17 大きくなったね。
「パイセン! 前から来てます!」
足が速い辻村さんに追いつく前に辻村さんに警備員さんが集まってきてしまった。
このままじゃやられちゃう!
「分かってるよ。妹に心配させるとは兄失格だな」
辻村さんは向かってきた警備員さんに対してみぞおちや股間にしっかりと攻撃を入れている。
どれも私が受けたら気絶レベルになる。
でも、アイツらは鍛えている身で、数人が気絶までは行かなかった。
「パイセンは危なっかしいんだから」
でも、これだけの時間稼ぎ、私はもう辻村さんの所に着いちゃったよ?
私は辻村さんの口に布を当てて吸い込まないようにしてから奴らに睡眠薬(スプレータイプ、効果一時間)を振りかけた。
「誰があなたの妹になりましたか」
「そっち?」
辻村さんの言った『妹に心配させるとは兄失格だな』は同じく秋晴の台詞。
「はぁ……先輩、危機感あります? そんなだったらいつか死んじゃいますよ!」
「気を付けるようにする。……ちょっとごめんね」
そう言って辻村さんに腕を掴まれたと思ったら投げられた!?
投げられた先はイイチくんがいる方向で、追い詰められてる!
体勢を整え、走り出すけど、間に合わない!
『R! 睡眠薬を投げろ! E! 口を塞げ!』
Kの指示が来てすぐ、私はウエストバッグから楕円体の球を投げる。
Eのいる近くの壁に球がぶつかり、プシュ―――ッ! という音と共に白っぽい粉が出てくる。
これはボタンを押してから十秒以内に衝撃があると睡眠薬が飛び出る特殊なタイプ。
「イイチくん!」
イイチくんの所に駆け寄る。
「……それ、睡眠薬でしょ? 大丈夫?」
「これは人体に害はないです。イイチくん……?」
「だい……じょ……」
吸っちゃったか……。
『俺の指示が遅かった。すまない』
「……辻村さん。ちょっと外します。製作者に話を聞きに行ってきますね」
「持って帰っちゃうかもよ?」
「あなたの形見を盗らずに、ですか?」
「……わかった」
辻村さんはEを連れて帰らない気がする。
もしそんなことがあっても、Kとは通信がつながっているし。
「あれの材料って?」
『魔界の材料と言っていたな。一番効きがいいらしい』
特殊なタイプの構造を作ったのはKだが、睡眠薬自体はEが作った。
『人体には害がないんだろ?』
「うん。基本はね」
どのタイプかは分からないけど、よく使われる魔界の睡眠薬はいくつか種類がある。
ノイーラ、グルナーゼ、シュエオール。
どれも人体にも悪魔にもヴァンパイアにも害はない。
ただ、グルナーゼとシュエオールは妖の半分ぐらいは大体アレルギー反応が出る。
人外も見てくれる病院に行かなきゃならない。
一番厄介なのはノイーラ。
必ず見た目が幼くなるか中身が幼くなる。
どちらも効果は十分前後だけど、見た目が幼くなったら一時撤退だ。
それぞれの特徴を話してから辻村さんとEの所の戻る。
「すみません、調合者がEなので詳しくは分からないとのことでした。変化は……ああ……」
「大アリだよ」
イイチはこわばった表情で震えている。
ノイーラの中身が幼くなるタイプだったか。
体が幼くなるという最悪の事態ではない。
どう動くかはKにゆだねられる。
「……ゆ…………ず……?」
Eは私を見て震えながらもそう言った。
「ゆず、大きくなったね。身長も……大人になったの? 警察官……? 何であの時いなくなっちゃったの?」
質問攻め……Eの……蓮の知り合いと似ているのだろうか。
もしかしたら私の母のことを言っているのかもしれない。
まあそれは時系列的にも、呼び方的にもあり得ないか。
もしかしたら……ないか。
私は蓮の目線と合わせる。
「……ごめんね。私は”ゆず”さんじゃない」
「アルちゃんはアルちゃんだもんね」
言い忘れてたけど、ノイーラの中身が幼くなる場合幼くなるところまでの記憶が一時的に無くなる。
アポトなんとか4869みたいなだけじゃないってこと。
「さあ、どう動きましょうか……」
『……今日は撤退も可能だが……』
可能性を残されちゃいましたか……。
「先輩。貴方に良心があるなら撤退したいと思っています」
「……」
「でも、今の状況は数十分すれば治ります。時間がないのでこのままいくことになりますが、できないわけじゃないです」
立ち上がって辻村さんの目を見る。
「どうしますか?」
「残念ながら僕にそんな良心はないみたいだ」
鬼め。
「ハァ……情報を与えてばっかですね。わかりました。それじゃあパイセン! 貴方のクソ親父に売られたという母の形見、取りに行きましょう!」
「いなくなったりしない?」
「大丈夫。離れたりしないよ」
私の手を握り蓮はそういう。
「夫婦説もありだな」
「ないです」
♢♢♢
『右に曲がって突き当りの部屋にタゲアリ。警備員3名、かなりの武道の名手』
「曲がって突き当りの部屋……そこに保管されているそうです」
小声で辻村さんに伝える。
相変わらずだが時間が押しているのでここまで急ぎ足で来た。
ここでの戦闘は避けられないそうだ。
そして睡眠薬は残り一人分、ハンカチタイプだけ。
「……あっ」
蓮が転ぶ!?
今度は支えられたけど、この静かな場所でそのボリュームは向こうに聞こえちゃう……!
「……」
マズいな。気が付かれた。
こっちに来ている。
「イイチくんが元に戻るまで耐えられますか?」
「……運があれば、かな? アルちゃんは逃げてもいいからね?」
「そっくりそのままお返ししますよ。貴方がここに来る理由はない」
小声のまま話し続ける。
蓮を後ろに下がらせておく。
「……逃げる気はないよぉ?」
「二言、あっていいですからね……」
『……来るぞ』
Kの合図から二秒もしないうちに体ではなく……腕が伸びてきた……!
弾き返して胴体めがけて拳を飛ばす……掴まれた!?
私の前腕が強く握りしめられた。
(痛い……!!)
「女の子の手を握るときは優しく、ね?」
「……! 察!?」
向こうが私の服を見て気が付いたようだ。
「パイセン!」
最初に腕を伸ばしてきた奴が辻村さんを強く蹴られた!
「ケケケッあばらが数本逝ったよ」
「パイセン!」
「僕は……こんなのじゃくたばらないよ……?」
かなり痛そうな顔してますけど!?
そう思っていたら私のポケットにあるものを入れてきた。
「チッ……仲間は何人いる?」
「さあ? 下にいっぱいいるかもね~……」
『スピーカーをオンにして辻村の無線を借りろ』
「……突撃チームです。中はもぬけの殻でした」
辻村さんの腰についている無線を借り、私が持ってきたスピーカーからKの声で「了解」と聞こえた。
「逃げねえように足も折っとけ」
『……R。――――――――――』
「……」
さっき辻村さんにもらった「あるもの」を一人の両手にカシャリとはめる。
「刑法第204条。人の体に傷害した者は、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。って知ってますか?」
「は?」
「それにより四月一日忍、十六時三十七分逮捕」
って言っても、私にこいつを逮捕する権限はない。(詳しくは後書きへ☆)
でも、警察の格好で自分のやっていることを理解できるなら騙されるはずだ。
ちなみに名前はKから。
「ふざけ……」
手が塞がっていても暴力的で身体的差が大きすぎるから睡眠薬を使って眠らせる。
残りは一人。
ほぼ私一人でどこまで動けるだろうか……。
初っ端拳が飛んでくる。
「いやあ、危ない危ない……」
「くそおおおおぉぉぉッ!!」
声でか……と思っている暇なく次々と飛んでくる攻撃に対して避けるしかできない……!
「アル……ちゃん……」
「動かないでください……!」
立ち上がろうとする辻村さんに気をとられてしまった。
ちょっと視線を動かした隙にやつの拳が……!
「ごめん、R。迷惑かけた」
受ける覚悟で固めた腕の奥にはEに止められた拳が目の前にあった。
「……心配かけさせないでよ……」
すぐEの拳がやつのみぞおちに向かう。
「クソッ!!」
Eが持っていた眠り薬であっという間に眠りこける。
「……パイセン、カッコ悪いですよ?」
「まあね……アルちゃん!」
手錠をかけた方が私の腕を握っていた。
「あら、起きていたの。熊も眠る睡眠薬のはずだけど?」
イイチくん、転んでばっかだね。
~私人逮捕って知ってますか?~
私人逮捕とは、
警察官などの捜査機関に属さない一般人が、現行犯の状態にある人を逮捕できる制度、
のこと。
電車内での痴漢事案などで、
私人逮捕が事件解決に貢献しているという統計もあり、
市民の力で犯罪を防ぐ重要な手段となっている。
作中、Rが言った通りRには私人逮捕の権利はありません。
私人逮捕をするには条件があるそうです。
一・犯人が現行犯人、準現行犯人であること。
これはクリアしてます。
目の前で蹴られ、骨も折れてるらしいので。
二・犯人を取り押さえる必要があること
(逃走の可能性、危険性がある場合など)
今回はKが名前、住所などの個人情報を把握しているため、この点は微妙ですね。
そもそも軽度の犯罪に「警察官でもないのに警察官だと名乗る」というものがあるりますけど、
RとEは名乗ってないので。
あくまで「コスプレで誤認されただけ」なので。
(マネしちゃだめよ?)
※私人逮捕で手錠をかけるのは逮捕罪として違法らしいですが、
私人逮捕じゃないセーフ……ですからね。
(とにかく良い子も悪い子も真似しないように☆)
参考:ベンナビ刑事事件
「私人逮捕とは?一般人でも逮捕できる要件と4つの事例を解説」
https://keiji-pro.com/columns/5/
翆「お兄ちゃん欲しい」
小「辻村みたいなやつが????」
翆「めっちゃ否定されててお母さん悲しいんですけど。わかってますよ。兄や姉ができたところで、大体私みたいな意地悪で偉そうでムカツク奴が生まれるだけですね」
小「自覚はあんのかよ(笑)」




