静けさと囁き
「……」
戦場が収束に向けて動く頃トーカは魔王の援護に向かわず妙な気配がする森の方を目指していた。
自身の操る魔物達は何かしらの要因で死亡した際トーカに魔力として吸収される。
トーカとトーカによって召喚された魔物達は魔力を渡すルートが必要になるためリンクしているせいかお互いの位置ぐらいは感覚でわかるのだがさっきから森の方で死亡した魔物からの魔力が途中で消えている。
こんな現象は初めてのため困惑しつつ何が起きているのか確認のために急ぐトーカ。
「この辺りのはず……」
最後に森に放った魔物が死亡した場所にたどり着くがそこには死体一つ存在しない。
それどころか争った後や魔物の血痕なども残っていない。
周りを警戒しながら辺りを探すがやはり魔物の死体は発見できなかった。
敵が大型の魔物なら食べられてしまった可能性もあるが仮に食べられたとしても周りに食べカスの類が落ちているのが普通だし、そんな大型な魔物が移動したら周りの木が倒れていないのは不自然だ。
「何が起きてるの?」
不自然なほどの静けさを放つそこは異様な死の気配に満ちていた。
「おりゃ! おりゃ!」
「レミさん大丈夫ですか! この悪魔眠気でフラフラのレミさんに対して連続攻撃とか容赦なさすぎますよー! おまけに叩いた地面が凍ったり、火を吹いたりして危なっかしいです!」
「す、すみません! で、でも私も負けたくないんです!」
眠気で動きが鈍ったレミを魔剣が無理やり引っ張る形で攻撃を避けている。
当然ながらそんなことがいつまでも通じるわけではないし一刻も早く援護してもらいたいところだが。
「うにゃ……レミ……」
「よそ見してんじゃないわよ!」
ミケの方はクロネに完全に動きを封じられてしまっているためとても援護ができる状況ではない。
カウンターを狙って度々攻撃を仕掛けはするがあまり力を込めて攻撃しすぎると撤退が間に合わなくなってしまうため一撃一撃の威力がどうしても弱くなってしまう。
「ミケさんも苦戦してますし援護は無理そうですよね〜……というかレミさん反転まだ使ってないんですから使いましょうよ! 反転を使えば逆転できるかも!」
奥の手として残している反転で眠気を反転させればすぐに元の状態になるのはわかっているレミ。
しかし反転を使おうとするとまるで警告を放つかのように体がそれを拒否しようとする。
獣人故の野生の勘というやつだろうかとにかく今使うべきではないと訴えかけてくるような感覚に陥るため今は使わないことにしているようだ。
「当然レミさんの感じてるものは分かりますけど今はそんなこと言ってるというより考えてる? 場合じゃないですよー! こんなところで負けてる場合じゃないんですからー!」
魔剣の言うこともわかるレミ。
確かにここで反転を使わなければそのうち体力と精神が限界に達してやられてしまうのはわかり切っている。
ミケ一人でこの二人の相手をするのは流石に無理だろう。
決断を迫られる中レミ達に付き添って飛んでいた妖精から声が聞こえてきた。
Rが通信機代わりにと召喚した妖精は耳元で囁くような声を出す。
「レミさん……そっちもピンチみたいですね?」
「やっときましたか! こっちは大大大ピンチです〜! 早くなんとかしてくださいよー!」
攻撃を避けながらもしっかりRに文句を言う魔剣。
もはや呆れる余裕もないレミは特に何も考えずに魔剣の声を聞き流す。
「こっちは魔王相手なんですから許してくださいよー? 攻撃避けながら通話するのはだいぶ厳しいですので要件だけ……このままだと城壁は数分程度で落とされる可能性が高いと思われます……できれば援軍に来て欲しいんですけど〜ダメですかね?」
「何ふざけたこと言ってるんですかこの詐欺師〜! 魔王が相手だか知りませんけどこっちだって援軍が欲しい状況なのにそっちの助けになんて行けませんよー!」
珍しく魔剣と同じ意見のレミ。
眠気がなければ怒っているところだった。
「まぁそうなりますよね〜……では他の頼みを……レミさんの能力をこちらから遠隔操作で発動したいんですけどいいですか?」
「そんなことできるんですか〜? こう見えてもセキリュティロックは万全な魔剣ちゃんですからそう簡単にアクセスされませんけどー? だいたいあなたに反転使われるとレミさんのNPがなくなって反転使えなくなっちゃうんですけど!」
やり方自体はわかっている様子の魔剣は自身のセキリュティでマウントを取りつつNPの心配をしている。
レミには全くやり方がわからないというか考えられる余力がないようだ。
「そこは以前の魔王軍との戦いの時にもやったと思いますけど私のNPをレミさんに分けて回復しますので問題ありません! なのでここは一つお願いします」
「はいはいわかりました〜! でももう一つ条件つけますよー! レミさんのNP回復を二回やってください!」
「本気で言ってるんですかそれ……わかりましたよなんとかします! ではいきますよ〜!」
Rがそう言うとレミの体の中に変な魔力が流れ込んでくる。
ベルはレミが反転を使おうとしているのに気づき距離を取る。
Rの魔法で強制的に反転を発動させられる。
妖精に向かって放った反転だが妖精にはなんの変化もない。
続けてすぐさまNPが回復され反転が使えるようになる。
「レミさん今ですよー! 反転で眠気を消し去りましょう!」
「……反転!」
魔剣に言われるがまま自身に向けて反転を放ち眠気を消し去る。
先ほどまでの異常なほどの眠気が消えとてもスッキリした気分のレミにまたNPが供給される。
「ありがとうございます! 流石にNP使いすぎましたしこのままだと次の手に影響しますので魔力使用量軽減のために妖精を消滅させますね〜あとは頑張ってくださいね〜」
「ちょっと待ってくださいよー! 妖精消されたらこの後何かあったときに連絡できないじゃないですかー!」
魔剣の訴えをガン無視し妖精は光となって消滅した。
「え、えー! は、反転を二回も使うなんてずるいです!」
「勝てば良いんですよ勝てばー! そっちのチートみたいな剣に比べたらマシですからねー! 反撃開始といきますよー!」
眠気を反転させたお陰でいつもよりスッキリした様子のレミ。
先ほどまでとは違いベルの大振りな攻撃を余裕で避け反撃をくらわせる。
「ベル! レミが反転を使ったのね! もう一回この剣で眠らせて……」
「よそ見してるんじゃないにゃー!」
ベルの援護に向かおうとするクロネを阻むミケは言い返せたのが嬉しかったのか満面の笑みを浮かべている。
「チッ……先にミケ! あんたを倒せばいいだけだから別にそっちが有利になったわけじゃないわ!」
「負け犬の遠吠えってやつだにゃー! 眠気がなければレミはそう簡単に負けないにゃー!」
レミが元に戻ったことで心配事がなくなったのかさっきよりも積極的に攻め込むミケ。
戦況は逆転せずとも精神面では完全回復を果たす二人だった。
「……なかなか器用なやつじゃな〜妾の攻撃を避けつつ支援魔法を使うとは……」
「まぁ今のでNPがすっからかんですけどね〜……」
「そうか……では終わられるかの」
魔力を指先に集めてチャージする魔王シージュ。
RはNPの使い過ぎもあるが連続戦闘により体力が尽きかけているためもう動くのもできないようだ。
しかし。
「ほぉ〜……この場面でもお主はそんな笑みができるのじゃな……恐ろしいものじゃ」
不敵な笑みを浮かべているのだった。




