夢を見たっていいじゃない

なのにじいちゃんは付き合いきれんとばかりに、

「がんばれよ、餞別をやるからとっとと旅立て。日が暮れるぞ」

そう言うとじいちゃんの頭からリスが降りてきて足元に何かを置いて戻っていった。

拾ってみるとそれは親指の爪位の琥珀だった。

「知り合いから1つ貰ってきた、町で売って金に替えろ。本当なら支度金ぐらいやりたいのだがワシは精霊だからそんな物しか用意できなかった」

「ありがとう、でも知り合いってことはこの琥珀もトレントの鼻クソじゃ」

「返せバカ孫」

「冗談だよ、トレントの貴重でありがたい琥珀でしょ、高く売りさばいてみせるよ」

精霊になってプライドが高くなったのか、このネタでからかうと説教が長いんだよな

「行ってくるね」

逃げるように南を目指して走り出す。

いつか必ず戻ってくるよ、土産話を期待しててね


「元気でな銀次郎」

行ってしまったか銀次郎

前世の記憶をもってトレントになるのは孤独だ、どうしても人恋しくてつい神様にお前の事を頼んでしまったんだよ

この世界に来たことが本当にお前の幸せになるのかわからないし、今でも迷っておる

それでもお前といた3カ月はワシにとっての生涯の宝だ


願わくばお前がこの世界で幸せに天寿をまっとうできるように



また明日からは1人きりの日々となるが毎日お前との生活を思い出すよ


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