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初めての討伐クエスト③



鷲獅子グリフォン

獅子(ライオン)の身体に、鷲の翼と頭…そして鉤爪を持つ生き物。

プライドが高く、攻撃的。縄張(テリトリー)を荒らす者や敵対者に容赦しない。


そして、黄金や財宝を大変好む。それらを巣へ持ち帰り、護る習性がある。




––––––で、その習性と俺にどう関係が……?」


あれから、危険性が薄いと判断した俺たちは、グリフォンを解放。

逃げることも襲うこともせず、身体を擦り寄せながら、ひたすら俺の周りをグルグルグルグル回っている。


『クルルルゥ』

こんな可愛い声まで出す始末だ。

俺、もうこいつを討伐するなんて無理だよぉ〜。

だって可愛いもぉ〜〜ん。



「ははは、もう忘れたのかい?『ミダスノワール』との契約内容、説明したはずだけどね」


「あ、あぁ〜……ぇええっ?!そ、それで懐かれてんすか?!」



あの厨二竜との契約で得られたのは、権能の一部貸与。

彼……じゃなくて、彼女の持つ大々的な権能『黄金化の呪い』

その権能を俺も扱えるらしい……しかも代償なしで。恐ろしすぎる。


何か裏があるのではないか?と疑ったが、それは無いらしい。

『名付けの契約』は、それほどまでに一方的で強力な契約内容となっているとのこと。


あの厨二竜、あんな適当な名前の為だけにこの契約を受理したの?アホすぎんか?


あの子の今後がすごく心配。契約主として暴走させないように、せめて俺が死ぬまでは大人しくさせておこう。

……俺が1番怒らせる可能性高いかもしれないけど。



そして、今俺が扱えるその『黄金化』の権能の匂いに釣られて、俺をものすごく気に入ってしまった……という事か?

グリフォンくぅん。ちょっとチョロすぎない、あなたぁ?


と言いつつ、俺も撫でる手が止まらない。

おぉ、羽が思ったより硬い。がっしりしてる。


狼状態のルウに踏んづけられてたのに、痛がるそぶりがない。実に平然としている。むしろ元気いっぱいだ。

あれで骨とか折れてないのどんだけ頑丈なんだよ。



愛情表現かわからないが、俺の頭を咥えて甘噛みしてくる。

……嘴が鋭いからちょっと痛いけど…悪くはない。可愛いじゃないか。



「……契約します」


「ふふ、君ならそう言うと思ったよ」


「え、えぇ?!兄さん……あんな大きいのどこで飼育するの…?あ、あとこれ一応討伐クエストだよね?…未達成はともかく、討伐対象を連れ帰るのって……大丈夫なの?」


『そもそも『ミダスノワール』との契約って何?』


狼の耳と尾を残し、人の姿へと戻っていたルウ。会話に混ざるや否や、痛いところをついてきた。……しっかり者だね。



「で、でもでもぉ…!だってえぇ…!こ、こんなに懐いてるしぃ。あのすっごい速さで追いかけてきたのもぉ、全部俺への愛ってわかったらぁ、すっごい可愛いやつだなぁって思えてきちゃってぇ」


対して、俺の今の姿は、捨て猫を家で飼いたい!と駄々をこねる子供そのものだ。なんとも情けない。



因みにシャルはというと、飽きてきたのか、毛繕いをしながら草原の上で寛いでいる。実に猫っぽい仕草だ。

そのへそ天ポーズ。俺を誘ってる?誘ってるのかな?



「安心したまえ、大型の魔物を管理する部屋なら私もいくつかアテがある。そこを紹介しよう」


「やったぁ!」

流石マギアぇもん!頼れるぅ!


「でも……そこもお金かかるんじゃ…あとご飯代とかも……」

ルウさん、なんだかお母さんみたいだね?ごめんね?手のかかる兄さんで。



「従魔の契約をしたからといって、何も契約主が全て管理するわけじゃない。狩だって自分でする。彼らは野生の本能が強いからね、ずーっと室内で縛ってるわけにはいかないのさ……彼は賢い。君が禁じれば、人間や家畜を襲う心配はないだろうが……逆に間違えて狩られないように登録しておかないとね。グリフォンなら尚更だ」


「へぇ〜そうなんだぁ〜。その登録ってギルドでできます?」


「あぁ、出来るはずだ」


「じゃあまぁ、一旦帰りますか」


「は、話まとまっちゃった……ほ、本当に大丈夫かな…?」




とりあえず…クエストは達成され……てないけど。まぁ、報告しに行かないことには何も進まないので、一旦ギルドへ戻ることにした。




○●○●




帰り道の途中、俺はみんなへ労いの言葉をかけてゆく。


「お疲れ様、ルウ。大活躍だったじゃないか」


「……ダメダメだよ。マギアさんの力が無かったら、僕役に立てないまま終わってた……」


「いやいや、そんな落ち込む事ないだろ。普通にグリフォンと渡り合ってて俺びっくりしちゃったよ」

そう言いながら頭を撫でてやる。


……っていうか、卑下するのはやめていただきたい。背負われてるだけだった俺の立場が更になくなるじゃん?



「……ほんと?」


「あぁ!お前はすごいやつだ!ねぇマギアさん?」


「あぁ、それだけの力があれば十分、ハンターとしてやっていけるだろう。ただ君はまだ幼い、少しずつ経験を積んむことだ大切だ、焦ってはいけない。まずは現場の空気に慣れることをお勧めするよ」


お、おぉ……!!

流石ダウナーお姉さん。言ってることがめちゃくちゃ大人っぽい。


「へ、へへへ。ボク、もっと頑張るね!」

褒められて嬉しそうに笑うルウ。


うぅ、泣けてきた。健気なルウの姿と、俺の情けなさのダブルパンチで泣けてきた。

シャルを愛でて現実逃避しよ。


「シャルもありがとな!すんごい助かった」


「ん!」

いつものなでなでの催促だ。

んふふふ。これこれぇ、たまりませんなぁ。役得とはまさにこのことだ。


「よーしよしよしよし」


「ん"る"る"る"る"る"」


この振動が心地よい。これってリラックス効果とかあるらしいしね。



「マギアさんも今日はありがとうございました!」

ビシッと頭を下げで感謝を伝える。


「………」


「どうかされました?」


「…私には、何もないのかい?」


「そ、そうですね!今度何かしらお礼をさせていただきます!」

なんか俺、いろんな人に借りを作ってばかりだな。


「いや、そうではなく……」


「…?」

どゆこと?なんだか煮え切らない態度だ。言いにくいことなんだろうか?


「……いや、なんでもない。忘れておくれ」


「なんか、耳の先赤いっすけど、大丈夫ですか?」


「はは、久しぶりのクエストだから少し疲れが出たのかもしれないね」


「えぇ?!本当ですか?まじですみませぇん!街まで背負っていきましょうか?」


「……では、お言葉に甘えようかな」


「是非是非!体力有り余ってるんでね、へへ。こちらへどうぞ」

俺は膝と腰を曲げ乗りやすいように姿勢を低くして彼女に背を向ける。


まじで何もしてないからね。一人だけ元気いっぱいだと罪悪感だし。


「失礼するよ」

その声と共に体重が乗り掛かり、しっとりとした肌が密着する。


「どっすか?乗り心地問題ないですか?」


「あぁ、大丈夫だ。済まないね」


「いえいえ!全然これくらい!お茶の子さいさいですよ!」

そうして、俺はマギアさんを背負い、グリフォンを横へ侍らせながら、みんなで街へ向かう。



「兄さんがまた女の人誑かしてる」


「ばっかだなルウ。マギアさんはそう言う人じゃないの!」

俺が誑かされる方がまだ現実的だ。

というか、人を誑かした記憶がないんだけど。とんだ言いがかりだな、まったく。


「ね!?マギアさん!」


「さて、どうだろうね……」


くぅぅ。この余裕のあるミステリアスな感じ……適当にあしらわれてる感じがたまんないね!




「リュート、シャルもあとでやって」


「あ、ずるい!ボクも!」


「ははは、こらこら、俺はテーマパークの乗り物じゃないんだぞ」


流石に3人はしんどくないか?

ど?筋肉さん、いけそっすか?

(ちょと厳しいね)

知るか、俺はあの子達を背負えるなら身体の限界なんぞ越えられるんだよ。

(じゃあ初めから聞かないでね)


なんて生意気な筋肉だ。まぁ許してやろう。こういうのって協調性が大切だからね



クエスト終わりにしては随分と賑やかにしながら、俺たちはギルドへ戻るのだった。




読んでいただき、ありがとうございます。


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