第15話 聞いて走って掴んで追ってッ!
まず、累計ユニークアクセスが一万を超えました。
いつも見てくださりありがとうございます。
んで、今回いろいろ強引だったり説明足らずだったりしますので苦情は受け付けます。
さらに今回から改行などちょっと変更しています。
オープン以来初めて夜を迎えた帝都ユティはある意味昼間よりも賑わいに満ちていました。
夜空に威容を誇る満月は帝城を青く浮かび上がらせ、大通りの街灯や様々な店に魔法の明かりが灯されたその姿は、夜ならではの美しさで多くのプレイヤーを魅了しています。
また、夜限定のクエストを求める者たちも多く、初日以来の活気に街が湧きかえっており、運営の用意したイベントも予定されています。
そんな中、大通りを西門に向かい進む馬車の床下の裏に『隠密』を発動した僕は気配を消して張り付いていました。初めこそは少し力を抜くと三角耳や尻尾を掠る石畳に冷や汗をかきもしましたが、5分も経つころにはすっかり慣れて手足を突っ張るように突起に引っ掛けることで、多少なりとも楽な姿勢が取れるようになっています。
「ユーノくん、1分後に対象と接触、予定時間ともピッタリよ」
「了解です」
フレンドチャットで届けられたディアナさんの声に返事を返し、ゆっくりと周囲を見回すと、前方の馬の脚のその先に西門とそこに止まる一台の馬車が見えました。……あれが目標ですね。
その幌付きの馬車は2頭引きの大型タイプで動きからかなりの量を積み込んでいることがわかります。だからでしょう、ゆっくりと進むその馬車に僕が張り付く馬車は刻一刻と近づいて行きます。
「状況開始までカウントスタート、10、9、8、7、6、5、4……」
ディアナさんがタイミングまでのカウントを読み上げています……女性にしては少し低い声でゆっくりと静かに数字を刻むのを聞いていると心が不思議と落ち着いてきます。
「3、2、1、ゼロ」
カウントゼロ、その瞬間……空から何発もの爆発音が聞こえてきました。僕からは見えないのですが、夜空に花火が上がった筈です。皆が脚を止め……おそらくは空を見上げているのでしょう……今です!
馬車は未だ進み続けており、幌付きの荷台の横に来ました。距離はおよそ1m!
引っかけていた足を外し続いて手を離して落下、着地しますが出来るだけ音を小さくするため受け身はとらずに体を丸め、慣性に逆らわずに数度転がります。僅かなダメージを連続して受けますがそれは無視して互いの馬車の車輪の位置を見定め、地面に胸が着きそうなほど低い姿勢で1mを駆け抜け、直ぐに幌付きの床板の裏に張り付きました。
時間にして一秒もかからずに成せたはずですが……どうか見つかってませんように!
願いつつ息を潜めていると、やがて花火が終わり静寂が戻ってきました。……心臓の音が先ほどから大きく鳴り響いています……これ、外に聞こえてませんよね?
益体もないことを考えていると、ゆっくりと止まっていた馬車が動き始めました……これはどうやら気付かれなかったでしょうか? そう思った時、人の声が耳元に聞こえてきました。
「こちらディアナ」
「……!!」
おおお、危ないです! 思わず声を上げそうになりました! って尻尾が地面に擦れました、だあああ、危ないですってば!?
「対象に変わった動きはないようだけれど……ユーノくん、どうかした?」
「あ、いえその……なんとか乗り移りました」
僕の慌てているのが伝わったのでしょうか、ディアナさんが訝しげにしていました。ちゃんと花火が終わったら連絡が来るって言われていたんですけどねぇ……。
「そう、よかったわ……それじゃあ私たちは皆と合流していくから、油断しないようにね?」
「了解です」
さて、それじゃ到着まで頑張りますか……そう気合を入れ直していると「そうそう、そういえば」とディアナさんが言葉を続けます。
「あと花火はちゃんと録画しておいたから後で一緒に見ましょう……ごめんね?」
「あ、はい」
わーい、それは嬉しいですね、やっぱり見逃しちゃうのはちょっと寂しかったので……でも録画なんて出来るんですかね?
「アタシが録画用アイテムを貸してあげたのよ? お礼は御酌してくれればいいからね~」
「はい」
この声はタマさんですね、ありがとうございます。
「それじゃおっさん達と合流したら追いかけるから、がんばんなさいよ」
「はい、待ってます」
さて、あとは鬼が出るか蛇が出るか……まあ人攫いの人たちのアジトに向かうはずなのですが……4人で集めた情報です、きっと大丈夫でしょう。
そう、僕がこうしているのはあの後の情報収集の成果なんです。
◇
ほんの数時間前に話はもどります。
どんな国にもある程度以上の大きさの街にはかならず『占いの館』があります。それは神様や精霊といったものが身近な世界において、占いが生活の一部となっているからなのですが、プレイヤーにとってはそれ以外にもう一つの意味があります。
「さて、どんな情報をお望みかな?」
店頭で合言葉を口にすることで最奥の部屋へと招かれた僕の前に、水晶を覗き込むお婆さんがいました。全身黒ずくめで紫色のスカーフを巻き三角帽子を目深にかぶった、いかに占い師って感じです。
幾つかの事前情報からなにを調べるか決めた僕ら3人は、それぞれ分かれて情報を探すことにしました。
僕が占いの館のもうひとつの顔『情報屋』を訪れたのは、巫女のビエータちゃんを助ける時に敵が何個も使っていた『精霊石』から人攫いの一団を探す為でした。
精霊の涙が結晶化したとされる『精霊石』は現在『火精石』『水精石』『地精石』『風精石』の4種類があり、武器防具の作成・強化に使われる他に、それぞれの属性の魔法を使う際にMPの代わりに消費することが出来たりと、便利なマジックアイテムです。
マジックアイテムとしては安価なのですが、低レベルの守り手が気軽につかえる金額ではない為、今はまだ貴重品扱いされています。
それを人攫いの人たちは3人で合計4個も使用し、さらには使わずに残っていたものが5個もありました。その5個の精霊石は戦利品として取得できたのでありがたいと言えばありがたいのですが、はっきり言ってこのレベルで出会う敵としては破格のものです。
それをマイオスさんに確認したところ、確かに人攫いと戦った人の証言では精霊石を多数使用していたらしいとの返事が貰えました。そうなるとそれだけの数の精霊石をどこから仕入れているのかという話しになりますし、何十人も人が集まっているのなら衣食住で必要な物資もそれなりの量になるはずです。
「最近、食糧や生活必需品を大量に、あと精霊石も多数仕入れている人がいたら教えていただけますか?」
「ふむ、食糧や精霊石を……うむむむ、見える、見えるぞ……これはっ!」
お婆さんが水晶球を覗き込むと、水晶球の中から光が溢れ強く輝き始めました。
一際強く光り輝いた瞬間、僕の前に『情報料』が提示されました……普通のNPCのショップは大体この方式でして、後は『決定』を選べば良いのですが……僕は正直ちょっと苦手でして……なんか温か味と言いますか人間味がないですよね。
「それでお願いします」
「うむ、それでは……」
せめてこちらは普通の受け答えで話を進めることにしました。これが出来るだけでも『ガーディアンズ』は別格にNPCの対応が凄いらしいです。
水晶を覗き込みなにやら呪文を唱えていたお婆さんが顔を上げると、今度は得られた情報一覧が目の前のウィンドウに表示されました……うんまあ、結局はこうなるのですね。
お婆さんは良い感じの雰囲気なんですが、とため息を付きつつも情報を確認していくと……これはもしかして当たりだったかもしれません。予算ギリギリの情報料だったのでハズレだったらと心配していたのですが、これなら十分です。
「お婆さん、ありがとうございます! あ、僕はユーノと言います、またなにかあったらよろしくお願いしますね!」
「……ユーノさんかい。また困ったなら来なされ、いつでも歓迎しますぞ……ひっひっひっ」
「はい、ありがとうございます」
1つ頭を下げ部屋を出ようとする僕を、笑いながらお婆さんが見送ってくれました。
「さて、それじゃ連絡を……」
受付に挨拶して外に出ると、ちょうどパーティチャットの着信音がなりました。えっと……お、どうやらおふたりも終わっているみたいですね・
「はい、では今から向かいます」
チャットの向こう返事をして、僕は足早に待ち合わせの場所へと向かいました。
◇
『ゴルドアの地下迷宮』、その入り口となる大扉から放射状に広がる6大通りには多くの店や露天が軒を連ねています。
僕らが集まったのはその内の1つ、『タマ屋』と書かれたテントが張られた露天です。
「相変わらず動きが早いわね、タマさん」
「あったりまえよ、常に最前線で商売をするのが私のモットーだもの」
今日こちらに移ってきたタマさんからのメールを貰ったのはちょうどゴルドアの神殿へ向かっている時でした。そこで人攫いのアジト捜索を請け負ってすぐ、ディアナさんはタマさんに調べものを頼んでいたわけです。
……しかしタマさん、夜中の2時半からゲームって……どういう暮らしをしているんでしょう?
「ん? どうかしたかい、ユーノちゃん」
「ああいえ、なんでもありません」
僕の視線に気づいたタマさんがこちらを見ていますが僕は言葉を濁しました。リアルを詮索するような質問は禁物なのですよね……うーん、どうもリアルの友達感覚になってしまいます、気を付けないといけません。
「さて、それぞれの報告も終わったし情報をまとめるわね」
他の3人の話を聞きメモをとっていたディアナさんが、メモを3人に見えるようにウィンドウ表示にしたので、タマさんを促してそちらに向かいます。タマさんはちょっと不思議そうな顔をしていましたが、とりあえず気にしないことにしてくれたようでディアナさんのメモに注目しています……感謝ですね~。
「まず、人攫いをしている集団は『邪神教団』で間違いなさそうね。目撃情報が出始めたのが人攫いが出始めた時期と一致しているわ。北の森へ向かうのを見た人が多いのだけど、こっちは神殿騎士団が向かうことになっているわ」
リンさんが目撃者たちから集めてきた情報です。ディアナさんに視線を向けられて頷いています。
邪神教団はユグドラシルを司る九柱の神々に反旗を翻すべく『異界の神』をこの星に召喚しようとしている集団で、色々なクエストで敵役として登場するこのゲームではメジャーな存在です。彼らは折れた柱の紋章を体のどこかに刻んでいるのが特徴で、僕らが捕虜にとった戦士も邪神教団の人間でした。
「次に邪神教団と関係があると噂されていたのは『ロペス商会』。ロペス商会は情報屋からも出てきた名前だから間違いないでしょうね」
今度はタマさんと僕に確認を求めるディアナさんに二人そろって頷きます。
「後はなぜ人攫いをしているのか。これは今までの前例と今回攫われているのが年若い少女ばかりとい点から、乙女を生贄にして邪神召喚をおこなうつもりだからだと思うわ」
ディアナさんが自分で集めてきた情報のメモを指し示しつつ続けます……あ、眉間にシワが寄ってますよ?
「これも前例からになるけれど一定数集まるまでは生贄たちは無事なはずよ。早く助けてあげなきゃいけないわね」
それで……と1つ咳払いをし、ディアナさんは『作戦概要』とタイトルのつけられたメモを僕らの前に差し出します。
「最後にどうやってふたつめのアジトを見つけるか、だけど……タマさんに協力してもらったおかげで『商人組合』から情報を貰えたわ。ロペス商会は多くの食料品や衣料品、それに精霊石をつんだ馬車を西門から週に1回出発させているらしいわ」
ディアナさんがタマさんに再び確認をもとめると、頷いたタマさんが話しを引き継ぎます。
「さて、西門を出た馬車はある時はしばらく進んでから北に方向を変え、またある時しばらく進んでから南へと向かっているわけよ。しかも馬車は決まって二日後に帰ってくる。たとえその間に大雨が降っても、人攫いが出始めたと噂がたってもね。つ・ま・り……」
「そう遠くない場所にある邪神教団のアジトに物資を届けてるってわけね」
手を右に左に振りかぶったり雨が降る様を真似たりとオーバーアクションで話すタマさんが勿体ぶったところで結論をリンさんが言っちゃいました。……あ、タマさんがジト目でリンさんを睨んでいますがリンさんは楽しそうにピースしていますね。
「うう、ユーノちゃん。リンちゃんが~」
「いや、そう言われましても……次がありますよ、きっと?」
泣きついてきたタマさんの頭を撫でて慰めます……ふふふ、年上の女性に失礼かもしれませんが、なんだかちょっと可愛いですね。
「はいはい、じゃれてないで作戦を説明するから聞きなさい」
◇
そうしてディアナさんの立てた作戦を元に皆で話し合った結果が、先の馬車にしがみつくあれだったわけです。後ろから着いて行くにしろ轍を追うにしろ、どこに監視している敵がいるかわかりませんから……敵を奇襲する為にも気付かれずに追跡する必要があったのです。
さて、それではあとひと頑張りしましょう!




