表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2.師匠

孤独の男は一人、茶屋の前で立ち佇む。男は股下には黒の裁付袴、上には白黒縞をが入った着物を纏い、上から長羽織を着ていた。

この時期の夏では少し暑いぐらいの恰好ではあったが、現代より涼しくあったこの時代ではお洒落として着る男性も少なくはなかった。

髪型から見ると武士とはいえず、町民のちょんまげでもないぼさついた髪型をしており、浪人、もしくは風来坊といった印象を抱かせるような風貌に周りの目は少し怪訝な目線を向けていた。

男は不機嫌そうな顔で茶屋の前でうろつき、傍から見た人間にとっては不審な行動をしているようであった

「あのぉ……お客さん、うちらの料理食わないんだったら……そこどいてくださる?」

店から店員の顔がひょっこり出てくる。

「すまない、ここで人を待っているんだ。こういう桃色の着物を着て、蝶の絵が描いてあって、あと、棒みたいなのを持っているんだが」

と、身振り手振りで男は店員に伝える。

「あぁ!あの子ですか?」

驚いた表情で店員は応える。

「あの子はうちらのみたらし団子を食べて、ほんと幸せそうな顔をしてましたよ。少し前にお金だけ置いて何処かへ行っちゃいましたけど……」

「そうか。それだけでも分かれば有難い。」

と、頭を小さく下げ感謝を伝える。

「どうですか?おにいさんもひと串、いかがです?あの子もとっても美味しそうに食べていましたよ~?」

と団子屋の店員は美味しそうに食べていた少女の動きを真似するような仕草で男に促していた

「申し訳ない。甘いものはどうにも……」

男は申し訳なさそうに言葉を返す。

だが店員の表情は自信ありげで、それならと提案を重ねる。

こんなところで、お客さんを逃すわけにはいかない、この大阪の店員としての意地を男は感じた。


「大丈夫ですよ!!ここのお店の深みのある緑茶とみたらし団子の相性はとってもいいんですよ?

甘いものも緑茶と合わさることで……極楽の味が待っていますよ~?」

自信たっぷりの対応で男に詰め寄る。

店員のその自信に負けたように男は

「……分かった、なら緑茶とみたらし団子二串を」

「ありがとうございます~!みたらし二串、緑茶も付けて!」

と店員は忙しそうに店の中に戻っていった。

「はぁ、あいつは何処へいきやがった。」

「……確かめるか。」

男は茶屋前の床几台に座り、懐にひそめていた小さな和紙を手に持った。

「式神 烏」

と唱え、手に持った紙は蠢きだし、カラスの形となり空へと羽ばたいていく。

紙のカラスは空を舞い、この大阪の空を見つめ、女を探す。

男は式紙術、単純に手に持った紙を獣や妖怪の姿に変質させる力。

材質は紙のままだが、自分で自由に行動ができ、式紙の視覚、聴覚までも自在に感じ取ることが出来る。


「───そこか。」

と式紙は急降下していき、男が座っている茶屋の後ろまで降りていき、


「隠れていないで、出てきなさい────千世ちよ


「いたっ、あだっ。式紙ちゃん、つつかないで、つつかないで!!!」

と桃色着物の女が姿を現す。紙のカラスが頭をつつき、茶屋の後ろから現れる。

紙のカラスにつつかれながら、男は目の前までやって来たことを確認し、

ため息をつきながら男はカラスを手に取り、元の紙に戻していく。

「……はい。申し訳ありません、師匠」

としょんぼりとした表情で千世は話す。

師匠と呼ばれた男は千世がいつも持っている刀とは違う刀を見て、これは贋作の刀を見て全てを理解したようだった。

床几台に座るように師匠は促し、千世は座る。

「何かあったのは分かっている。だが……」

「言伝も残さずに何処かに行くのはもうやめるように言っていたはずだ」

「そう前も、大和に居た時もだ。言伝を残さずに蕎麦屋の前で夜になるまで待たされたあの時は───」

「本当にっ!反省しております!!!!師匠!!」

と床几台の上で正座をし、頭を下げる千世。

とても素早く指先までしっかりと伸ばした綺麗な土下座であった。

「まったく……」

早く顔を上げろと師匠は促す。

と会話をしていると、店員が2串分のみたらし団子と緑茶を持ってきた。

「あら、さっきの可愛いお嬢さん。帰って来たんですね!」

「店員さん、さっきはすみません……突然、何処かに行っちゃって。」

と千世はほほを手で搔きながら答える。

「ふふっ、気にしなくても勘定分は貰ったしいいわよ。それじゃあごゆっくりどうぞ~」

と店員は店の中に戻っていった。

そして、少し沈黙が流れ、師匠が口を開く。

「あー、その千世」

と師匠は気まずそうな声で、そして、何処か気恥ずかしさを残すように

「みたらし団子2串も頼んでしまった。千世は知っているとは思うが俺は甘い食べ物が苦手だ。……一串食べるか?」

師匠は、ばつが悪そうに千世に話しかける。千世は目を輝かせながら

「───はい!師匠!」

二人は手を合わせ、そして、食事の感謝を込めて


「「いただきます」」

そう、食事に感謝するいつもの言葉を二人は唱えたのであった。


──────────────────────────────────────


千世と師匠は刀が奪われた質屋まで赴き、刀を返しに行っていた。

質屋の内装は古ぼけたような質屋ではなく、手が届く場所は埃一つもなく、小奇麗になっている。

着物などの衣類、布団、掛け軸、簪や櫛などの日常的に使うような物が飾っていた。


「質屋のおじさん~盗まれた刀返しに来たよ~!」

と子十郎から盗まれた刀を手渡す。

質屋のおじさんは、えぇ!?と素っ頓狂な声を出し、震える手で盗まれた刀を手に取り、今でも泣き出しそうな声で

「あぁ!なんと有難いこと……」

と、感嘆の声を漏らしつつ、ずっと頭を下げ感謝の言葉を述べていた。

「かの天国が作ったとされる刀が奪われてしまって……例えこの代物を盗まれたと手先に言ったところで返ってくる保証がないものでしたから……」

「本当にありがとうございますっ!このお礼は何を尽くせばいいやら……!」

と、感極まった言葉を羅列する。

「お礼ということなら、二つ。店主に質問がある」

師匠は右手を男性に向け、人差し指と中指を上にたてながら示した。

「まず一つ目だ。この刀は誰から手に入れた?天国の刀は簡単に手に入るものではない。そこらの質屋が持っていていいものではない。」

「えと……余りこういったことは明かさない方がよいのですが……恩人である貴方がたには特別に教えますね」

「つい、四日前の事です。この刀はある男性の方から卸しました。背は七尺(約2m)程、武士のような佇まいの方でした。

「……七尺とは随分と図体がでかい男だな」

「えぇ、長い事この大阪で生きてきましたが、あそこまで大きい方は見たこともありませんでしたよ。」


「その男が腰に下げていたのがこの刀でした。黒い鞘、紫の鍔、そしてこの特徴的な鞘の模様」

刀の鞘を見せるようにこちらへ向けた。

「アマクニの銘が付いた鞘には生き物が描かれていることで有名です。この犬の模様も、かの天国が作ったものと思い、男からその刀を買い取りました。」

「その男の名前は?」と師匠が尋ねるが、質屋の男は申し訳なさそうに頭を掻き、

「いやぁ……実は余りに興奮しすぎて名前を聞くのを忘れてしまったんですよね……興奮に任せてしまった自分が悪いんですよ……とほほ」

と師匠はおもむろに千世の方を見つめる。

千世は首を振り、何も分からないという事を伝える。

「そうか、ありがとう。どんな人でも衝動的になってしまうことはある。仕方のないことだ」

「二つ目だ」


「最近、何か変わった出来事はないか、例えばそう」

「人がいなくなった……とかだ」


「うーん、あっしもここに住んでから長いですが、そう言った事件は……」

といっていた質屋の男は思い出したように口を開く

「いなくなったという話とは違うんですがね、私が貸している道具を一向に返しにこない方が最近多くてですね……」

「取り返しに行こうと思っても、全く会えないっていうのが続いてて困ったものですよ。」

「……そうか、変なこと聞いてすまなかったな。有難う。」

と師匠は頭を下げ、感謝の言葉を質屋のおじさんに伝える。

「いえいえ、その私も有意義な情報がなくて、申し訳ないです。」


「じゃあ、私から最後に一つ」

と千世が指をピンと立て

「あまり、アマクニと言う名前は使わない方がいいです。アマクニは不幸を呼ぶ刀、

これはニセモノであっても、不幸は向こうからやって来ます。」


「……えぇ、そうですね。余り大っぴらには名前は明かさないようにします。」

と質屋の男は感謝の言葉を込めて見送ってくれた。

「そうだ!お兄さん!」

「あんたの名前を聞いてなかった。何かあった時にあんたの事を知っていればいい情報も手に入るかもしれねえんだ!」

「教えてはくれないか?」


「そうだな、何かあった時は俺の名前を尋ねてくれ」

「俺の名前は選来楓丸───何かあれば、特にアマクニについて良い情報があったら、ぜひ教えてほしい」


「きっと、あんたの力になることを約束しよう」



──────────────────────────────────────



「何か見えていたんだな、千世」

と師匠と呼ばれた男、もとい楓丸は千世に尋ねた。

楓丸は大阪での宿を取っていた。見晴らしのよい二階から大阪の町を師匠は見つめる。

夏を知らせる風鈴の音が部屋に響き、涼しい風が部屋を満たしていた。



千世は未来を見る力を持っているわけではない。

未来を見る力は 千世が持つ妖刀アマクニの力。


妖刀アマクニ「選来せんらい


そう呼ばれている刀は未来の結果を見ることが出来る。

選んだ結果の先から、大まかな結果と、そして、一寸先(六分)の未来を見る。

そして、六秒先の未来、十、百、幾千、幾万もの選択肢を見ることが出来る。

千世はその数多の選択肢から行動を選び、望む未来を探すことが出来る。

3つの未来。遠くない先の未来、六分先の未来、六秒先の未来。

それが千世が扱える「未来選択」の力だ。

「うん、私に見えたのは刀を盗られた質屋のおじさんが……自らに刃を突き立て死んでしまう姿が」

「……原因は」


「刀を盗られたから。質屋のおじさん、あのニセモノに相当な金を入れたみたい。たぶん今頃はその刀を別の人に売ってるんじゃないかな。」

「偽物なら別に俺たちが奪う理由がないし、なるようになるだろう千世が選んだ未来なら」

と楓丸は安心した表情を浮かべていた。

「それで戦ったんだろ、盗人と。怪我とかはなかったか?」

千世は頷き、勢いよく立ち上がる。

「うん、でも大丈夫!誰も殺していないし、大きな怪我もさせてない。私も傷ついていないよ!」

と元気だと見せつけるように、体をくるくると回転する。

回転をやめ、そして楓丸に寄って行く。

「気になるなら……傷ついていないか見る?私のか、ら、だ?」

男を誘うようにいやらしく、まるで花魁のように。

着物の上をはだけさせ、千世の胸を強調する。

楓丸の反応を楽しみたいと言ったような表情で楓丸を見つめる。

「いや、結構だ」

と、楓丸は千世の着物を整える。女が簡単に胸を出してはいけないと、楓丸は千世のはだけた着物を整え、何事もなかったように振舞う。

こんな誘惑じゃ届かないか、と千世は新たな知見を得たが、

「……むぅ、いけず」

千世は不満げなむくれた表情になってしまった。

そんな、不機嫌になった千世を気にせずに楓丸は話を続ける。

「それよりも、だ」

楓丸は立ち上がり、部屋に置いてある机の方へ向かっていく。

「他の……アマクニの気配はあったか?」

「……うん、あったよ」

楓丸はやはりかと、目を潜めた。

「私のアマクニとは違う気配があった。でも町を転々としているみたいで、詳しい居場所までは分からなかった」


「でもね……」

千世は空にゆっくりと手を伸ばし、窓に付いている風鈴を撫でていく。

「───選来が見せてくれた」

「私たちは今日の夜に件のアマクニと出会う。それだけは確かだって分かるんだ」

と確信めいた表情で千世は話す。

「……分かった。それまでこっちも準備をしておこう」

と楓丸は木箱から紙を取り出し、折り曲げていく。

「式紙の準備をしておく、夜になったら街に出るぞ」

「……千世もそれまで休憩しておけ。隣の部屋が千世の寝室用に取ってある。いつでもそこで寝ててもいいぞ」

「うーん……」

千世は悩みながら心あらずの返事を返す。

「千世……どうした?」


「あの……さ。寝るまで、ここにいても……いい?」

「……構わないが、作業の邪魔だけはするなよ」

「分かったよ、しーしょーう。」

千世は作業中の楓丸にもたれ、空を見つめる。

風鈴の音が心地よく、爽やかな風を吹き込む。千世は目を瞑りふと思う。

この先やってくる未来から逃げてしまいたい、そう思うように、千世は楓丸に背中を預けながら眠りに就いた。




──────────────────────────────────────


「はぁ……はぁっ……はぁっ」

三日月が隠れ、辺り一面が暗闇で包まれた大阪の町。

お紗代の片腕から血が滴り、大阪の道を血で濡らしていく。

「待ってください、お紗代さん。」

鋼の刀身がむき出しになり、薄化粧の血が刀を彩っている。

「そんなに走っても、ここには『誰も』やって来ませんよ」

とお露が淡々と話している最中もお紗代は走る。

走った先で私を助けてくれる人がいるはずだと、そう信じて走り続ける。

「お紗代さんはどうして、この話を知っているんですかね?」

「これまで食べてきた得物たちは、名も知らないような人や、浪人の方……あぁ、後は私たちに失礼な事をしたような不躾な方たちだったでしたね」

「目撃者も、全て食べてしまったのに、どうしてここまで詳しい話が漏れているのでしょうか?」

「聞かないといけないんですけど、まあ、地道に探しましょう」


恐怖で慄くお紗代はお露が呟く言葉を聞いてはいないだろう。

ただ、逃げ出したとしても、虚しい抵抗であった。

「あっ───」

と急に力が抜けたようにお紗代は道半ばで転ぶ。腰が抜け息も絶え絶えになりながらも体を動かす。

だがどうしてか、体に力が入らない。意識も朦朧とし息が苦しくなる。

無情にもお露は倒れたお紗代の前までたどり着く。

「ようやく、毒も廻って来たようですね」

「私の刀身には毒が塗ってあるんです。体が痺れ、あと少し経てば呼吸も出来なくなります」

「でも、その前に……私が楽にしてあげます。」


刀から紫煙が滲み出る。その煙はお紗代に近づき、お紗代の体を包んでいく。

「蛇は得物を食べるときは、毒で弱らせて獲物を丸呑みしてしまうそうです」

「私もお紗代さんが悲鳴を上げながら食べるのはあまり好きではないのですよ」

お紗代の体を煙が完全に包み込む。まるで蛇が得物を食べるようにゆっくりと蝕んでいく。

「じゃあ、さようなら。私の大切な、お紗代」

お露は目を瞑り、手を合わせながら祈りを告げた。

「いただ───」





「────残念だが、食事の時間は終わりだ」

と後方から、男の声が聞こえた。

刹那、風がやって来た。最初は夜風のような涼しい風だったが、刹那、突風が大阪の町に吹いた。


その風は紫煙を吹き飛ばし、お紗代の体が現れる。

「式紙 鎌鼬! あの女を吹き飛ばせ!!!」

と突風がお露の体を吹き飛ばしていく。地面を踏みつけ、耐えていくが、少しずつだが、後ろにお露の体は下がっていく

「────くっ!!」


そして、力なく倒れているお紗代の体は同時に吹き飛ばされる。

空に舞い、そのまま落下していくお紗代の体を千世が受け止める。

「お紗代さん!!助けに来たよ!!」

と毒で動けなくなったお紗代を抱え、楓丸の前に降り立つ。

「貴女が持っているそれは────」

お露は驚いたように、次の言葉を吐いていく。


その風は雲を吹き飛ばし、隠れていた三日月が現れる。

月明かりに照らされた、千世が持っているのは



黒い鞘、紫の鍔、鞘に描かれているのは金色で描かれた蝶、

鋼色の刀身と鎬には金色で染め上げられた姿が現す。


「妖刀アマクニ」とお露はそう呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ