戦争の終わりと蹂躙の始まり
容赦など微塵もなく、確実に仕留められる威力の攻撃魔法。
速度、威力共に魔王の名に恥じない圧倒的な力が炸裂する。
目の前にいるのはNPもHPも尽き動けない獲物。
敵の頭を叩けば目的の達成は容易になりこの戦争は終わる。
しかしそう簡単にことが運ぶわけもなかった。
「なんじゃ!?」
魔法を打つと同時にあり得ない攻撃をくらう。
目の前に割って入ってきた黒い影はまるで主のピンチに駆けつけたか騎士のようだ。
「メモリー……プロテクター……ギリギリ……間に合いましたね……」
「本当にギリギリでしたがね……条件は満たされました」
黒騎士は魔法を払った剣をまっすぐ構える。
魔王の空間支配の能力によって動けなくされていた黒騎士だがレミの反転をRの妖精を介して使うことで空間ごと入れ替えて抜け出したようだ。
魔王の空間支配は座標を参照するタイプの能力だったため指定座標内に存在するものにしか影響しなかったようだ。
Rの能力もレミの反転も知らない魔王からすれば何もない空間にいきなり倒したはずの相手が現れたことになる。
しかも自身の能力を訳もわからず無効化されて……
「まだ足掻けるだけの力があるとはの……しかしその黒騎士のNPCが1人増えたとて妾には勝てぬぞ?」
魔王の言う事は傲慢でもなんでもなくただの事実だ。
Rが動かなくなるリスクを承知の上で救出した黒騎士は魔王の攻撃を払えるほど強いがNPC故にデザイアウェポンが使えないと言う欠点がある。
魔王の空間支配の能力がある限り勝ち目は存在しないのだ。
「いいえ……1人でもいればいいんですよ……」
「お主体が……溶けていくじゃと……なんじゃその能力……」
通常の死亡エフェクトとは違いRの体が溶けていく。
今まで見たことのない現象に魔王が戸惑っていると溶けた体は黒騎士に吸い込まれていく。
[リプレイ……完了……新たなる欲望の発現を確認……進化条件クリア……デザイアウェポン、メモリアルノート進化を検証……成功……新デザイアウェポン、メモリアルノート・アンビション始動]
Rの持つ本からシステム音声のような感情のない声が聞こえると同時に黒騎士はその姿を完全にRへと変化させ魔王に向かって魔法を放つ。
元の黒騎士の面影などなくただ全回復したRがそこには立っていた。
「……なにその能力!? 気持ち悪い!?」
思わず素の状態の自分が出てしまう魔王シージュは目の前で起きたグロテスクな光景に混乱しRの攻撃を避けきれなかった。
「おやおや動揺しているようですね〜?」
「あ、あり得ないのじゃ! ゲームのシステム的にどのような能力であれ死亡した上で完全復活する能力など存在しないはずじゃ!」
このゲーム、基本的にデザイアウェポンに付加される能力はチートと呼ぶにふさわしい能力ばかりだが絶対に逆らえないルールがある。
どの武器も改変できるシステムは一つだけというルールだ。
魔王の空間支配やレミの反転は広範囲のオブジェクトを変更する能力、ミケやFの能力はプレイヤーに対する高倍率なバフ、クロネやベルの能力は強力なデバフなどゲームのシステムの一部を改変するようなものだがRの能力は明らかに複数の能力を組み合わせたものだ。
死んだ後に蘇るのはプレイヤーに対するバフだが他のNPCの体を使って蘇るのはオブジェクトの変更つまりRは1人でデザイアウェポンによるオブジェクト変更と自身へのバフを行なったことになる。
「有り得ないですか……それは間違いですねー」
「どういう事じゃ……」
「人の欲望は決して一つではないのです! 時間が経てばいくらでも増えるもの、尽きる事なくただ増え続けるものが欲望ならばそれらを全て叶えるように進化しようとするのは必然ですよ? 何のためにNPCだけでなく最初に配布されたこの武器にAIが搭載されていると思っていたんですか?」
そんなことにも気付いていないのかと呆れるように魔王に言い放つRは魔王が何か言うより先に攻撃を仕掛けた。
さっきと同じように空間支配で打ち消そうとする魔王だがRの魔法を無力化することができない。
「無理ですよ〜? あなたの欲望では私の欲望に塗り潰されるだけですので!」
「なぜじゃ! さっきまでは確かに……」
「言ったじゃないですか進化したんですよ! 私の武器!」
何度魔王が世界を作り直そうともそれら全てを破壊してRの攻撃が魔王に当たる。
先程までとは全く逆の構図になり立て直すために逃げようとする魔王だったがある程度離れたところで強制的に戻される。
「空間支配でもないのにどういうことじゃ!」
「私の能力ですよー! 一度見たものの位置を記録し好きなタイミングで発現させられる便利な能力です! さっきまでは私の召喚したものや放った魔法にしか使えませんでしたが他の人も捉えられるようになったみたいですね〜!」
新しいおもちゃを手に入れた子供のように笑うRに恐怖を覚える魔王。
「それでは終わりにしましょうかー? 今回の勝負は私の勝ちということで!」
止めを刺そうとしたその時、戦場に警報音が鳴り響いた。
「何ですかー? いいところなんですけど〜?」
[運営より戦場イベントエリアにいるものに警告。 ただちにログアウトしてください! イレギュラーが発生しました! イレギュラー発生! 安全のためにプレイヤーの皆様はすぐさまログアウトを!]
「なんじゃなんじゃ!?」
AIが運営しているこのゲームで運営会社側つまり人間の運営者がゲームに干渉する事はほぼ有り得ない。
個人単位ならまだしも戦場全体に鳴り響く警告を使っていることから余程の緊急事態だと判断しRは攻撃をやめる。
「……一時休戦しましょうかー何やら変なものがいるみたいですしー……」
「そのようじゃな……戦いに集中しすぎて気づいてなかったのじゃろうか、さっきまでは感じなかった普通の魔物とは違う気配が辺りにあるようじゃな……」
辺りを警戒していると空間に穴が開きそこからバグで出来たような歪な魔物が現れた。
明らかに空を飛ぶ能力を持っていない魔物だがまるで空中を歩くように魔王達の方に向かってくる。
「何ですかあの出来損ないみたいなの数も多くて面倒そうですね〜?」
「見たことない魔物じゃな〜警戒した方が良さそうじゃ……」
トーカが操る魔物とは比べ物にならないほどの大群が魔王達に襲いかかる。
「何なんですか〜! こんな魔物私のデータベースに存在しないんですけど〜! クソボッチ達が何かやったんですかー!?」
「何もしてないわよ! それにしても数多すぎないあれ……」
同時刻。
レミ達も同じように謎の魔物に襲われていた。
警告音が鳴り響いた直後から変な気配が現れたのにいち早く気づいたレミとミケはすぐさま現れた気配から遠ざかるようにクロネ達の手を引いて魔物が見えなくなるところまで距離を取ったが一瞬見ただけでもかなりの数がいるのがわかった。
「数が多すぎますしこれ逃げ切れないですよー! さっきの警告通りログアウトした方がいいと思うんですけどー!」
「さ、さっきから試してるんですけど……」
青ざめた様子のベルを見て察する一同。
「えーそんなベタなことありますかー!?」
魔剣も知らないイベント……というかバグに慌てているのかいつものような余裕がない。
「どうするにゃこれ……」
「どうするって……」
ミケが心配そうにクロネの方を見る。
クロネの方は弓で鍛え上げた視力で魔物を観察していたがどう見てもこっちに向かって走ってきているのがわかる。
「逃げるしかないわよ!」
バグったような魔物の大群から逃げる4人。
「……蹂躙を開始する」
微かに後ろからそんな声が聞こえた気がするレミは声の聞こえた方に振り返るがいるのは魔物だけだ。
「レミ! 早く逃げないとやられるわよ!」
クロネの声にうなづいて答え逃げるのを再開するのだった。




