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第5話 狼王ッ!

 現実の日本で午後6時になろうかという頃、いまだに続く朝日を浴びて緑に萌える草原では、さまざまな場所で初心者プレイヤーたちがモンスターを相手に戦っています。


「んっ、とっ、はっ、とっ、痛ッ!」


 帝都ユティの周囲に広がる草原は1~9レベルのモンスターが出るいわゆる狩り場です。


「ちょっと、しつっこいですよ!」


 帝都から離れるたびに街道から離れるたびに高レベルのモンスターが出てくるので、プレイヤー達は自分の実力から見て適正だと思われる所で、まずは戦闘に慣れつつレベルアップ出来るわけです。


 例えば僕の現在地は帝城ユティを囲むように広がる森にほど近い草原です。


 此処は4~6レベルのモンスターの出現場所で、森に入るとそのレベルは6~8へ、さらに奥の山へ向かうと8~10、というように上がっていきます。


 そして目の前にいるモンスターはLv.5モンスター『スパイクブッシュ』、異界の悪の気を取り込んだ植物が変化したモンスターで、見た目は短い手足をもつ人型の草の塊です。


 頭部が無くかわりに正面側の胸の奥には二対の赤い光が灯っており、棘の生えた50cmほどの蔦を振り回して攻撃してきます。


 蔦攻撃のスピードが速いわりに威力が低く、また移動力が低いのでいざとなったら逃げることも容易い、戦闘の練習をしてプレイヤースキルを上げるのに適している相手だとディアナさんから聞いており、4レベルになった所で挑んでみました。


 ガーディアンズでは、キャラクターの性能を決めるレベルを上げることも大事ですが、それ以上にプレイヤー自身の成長が必要だということです。


 この草原で最弱の敵Lv.1~6のモンスター『バルーンバード』は直径50cmほどのまん丸な鳥で、地上1mほどをゆっくりと移動する為にとても戦い易く、僕もすでに10羽を倒しました。


 しかしそれではいざ強い敵、動きの速い敵に遭遇した時に手も足も出ないことになりかねないので、戦い難いとされている敵と戦っておくことも大切なことだそうです。


「1の、2の、3の、4の、5っ、ここです!」


 蔦を右左右左下、と順番に振り回すのがバルーンシードの連続攻撃です。


 すでに何度か見ていたので、その最後の攻撃を避けたら反撃に出ると決めていた僕は、タイミングを読み最後の足元を狙ってきた攻撃を側転で回避、スパイクブッシュの懐に入ると連続攻撃後の硬直時間で動けないその体の中心を輝く双刃で横薙ぎにして二撃を命中させました。


「ギュウウウウ!?」


 刃が通り過ぎた後に光のエフェクトが発生し、果たして何処から発しているのか分からない怒りの声を上げたスパイクブッシュは、硬直から回復したその直後に左右の棘蔦を振り上げます。


 しかしその時にはすでに起動アクションを終えていた僕の体が青い光に包まれており、『必殺技(アタックアーツ)・トルネード』を発動、体ごと回転して双刃を振り回しさらに二撃を与えました。


 『トルネード』は追加効果『仰け反り』を与えることに成功、再び動きの止まったスパイクブッシュの頭上を飛び越えながら上から二撃、着地して互いに背を向ける形になったところで振り向きざまに下から切り上げさらに二撃を与えると、目の前にある草の塊の体を蹴りつけ反動で跳び上がって距離をとります。


「どうです?」


 そして……目の前でスパイクブッシュに幾つのもヒビ割れが走ったかと思うと、光と共にガラスのように砕け散っていきました。


「ふうっ、やっと倒せました~」


 戦闘に勝利した僕は、周囲に敵がいないことを確認して安心すると座り込んでしまいました。


 僕の体の数か所には攻撃を受けた後があり、そこから僅かにしびれるような感じがしているので、本当はすぐに回復薬でHPを回復しなければいけないのでしょうが、緊張が解けてすぐに動く気になれません。


 その意思を感知したのか、双刃も刃を成していた青い光が消えてしまいました。


 僕の装備している武器は初心者用の双刃(そうじん)で『ツインブレード』と言い、40cmほどの持ち手の両端にそれぞれ20cmほどの刃が付いている武器です。


 特徴は一度の攻撃で双刃に付いた二つの刃による二連撃が可能なこと、そしてなによりもカッコ良いことです!


 PVで見た双刃使いの剣舞がため息が付くほどカッコ良かったんです!


 一見すると刃が短すぎて扱い難いようにも思えますが、ガーディアンズの武器は総じて通常形態とMPを使用することで形を変え攻撃力を上昇させた戦闘形態があります。


 初心者用の双刃の場合は戦闘形態にすると刃を包み込むように長さ60cmほどの青い光が立ち上り、持ち手の両端にそれぞれ光の刃を持つ武器へと変わります。


 なぜこのような機能が付いているのかというと、ガーディアンズでは戦士も魔法使いも全てのものが惑星ユグドラシルの生命エネルギー『エーテル』を使い戦っている、という設定があるからです。


 エーテルはいわゆる魔力のようなものであり、守り手達は武器を通じて、魔法使いは呪文や魔法陣を通じてMPすなわち精神力(マインドポイント)を消費することで操ることが出来る、ということになっています。


 惑星(ほし)は守り手に戦う力を与え、守り手は惑星(ほし)の秩序を守るというわけです。


 なお、防具は常に戦闘状態で起動しており、その力の源として防具を装備すると最大MPが定められた数値減少することになります。


 僕が現在装備しているのは『軽皮鎧(けいかわよろい)』、鎧ではもっともMP減少値が少ない代わりに防御力はないよりマシ程度の代物です。


 とはいえ、今のスパイクブッシュとの戦闘ではかなり助かりました、最初は蔦の動きの速さに対応できず、何度か攻撃をくらってしまいましたから……。


「セイヤッ!」


 気合の声に座ったまま横を向くと『拳士』なんでしょう、12~3歳のエルフの少年がスパイクブッシュと戦っています。


 なかなか軽快な動きで蔦の攻撃を時に避け時に裁き、緑色のエーテル光を纏った鋭い突きや蹴りでモンスターを圧倒しています。


 感心してそれを見ていると、視界の右下に『LvUp!!』の表示があることに気がつきました。


 僕は「やりました」と喜びの声を小さく上げ、ウキウキしながらステータスウインドウを開きます。


 確認すると確かに盗賊のレベルが5になっていました。


 このゲームはレベルアップする度にステータスを選び成長させ、同時に特技のレベルを上げていくことで特技に対応した行動の成功率や効果も上げることが出来ます。


 先ほどのスパイクブッシュを倒すのに時間がかかったのは一撃の攻撃力が小さいからなので、攻撃力を上げるべくステータスなら『筋力』、特技なら『双刃』のレベルを上げるべきなんですが……。


  ◇

<キャラクターファイル:ユーノ>


名前:ユーノ 

種族:狼の獣人(ウルフビースト) 弱点属性:銀

職種:盗賊 <Lv.5>

才能:狼の脚<狼の獣人>、狼<盗賊>

特技:双刃<Lv.1>、軽業<Lv.2>、移動力<Lv.3>、跳躍<Lv.2>、隠密<Lv.1>


New!!:特技1レベルアップ可能

New!!:新特技取得可能

  ◇


 あ、そういえば5レベル毎に特技も取得できるんでした。


 とはいえ特技の取得は九柱神殿でしか出来ませんし、そろそろ時間も……。


「うーん、これは一度街に戻ったほうが良いで……!?」


 そう言って立ち上がった時、不意に背後の森の奥から圧力のようなものを感じて振り向くと、先ほどのエルフの少年拳士もまた森を見つめているのが目の端に見えました。


「…………」「…………」


 いつの間にか周囲には静寂が訪れています、時折聞こえてきた鳥の声もなく、適度に現れていたモンスターもこの一帯にはいません。


 ほんのすこし離れた場所では今も僕達のような初心者が戦っている小さな姿が見えるのに……彼らの織りなす騒乱すら聞こえない、静寂の空間です。


「…………」「……来た」


 僕はそれを見て息を飲み、エルフの少年拳士は小さく呟きました。


 森の奥、暗がりから音一つ立てずに一体の獣が現れました。


 一見するとごく普通の灰色の狼のように見えます、しかしその体はおそらく3m近い巨体で、黄金色の目が僕達を値踏みするように見ており高い知性を感じさせます。


 そしてなによりも、他の生物を圧倒する凄まじいまでの生命力がこの距離でも肌を焦がすほどに感じられ、目の前の狼が今の僕とは次元の違う生き物なのだということを思い知らされます。


「まさか、北の狼王(おおかみおう)? ……なんでこんなところで」


 おそらく無意識なんでしょう、エルフの少年拳士の呟きが聞こえてきます。


 僕は……その圧倒的な生き物、北の狼王から目が離せませんでした、これは紛れもなくゲームの中のモンスターで作りものの筈です……しかし、目の前の狼は……なにかが、なにかが違うように思えます。


 長い時間に思えましたが、実際にはほんの10秒ほどのことでした。


 

 狼王は牙の並ぶ口の端を一度持ち上げると、ゆっくりと森の中へと戻って行きました。


 狼王の姿が消えた瞬間、再び音が、鳥の鳴き声が、遠く離れた場所で戦うプレイヤーとモンスターの騒乱が戻ってきました。


 しかし僕は、それを惜しいと思いました。


 現実の世界ではお目にかかることの出来ないでしょう、美しい狼王の姿が消えてしまったことを、せっかく姿を見せてくれたのにないも出来ずに立っていることしかできなかったことを、です。


「そうか、僕は……見ているだけじゃ満足できなかったんですね」


 言葉にして、その自分の言葉に納得しました。


 そして……僕は森に向かって走りだしたんです。


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