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弟との決闘①


『決闘』

よくあるあれだ。互いに何か譲れない大切なものをかけてぶつかり合うあの熱いやつだ。


正々堂々、己と、その熱い気持ちを賭けて、研鑽して積み上げたそれらをぶつけ合う誇り高い感じのやつなんだが……




ガゼンさんとリンカさんにはめちゃくちゃ止められたが、俺にとってこいつは脅威でもなんでもないので、強引に話を進めた。


ギルドの前にある広場。

そこで決闘を行う事となった。



対峙する俺とルイズ。それを取り囲むように野次馬の見物人が集まっている。

ガゼンさんとリンカさんが心配そうな目で見てくるので、余裕アピールの為に全力で変顔を送っておいた。

『気が触れたんじゃないか?』というような戦慄した表情でをされた。解せぬ。



ルウがまだ帰ってきてなくてよかった。いたらきっと心配して引き止められていた。

代わりに自分が決闘を行うとか言い出しかねない。

ある意味タイミングがいいとも言える。早く終わらせないとな。



そして見物人の中には物騒なのも混ざってる。

聖騎士クルセイダー

先ほどギルドの端っこで固まってた連中だ。

白いゴツゴツとした鎧に包まれた方々が複数人、見張るようにこちらへ視線を向けている。


 

「そこの高貴そうな方々はお前のお友達がなんかか?」


その答えは質問したルイズではなく、ご本人達の口から返ってくる。


彼らは近づき俺にしか聞こない程度の声量で話し出す。


「我々はシャルナール様を迎えに参った者です。シャルナール様には是非、ルイズ殿と一緒になっていただく。その為にもどうかご協力願いたいのです。……拒否するというのであれば……その先はご想像にお任せします。どうかご懸命な判断を、リュート殿」



神獣であるシャルさんを王族派に引っ張り込んで、王家の立場を盤石にしたいってことか?


ベルクニフ家は王族派の貴族らしいからね。

そして聖騎士達は王族と強く癒着している。


じゃあ、なんでいちいち決闘なんてしなきゃいけないの?ポーズだけでもってとっておきたいってこと?力を示す的な?


気を利かせてわざと負けろってこと?え?忖度?忖度をお望みなの?魔力のない人間にさえそんなこと言っちゃう感じ?



めんどくせぇ〜。

人間の政治に獣人……いや、シャルを巻き込むなよな〜。

シャルも大変だなぁ〜。そら逃げますわな。




「わかったか?国も俺とシャルナールが婚約することを望んでる。邪魔者はテメェなんだよ」

実に傲慢な態度でニヤつきながら俺に言い放つルイズ。


俺はやる気が出ないままルイズに向き合う。

「もうそういうのいいから、さっさと終わらせよう」


「……ッ、昔っからぁ……そういう態度がぁ……気に食わねぇんだよォオオオッ!」



その叫び声と共に、俺の視界は炎で埋め尽くされた。

何か周りで声が聞こえる気がするが、俺の耳には炎が燃える音しか聞こえない。


え?決闘って何か開始の合図的なの無いの?!

こんな急に始まるもんなの?!


仕方ないなぁ……俺なりの『ご懸命な判断』ってやつを見せてやるかぁ。




「相変わらずお前の魔法はカッスカスだなぁ!」

もう昔みたいに食らったふりはしてやんねぇ。




○●○●





「どういうことだ!なんでだ!テメェ……何をしやがった!」


俺に何度も何度も炎の魔法をぶつけては、無傷な俺の姿を見て動揺するルイズ。


もちろんわざわざ説明してやるつもりはない。



「俺はなんもしてねえよ。お前の魔法がクソ雑魚なだけだろ」

俺は余裕を持ったまま一歩ずつ歩いていく。


「ふざけんな!そんなわけねぇ……大体お前は魔力がないんだろ?!魔法は使えないんじゃないのかよ?!何をしたテメェ!?」


ルイズは全くこの状況が理解できてずにただただ狼狽えながら、効くはずのない炎をバンバン打ってくる。



……こいつ、実の兄に向かって容赦なさすぎだろ。もう少し家族としての情とか愛着とかないのかよ。

……まぁ、俺もそんなのないけど。

ベルクニフ家の教育の賜物ってやつかな。



周りはこの光景に驚きを隠せてないようだ。それぞれが驚愕の表情を浮かべ、何やらゴニョゴニョ陰口のような感じで喋りあってる。


皆さーん俺がおかしいんじゃなくてこいつの魔法がヘナチョコなだけですよ〜。



「くそがぁっ!!来るな!来るなぁ!」

炎と玉だとか火の柱だとかが俺に襲ってくるが、俺は気にせず歩を進め続ける。


「おいおい〜。久しぶりに会えたんだ〜。再会のハグでもしようぜ〜」

ニタニタと笑いながら俺はルイズへと、わざとゆっくり近づいてゆく。


「俺の魔法はランク7等級の魔物すら焼きつすんだぞ!こんなことあってたまるか!」



その言葉に、俺はピタッと足が止まる。


……え?ランク7?ガディより……上の魔物を?


「……それ、ほんとに言ってる?お前の妄想じゃなくて?」


「コケにするのも大概にしろぉ!」


プライドの高いこいつは謎に嘘が嫌いだからな……言ってることは本当くさい。



じゃあなんで俺、無事なの??


そこで、俺の明晰な頭は、最近、いろんな方々からよくつけられる印のことを思い出す。

何やら権能やら加護やらが与えられてるという印をだ。


なぜ、そうしようと思ったのかわからない……けどなんとなく、突然、シェムハザ様から頂いた『聖痕スティグマ』を確認しようと思い立った。


服の中を覗く、ポカポカと白い炎をうっすらあげて光っている。


シャルのやつと同じだ。



「……あ」


その瞬間、俺は理解した。そして自分の鈍さと今までのバカさ加減を呪うこととなった。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ?!」


「な、なんだっ?!」

ルイズが驚きの声をあげるが、そんなことに構ってる余裕はなかった。



俺は頭を抱えて膝から崩れ落ちる。


シェムハザ様のご加護だ!

シェムハザ様が魔法という脅威から俺を守ってくださってたんだ!しかもずっとずーーーっとだ。

ずっとずっとあのアホから守ってくれてたんだ!



まずいまずいまずい。今すぐあの偶像の前で祈りと感謝を捧げなくては!

五百回は頭に地面を打ち付けながら感謝の意を伝えなければならない!



「な、なんだ…?!今更魔法のダメージを喰らってるのか……?」


だが、この決闘にシャルという存在を巻き込んでしまっている。だから負けるわけにはいかない。適当に終わらすわけにはいかないのだ。


そもそも負ける気がないから橋渡ししてやるなんて言ったんだ。

こんなクソみたいなやつシャルに合わせる気はさらさらない。


調子に乗って口車に乗せられるべきじゃなかった。……いや、あの聖騎士達がいる時点で、結局はこうなっていたのか?

だめだ、今は『もしかしたら』の話なんて考えてる暇はない。



俺の頭は、至ってシンプルな結論に至る。


「……さっさと終わらせて帰る」

こんなバカに構ってる暇が、ますますなくなった。さっさとボコして早く宿に戻らなければ。そして天使様に、夜通し感謝を伝えなければ。



「ふざっっけんなよ…っ!さっさと終わらせる?この俺相手に……勝つこと前提で話を進めやがって……ッ!どいつもこいつも俺をバカにしやがって!あのバカ猫もそうだ!低脳なケモノ風情が!黙って俺のいうことを聞いてればいいものを……ッ!人間様に盾突きやがってぇぇえっ!」



「……あ?」



「ルイズ殿!その言葉は聞き捨てならない!神聖なる神獣様に対しそのような不敬な言葉。見過ごせんぞ」

聖騎士さん達が何やらごちゃごちゃ言ってる。

だが決闘中は何人たりとも邪魔立てすることは許されない。

聖騎士ともなれば、神聖なる決闘を汚すようなことはできるはずない。

故にこいつらは口を出すしかないのだ。



だが、その言葉にも、俺はさらに不快な気分に陥っていく。


神獣がどうとかじゃねえだろうが。



「黙れ黙れ黙れぇ!俺に従ってればいいんだ!俺が上だ!俺が命令するんだ!俺に指図するんじゃねぇ!クソ兄貴もバカ親父も全部全部クソカスだぁあああっ!」


その激情を表すかのように紅蓮の炎が上がってゆく。

その巨大な炎に、野次馬達が恐怖を抱きどんどん人が離れてゆく。


「リュートォ……まずはお前をぶちのめして、シャルナールを手に入れる。俺のものにした暁には、あいつには首輪をつけて、飼ってやるよ。獣如きが二足で歩いてることすら烏滸がましい。服も脱がせて、四つん這いで侍らしてやる」


聖騎士どもが何やらごちゃごちゃ喚いてる……その全てにイライラする。




俺の頭はとっくに沸騰していた。

実に久方ぶりの、本気の怒り。

体が熱くなり震える。今すぐこいつを黙らせないと気が済まない。



目の前のクソをぶちのめそうとした時、心の奥底から声が聞こえた。




『力を欲しているな?我が眷属よ』

呪いの竜の声が、頭の中をこだました。


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