白い未来
その空間は『白』だった。 この世の全てを否定するような、 そんな空間だった。
「バレットが奴の手に渡る。 それがどういう未来を意味するか、 分かっているよな」
そこには男がいた。 男の髪は誰もが目を向けるような紅である。
その男の手の中には一粒の宝石があった。
「どう足掻いても奴等は俺には勝てない。 奴等その力を使うにはまだ早過ぎる」
男の唇が孤を描く。
突如、 男の手にあった宝石が発光した。
その光は徐々に膨らみ一人の女となった。
「イデア、 全ての価値を決める者」
女の白い裸体はこの空間と同化して今にも溶けてしまいそうだった。
「あの子達は私を救ってくれるのでしょうか」
女の頬には一粒の涙が流れた。
男は指でその涙を払うと女の耳元で囁いた。
「そりゃあ無理だ。 未来永劫に。 俺には分かる。お前は永遠の檻に身を委ねる運命なのさ」
女の顔には絶望で歪んでいたが、 まだ僅かだが希望はまだあるという気持ちはあった。
「絶対にあの子達は来ます。 私は、 諦めない」
女の声は小さかったが力がこもっていた。
男はそれを笑う。 それは何もない空間で反響した。
「そうかそうか。 お前の愚かな願いが叶うといいな。 ......散れ」
男は腰に纏った剣を取り出すと女の喉元に切っ先を向け、 勢いよく貫いた。
鮮血が男の顔を汚し、 また『白』を『紅』へ染め上げた。
「待ってるわ.......ずっと......私の、 愛し、 い......」
「賭けてみようか。 奴等がお前の願いを叶えることはできないと」
女の骸は消え、 代わりに宝石が一粒落ちていた。それを拾うと男はゆっくりと歩きだした。
「会えるのが楽しみだよ。 アルダ」
紅の狂気は愛しげに笑った。