急転直下
夏休みという大学ボッチにとっての天国が終わり、地獄の後期が始まってしまった。夏休みという期間にこの籠から放たれ、空を自由に泳いだからなのだろうか大学が狭く窮屈に感じてしまう。今日からまた輝く人種を横目に一日一日を過ごすことになる。
一限を終え空き時間。本来なら学友達と語らう時間も僕にとっては苦痛でしかない。友達、知らねぇ。サークル、知らねぇ。部活、知らねぇ。ゼミ、知らねぇ。ナイフ以上に尖る言葉のフォークを胸に帰巣本能よろしく喫煙所へ向かう。
喫煙所に入ると珍しく先輩以外の女性が一人佇んでいた。今日は特に講演はなかったハズなのに珍しいな。とりあえず軽く目で挨拶をする。相手もくわえ煙草で相づち程度に返してきた。こうして喫煙者同士の謎コミュニケーションを済ませ、互いに黙してモクす。
友人であるスマートフォン君とにらめっこをしていると声を掛けられた。
「君、京子ちゃんの彼氏さんやんな。」
いかにも僕こそが先輩の彼氏さんであるのだが、他者からその単語を聞くと照れてしまう。
「あっ、はいそうです。」
ここまでくると所謂コミュ障なのだろうか、思いきり動揺した声で返してしまった。頭の「あっ」が完全にコミュ障のそれだ。助けて京衛門。
先輩の知り合いらしき人は動揺する僕を見て微笑し、そして続ける。
「私は京子ちゃんと一緒のゼミの中村や。」
「いやな、最近あの子、調子良さそうやん。それって君のお陰なんやなと思って声掛けただけやから。」
良くなるとは何の事を指してだ。
疑問符が浮かぶ。
良くなったということはもともと悪かったということだろう。先輩の悪い所を一つずつ挙げてみる。顔色、悪ふざけ、意味の分からない言葉使い。うん、ありすぎて分からない。黙って考えていると
「彼氏さんなら知ってるやろ。」と更なる言葉を重ねてきた。
「良くなったって一体何の話ですか。」そう尋ねると
予想の遥か斜め上を行く答えが帰って来た。「あの子、病気で長くないらしいで。」
「ふざけんなよ。マジで。」誰も居なくなった喫煙所に言葉を吐き捨てることしか出来なかった。




