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秘密会議

今日も一日、何事もなく終わる。

こんなに平和な日は久しぶりだ。

王宮での生活は中々気が抜けないからな。

とはいえ、今日は王国に戻らないといけない。

昨日、王国を出る前に友人と会う約束をしたからだ。



「カシア、今日は早めに野営にしよう」

「かしこまりました」



隣で馬を操っているカシアに声をかけると、カシアは適当な場所で馬車を止めた。

昨日と同じ様に野営の準備をし、カシアに一声かけてから王国に転移した。






―― ゴーデルク王国 ――



「この手紙は何だ?」



ゴーデルク王国宰相の息子、セルジオの部屋に転移するなり、そう声をかけられた。

セルジオは小さい頃からの友人で、信頼できる人物の一人だ。

パンゲロニカ帝国を出た後、ゴーデルク王国に戻った時に今日会おうと予め手紙を渡しておいた。

人払いをしておいてもらえるよう頼んでいたこともあり、今部屋にいるのはセルジオだけだ。

とりあえず、部屋全体に音声遮断、部屋の周囲十メートルには空間把握の時空魔法をかける。

音声遮断はそのまま周りへの音を遮断する魔法、空間把握は範囲内にいる人間や魔物等を把握する魔法だ。

これで盗聴対策はばっちり。



「何って……、お願い?」

「こんな内容で分かるかっ!」



突きつけられた手紙には「おばさんとおっさんの繋がりを探っといて。明日の夜、部屋に行く」と書かれてある。

誰かに見られても大丈夫な様に書いたのだが、セルジオにも理解できなかったようだ。



「いやー、実はさ、リズターシャに婚約破棄されちゃって」

「何っ?」



俺はセルジオの前のソファに腰を下ろし、パンゲロニカ帝国でのことを説明した。

お茶会で婚約を破棄されたところまでは静かに聞いていたセルジオだったが、ルシオとリズターシャが婚約することになったという話を聞くと眉を寄せた。



「あの第二王子(ばか)は家臣の婚約者だけでなく、遂に兄の婚約者にまで手を出したのか」

「あー、うん。そういえば、セルジオの妹も……」

「ああ、そっちの愚妹(ばか)は修道院に入れることが決まった」

「え、そうなの?」

「今までは大目に見ていたが、周りの反対を押し切り、第二王子(ばか)の後を追いかけて他国にまで行くような尻軽は我が家にも、相手の家にも不必要だ。戻って来たら婚約を破棄し、修道院に入れるよう、両家で同意済みだ」

「そ、そうか。他の家もそうなるのかな?」

「どうかな?我が家ではこうなったが、貴族同士の結婚など政略的なものが多いからな。力の強い方が問題無しと見れば、婚約は継続されるだろう」



誰かに聞かれれば立派に不敬罪に問われそうなことを言っているが、それも仕方がない。

あの日、ルシオの周りにいたうちの一人はセルジオの妹だ。

セルジオの妹は前々からルシオに憧れていた。

もちろん、決められた婚約者がいたが、パーティ等でルシオを憧れの眼差しで見る程度であったため、見逃されていたようだ。

風向きが変わってきたのは、ここ一、二年の話だ。

ルシオの方から、ちょっかいをかけて来ることが増えた。

どうも、その辺りでセルジオの妹の憧れは恋心に変化したらしい。

ルシオに対する態度が少々目に余るようになって来たため、態度を改めるよう家族で諭していたようだが、今回、家族の反対を押し切りルシオについてパンゲロニカ帝国に行った事で遂に見切られたようだ。

あのお茶会にはセルジオの妹の他にも何人ものご令嬢がいたが、全てではないにしろ、これから同じ様な騒動が起こるのかと思うと少し頭が痛い。



「なんか、色々なところで軋轢を生みそうだな」

「今更だ。それよりも、この時間にここにいるってことは舞踏会は……」

「ああ、欠席したよ」

「ほう」



あっさりと言うと、いい笑顔で笑うセルジオの背後にどす黒いオーラが見えた。

うん、何て言うか、笑いながら怒るのって、めちゃくちゃ怖いんだな。



「いや、だって、出席したら間違いなく針の筵だぞ」

「貴様なら、それ位平気だろう」

「いくら俺でも、そこまで精神強くねぇよ!」



帝国の舞踏会に何人出席すると思ってるんだ!

広間で何百人という人間にプークスクスってやられたら、立ち直る自信ないわ!



「それで、貴様が舞踏会から逃げ帰って来たのは分かったが、このおばさんとおっさんってのは誰だ?」

「うちの王妃と皇帝陛下に決まってるだろ?」

「分かるかっ!」



逃げ帰って来たって……、うん、まぁ、当たってるけど。

気を取り直して、ルシオとリズターシャの婚約からのバッドエンド予測について話した。

それを聞いたセルジオは、少し考え込んでから口を開いた。



「無い話ではないな」

「だろ?ただ、それだけなのかなって思ってさ」

「それだけとは?」

「いや、国を乗っ取るのだけが目的なのかなぁと思って」



国を乗っ取るだけなら、俺でもいい様な気がしたんだよ。

自慢じゃないが、昼行灯と呼ばれている俺だ。

俺が王となっても、傀儡にすることだって考えられるだろう。

にも係らず、リスクを犯してルシオに乗り換えたのは何故か?

リズターシャの心変わりは置いておいて、帝国にとって何かしら他に旨味があったのではないか。



「それで王妃様と帝国との繋がりが気になった訳か」

「そうそう。あの人、昔からルシオに王位を継がせたがっていたし。ルシオだけで皇帝陛下を動かすのって難しいと思うんだよ」



あの皇帝陛下(おっさん)、狸爺だしな。



「だが、旨味というのは……」

「うん、俺も思いつかなくて。そこでセルジオの出番なんだよ」



セルジオの家が持つ情報網は優秀だ。

それを使って何かしらの情報が得られないかなと思った訳だ。



「少し調べてみるか」

「よろしく頼むよ」

「調査結果が出たらどこに知らせればいいんだ?」

「あー、いやー、……」



言葉に詰まると、セルジオの片眉が上がった。



「お前、今どこにいるんだ?」

「えっと、セルジオの部屋?」

「ほう」

「すみませんでした、国内じゃありません」



セルジオが引き受けてくれたところで、ほっと一安心したのは間違いだった。



「どこだ?」

「えっと、ロイスダルク……」



あ、セルジオのオーラが更に黒くなった。



「ほ、ほら!帝国からここまで帰って来るのって普通は一ヶ月かかるじゃん、俺が王宮にいるのはおかしいだろ?ルシオ達が帰って来る一ヶ月の間に色々調べようと思って!」



取ってつけたような言い訳だったが、セルジオの怒りは少しは和らいだらしい。

言い訳に呆れただけかもしれないが。

溜息をひとつ吐くと、仕方が無いといった雰囲気で口を開いた。



「定期的に連絡を入れに来い。次は一週間後だな」

「わかった。じゃあ、頼むな」



これ以上余計なことを言って怒られる前に、俺はそそくさとセルジオの部屋を後にした。


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