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扉の向こうは

 僕が増田のアパートを訪れてから三日、増田が大学に来なくなって十日。

 増田がEメールで「これより四号室にて最後の交信を始める」というメッセージを僕の携帯電話によこした。それを見た僕はすぐに例の漫画喫茶へ飛んできたのだ。

 一体増田はこのことを僕に伝えてどうしたかったのだろう。「最後の」ということは僕に引き止めてほしいのか。それとも僕にもその交信の様子を見せたかったのか。はたまた最後に別れを告げたかったのか。

 そんな考えが働いたのは電車を降り、改札をくぐったあとからだ。ここに来るまではただ「行かなければならない」という使命感で頭がいっぱいだった。その使命感はどこからくるのかはわからないが見えない何かに背中を押されていたのはたしかだ。

 増田の家から徒歩十分の距離にある駅の前。そこに建つビル。一階は携帯電話の専門店になっている。そのすぐ上の二階に目指すべき場所はあった。

 どこにでもあるような全国チェーンの漫画喫茶。人類がいままでなしえなかった(そんなことはない、もうなしえていると言う人もいるが)地球外生命体との交信が、こんな場所で行われていると思うと馬鹿馬鹿しくなる。信憑性のかけらもないじゃないか。常識的に考えればありえない。

 しかし増田は本当のこと(さすがにM78星雲や光の国は嘘だろうが)しか言っていない。僕にはそうとしか思えなかった。三日前の増田の姿を見てしまったからだ。人知を超えた何かの啓示を受け、暗い部屋の中にただ一人でいるあの姿を。

 あれが演技であったなら、単なる悪ふざけであったなら。そんなかすかな期待を胸に僕は漫画喫茶の入り口となる階段に足をかけた。

 店内は何の変哲もない普通の様子だ。増田の部屋で感じた気味の悪さはまったく感じられない。本当に増田はここにいるだろうか。

 案の定、四号室はあいていなかった。レジで「どんな人が使っていますか」とたずねると店員は明らかに不審そうな顔をした。

「捜している友達がいるかもしれないんです」

 仕方なく事情を話した。もちろん宇宙人のことを口には出さなかったが、しばらく音信不通だった友人がこの店にいるということを伝えると店員は多少不審げな色を残しながらも話してくれた。

「細身で長身、二十歳前後の男性でしたよ」

 やはり顔の特徴や細かいところまでは覚えていないようで、その証言はおおまかだったが増田の人物像と一致していた。

 それにしてもこういうことを安易に話してしまうのはサービス業においてはまずいのではないだろうか。それでも話してしまうこの店員は人がいいのだろう。

「ありがとうございます」と僕が言うと、店員は「ご友人と再会できるといいですね」と送り出してくれた。


 まず五号室に入った。人捜しだとはいえお金も払わずに店に入るのには気が引けるので、形の上では四号室のすぐとなりのこの部屋を利用することにしたのだ。

 伝票を机の上にそっと置き、それから壁に視線を移した。薄い壁に囲まれた他の何者の干渉も許さない小さく狭い空間。そのうちのひとつ――、この壁を隔てた向こう側に増田がいる。

 本当のところは怖い、というのが本音だ。四号室にはもしかしたら得体の知れない怪物がいるかもしれない。そんなものに出くわすことになれば僕はとても正気を保っていられない。しかしこのまま増田がどこかに行ってしまうのも嫌だ。最後に言葉を交わすことも顔を見ることもできず、気味の悪い不可解なEメールだけを残して去っていく。そんな別れ方はしたくない。

 ふとそこで別れ方について考えている自分がいることに気がついた。普通なら増田を連れ帰ることができるか否か考えているところだが、僕はそれができないことを前提に頭を動かしている。

(だめだ、だめだ)

 思い切りかぶりを振った。いくらか不安が頭からこぼれ落ちていったと思う。

 宇宙人か何かよくわからない奴らにあいつをとられてたまるか。僕は増田と一緒に帰るんだ。あいつは僕の友達なんだから。

 五号室から出た。目を移すと四号室の扉がある。そしてその前に立ち、意を決してその扉を開いた。




 まんまと騙された友人が部屋に入っていくのを見て、増田は声を殺して笑っていた。

 今日は彼の誕生日である。増田は今日のために十日前から演技を続けてきた。ありもしない噂話を吹き込ませ、大学を休み、あたかも本当に自分が宇宙人と交信をしているかのように見せた。そしてまさに今、「ドッキリ大成功」と書かれたプラカードを手に四号室に入ろうとしている。

 この日のためにここまでやる自分はどうかしているかもしれない。増田は薄々そう感じていたが、あの友人の驚いた顔を見ることができればここ数日の努力も欠席した講義も惜しくない。

 そう考えている間に時計の針が一周してしまった。おかしい。増田がいないなら彼は一分もしないうちに部屋から出るはずだ。中で何をもたもたとやっているのだ。とうとう増田はじれったくなり、四号室の扉を開いた。

「えっ?」

 思わず声をあげた。

 信じられない。彼がここに入るところはこの目でしっかりと見た。そして四号室の入り口から目を離さなかった。誰か出てくるところは見ていない。なのになんで――、

「なんで、誰もいないんだ」

こんなに短いものを終わらせるのにもこんなに労力が必要なのですね…



これはこのサイトで初めて投稿した作品なのですが、読み返すとところどころガタガタでした

なので「ここを直した方が良い」「この部分が良かった」といった点があればぜひ教えて下さい

お願いします


そして最後まで読んでいただき、ありがとうございました

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