少しだけ遠くなった距離
文化祭まで、あと三週間。
放課後になると、実行委員は毎日のように集まり、準備や打ち合わせに追われていた。
「伊吹、このポスターのデザインどう思う?」
「かわいい! でもタイトルはもう少し大きい方が見やすいかも。」
「じゃあ、直してみる。」
千早はそう言って笑った。
一緒に作業をしていると時間が過ぎるのはあっという間だった。
「今日はここまで!」
先生の声が響き、実行委員会は解散になる。
「お疲れ。」
「お疲れさま。」
二人で教室へ戻る途中、窓の外を見るとグラウンドではサッカー部が練習を始めていた。
「あ、湊。」
ボールを追いかける姿を見つけ、私は思わず立ち止まる。
その時、湊もこちらを見た。
目が合う。
私は小さく手を振った。
だけど湊は軽く会釈をしただけで、すぐに練習へ戻っていった。
今日もだ。
手は振り返してくれない。
「……。」
胸が少しだけ苦しくなる。
「どうした?」
隣で千早が不思議そうに聞く。
「ううん、なんでもない。」
笑って答えたけれど、本当は少し気になっていた。
海へ行った日までは、もっと自然に笑い合えていた気がする。
最近の湊は、どこかよそよそしい。
私、何かしちゃったのかな。
そんなことを考えながら、昇降口へ向かった。
⸻
その日の夜。
ベッドに寝転びながら、今日の出来事を思い返す。
実行委員の準備は楽しい。
クラスのみんなも協力的で、文化祭が少しずつ形になっていくのが嬉しかった。
なのに。
頭に浮かぶのは、あの時の湊の表情。
『……。』
何か言いたそうだった。
でも何も言わなかった。
「考えすぎ、かな。」
そう呟いてスマホを見る。
湊とのトーク画面を開いては閉じる。
なにか一言を送りたいだけなのに、指は動かなかった。
結局、何も送れないままスマホの画面を閉じる。
窓の外では、秋の虫の声が静かに響いていた。
私たちの距離も、少しだけ季節と一緒に変わり始めているのかもしれない。




