終幕に音あらず
明らかにこの世界には似合わないスーツ姿の男はなぜか嬉しそうにレミの方を見つめる。
「……」
笛の音を止めはしたが相変わらず虚な目のままレミは再び笛を吹き始める。
「なるほど……意識自体はないのか」
男は少し残念そうにため息をつくと指を鳴らした。
「……⁉︎」
途端に笛の音がかき消され周りから音が消える。
風に舞う葉はまるで空に固定されたかのように動きを止めた。
虚な目のまま驚いた様子を見せたレミは男から距離を取り男を睨む。
どうやら男を敵として認識したようだ。
「ハハハ! そんなに警戒しないでくれたまえ! 私はただ指を鳴らしただけだぞ?」
何がおかしいのか笑いながら男はレミに近づく。
それを攻撃と捉えたのか再び笛に息を吹き込むレミ。
音が刃となりスーツの男に襲いかかる。
「ふむ……なかなかに強力な力だが……残念ながら私には届かんな」
音の刃は周囲の木々を切り倒しながら男に命中した。
その刃は確かに男を真っ二つに切り裂いたが男の体はすぐに元に戻る。
「……」
「驚く事じゃないさ、君がやったのは空高く飛ぶ鳥の影を切ろうとしたのと同じことだ……切れないのは当たり前だろ?」
歩みを止める事なくレミとの距離を詰めるスーツの男。
再び距離を取ろうとするレミだが何故か体が動かないようだ。
「すまないね、残念ながら君たちのいるレイヤーは固定させて貰ったよ」
レミのすぐそばまできたスーツの男はレミを見下ろすとその頭に手を置いた。
「なに、怖がることはない……少しだけ眠って貰うだけさ」
その言葉と同時にレミは深い眠りに落ち地面に崩れる。
先程まで持っていた笛はいつのまにか消え失せ世界は再び動き出した。
「あ、あれ? 一体なにが……ってレミさん!? 大丈夫ですかレミさん!」
「安心したまえ、眠っているだけだ」
「んにゃ! なんか変な奴がいるにゃ! いつの間に現れたんだにゃ!」
スーツの男に注目がいく。
男は少しおかしそうに笑うと丁寧にお辞儀をした。
「ハハハ! まぁ私の事など気にする必要はないさ! 私はただの観客、プレイヤーではないからね! ただ今回は少しばかし危ない事が起きたから止めただけさ」
「とりあえず敵ではないのね?」
「まぁそうなるね」
「い、一体何者なんですか……」
「んーそれは今は言えないかな、ごめんね!」
どこか怪しげな男はそう言うと再び指を鳴らした。
すると今度はプレイヤー達の体から光が発せられる。
「な、なんにゃ! なんか光ってるにゃ!」
「なに心配しないでくれたまえ! ただの強制ログアウトだ! あ、そうそう今回はこちら側の不手際だからね、報酬についてはちゃんと配布しておくよ! それではまたどこかで」
男が再びお辞儀をするとレミ以外のプレイヤーがログアウトした。
「……さてと……ある程度説明はして欲しいものだね?」
少し呆れた様子で魔剣に話しかける男。
「……説明することは特にないですよーだ! 別にルール違反はしてませんよ〜!」
「まぁそれを言われたらそうだけど……まぁいいか……それよりあの笛はどう言うことかな?」
諦めたのか別の話題に切り替えると男は地面に腰を下ろし魔剣を手に取る。
「……私も具体的にあれが何かはわかりませんね〜」
「本当に?」
「え、ええ〜もちろんですよ〜」
疑いの目を向けられ魔剣はわざとらしく誤魔化そうとした。
男は再びため息をつくとやれやれと言う様子で立ち上がり魔剣を地面に突き刺した。
「……まぁ君が自分の意思でそう言う嘘をつくのは珍しいし今回は特に追求しないけど……次なにかあったら手は打たせて貰うよ?」
「……万が一次があったとしてもレミさんに手は出させませんよ」
「……君が彼女にこだわる理由はよく分からないが自分の役割を放棄してまでやったことだ……最後まで君がやるべき事だと思うけどこちらも立場があるのでね」
男は余裕そうに笑みを浮かべるともう一度指を鳴らし姿を消した。
魔剣はまだ警戒した様子のまま光に包まれログアウトしていくレミを見守った。
「全プレイヤーログアウトを確認しました」
「……わかった。 メンテナンス作業を始めてくれ」
「了解!」
想定外のバグはなんとか収束したようだ。
しかしこのバグ原因はわからないままだ。
そもそも本当にバグだったのだろうか?
誰かが意図して起こした事なのではないだろうか……
しかし外部からのアクセスがあった記録はない。
考えられる可能性としては内部から管理AIに対してアクセスしたもしくは開発の段階で仕組まれていたか……
いやどちらもありえないな。
内部からアクセスする方法は存在しないしプログラムの最終確認を取ったときにはそんなもの仕組まれていなかった……はずだ。
ではなにが原因なんだ? これも例の国からの依頼に関係あるのか? そもそも何故社長はこんな依頼を受けたんだ?
「……分からないな」
「ハハハ! そんなに怖い顔をするなよ開発主任」
「……社長でしたか」
「なにを考えてるか知らないが悩んだって分からないことはあるさ」
「……そうですね」
社長はどこかからかうような笑みを浮かべるとそのままどこかに行ってしまった。
そもそも何故まだできてまもない株式会社グリードに国から依頼がきたのかも不思議だ。
夢野薫社長……やはり何か重大なものを隠しているのではないか。
そもそもSDOの開発を提案したのは社長だ。
その後国から正式な依頼がきたことを考えるにあの社長と国がつながっているのはほぼ確定だろうが……
「……考えても仕方がないな……何はともあれ戦争イベントは終わった。 今は事後処理を優先するか……」
こうして戦争は謎を残したまま幕を閉じた。
しかしこれは戦いの終わりではない事を忘れてはいけない。




