一時の夏の夢
ログイン完了の文字とともに久しぶりと言っても4日ぶりぐらいだがASOにログインしたレミは驚きのあまり言葉を失っていた。
まぁ元々無口なのであまり変わらないと言えばそれまでなのだがレミがログインするまで寝ていた魔剣も驚いて言葉を失っていたことからどれくらい驚いていたかわかるだろう。
ASOは基本的に公式ホームページやSNSで更新報告をしている。
現在はテレビではなくSNSの方が主流なので当然といえば当然の流れなのだがSNSをやっていない人物も一定数存在している。
ここにいるレミもその1人、SNSを全く使っていないわけではないがそこまで頻繁に見ることのないレミはASOの情報は基本ゲーム内のお知らせで確認していた。
しかしここ2日間は熱で寝込んでおり3日目は病院に行っていたためログインできていなかった為、最後のログインから4日経った今日が戦争後初のログインとなる。
「……どうなってるの」
部屋の窓の外を眺めながらまた面倒なことが起きる予感をヒシヒシと感じるレミはマクラを撫でて心を落ち着かせようとしている。
一方撫でられているスライムのマクラは久しぶりにレミとあったというのにレミよりも窓の外の景色に興味を示しているのかレミの手の中から窓の外をじっと眺めているようだ。
「何がなんだか全くわかりませんねー……こんなことあり得ないと思うんですけどー! とうとうバグりましたかこのゲーム! 前からちょくちょくバグってはいますけど流石にこのバグは致命的というかゲームとして成り立たないというかー何やってんの運営さーんってやつですよー!」
驚きすぎて言葉を失っていた魔剣がやっといつもの調子を取り戻したようだがまだ混乱しているようだ。
当然の反応だろう。
平原の真ん中にあるはずのハクム村からは見えるはずのない景色が特になんの説明もなく眼前に広がっていたらこうなってしまうのは仕方のないことだ。
戦争前一面に広がっていた緑の草原はその姿を消し代わりに現れていたのは夏といえばお馴染みの景色……そう海だった。
もしかしたら幻覚かもしれないと思いギルドの外に行こうと一階に降りると水着姿のハルが受付にいた。
「あー! レミちゃん! 久しぶりですね! どうでしょうこの水着に合うでしょうか?」
「どうでしょうか?じゃないですよー! なんで村の周りに海が広がってるのか説明してくださいー!」
ハルに詰め寄ろうとする魔剣を抑えつつあたりを見回すとハルだけでなくギルドにいる全員が水着を着ていた。
なんとなくどういう状況かわかってきたレミは諦めたようにため息をつく。
「あれ? お知らせに書いてあったと思うんですが知らないのならお教えしますね!」
なぜかテンションの高いハルに手を引かれギルドの外に出る。
「……眩しい」
ギルドから出るといつもより眩しくて暑い日差しが照りつけ思わず目を細める。
すぐに光になれ景色が見えてきた。
真っ青な海が周りを囲い孤島と化し、遠くの方には船が浮かんでいる。
いつもは鎧などの装備を着ている冒険者も皆水着姿になっている。
「ようこそレミさん! 元はハクム村でしたが今は夏イベ真っ最中! というわけでハクム村も夏バージョンになりました! ハクム島です!」
戦争の傷跡など何処へやら運営の欲により突然変わった一時の夏の夢。
ASO夏イベここに開幕!




