第12話 夕暮れの宴ッ!
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うーん、やっぱり一人称難しいです。
約束の時間になり合流した僕らが『ブル・ボア』との戦闘の舞台に来ると、あの巨石は未だ砕けた姿でそこにありました。
『昼の日』が終わり『夜の日』へと日付が変わったその時、西の空に浮かぶ太陽が赤く色を変え夕焼けが始まります。
これから6時間かけてゆっくりと沈みゆく夕陽が、巨石はもちろん周囲に広がる草原も遠く見える山々も、さらには小さく見える帝城シルワの白い姿も赤く照らし出しており、世界を何とも言えない美しさに染め上げています。
そんな幻想的な風景の中、僕らは火を熾し鍋や鉄板に食器に食材を取り出し、宴を始めました。
参加者は僕とディアナさんリンさんの3人に、青騎士さん率いるギルド『Tea Water』のメンバーの内3人の合計6人です。
青騎士さんはおそらく190cmを越える長身を青いラインの入った銀色の金属鎧に包み、綺麗に整えられた青髪と口髭が特徴的な美丈夫のおじさんでした。
種族は『人間』で職種は『戦士』、年齢は30台半ばというところでしょうか? 落ち着いた物腰は僕の憧れる大人の男って感じです。
お連れの二人は両方とも女性ですが、青騎士さんと同年代の『人間』の女性はなんと奥さんだそうで名前はマリアさん、職種は『白魔法使い』だそうです。
マリアさんは青髪を思い切り短くしたボーイッシュな女性で、青いラインの入った白い修道服を着たその姿はとてもおばさんなんて雰囲気ではない若々しい印象です。
最後の1人『兎の獣人』で『忍者』の女の子ラビちゃんは、両親とおそろいの青髪をおかっぱにして、白い兎耳と丸い尻尾が付いています。
年齢は12歳で青騎士さんとマリアさんの娘さんだそうで、親子3人で仲良く『GO』を楽しんでいるとのことです。
「うーん、僕なら両親と一緒にやりたいとはちょっと気恥ずかしくて思えません。ラビちゃんは良い子ですね」
と言うと、
「そう?」
と無表情に返されました……あれ? 嫌だったかなと思いましたが、どうもいつもこの調子なようです。
良い子ついでにどうせなら名前をトントにして欲しかったと青騎士さんとマリアさんが笑って言うと、あれは男の子、とやはり無表情に返事をしていました。
ご両親相手でも普段からこうなんですねぇ。
うーむ……まあ、それはともかく。
挨拶を済ませるとディアナさんとマリアさんが牡丹鍋を、リンさんとラビちゃんがバーベキューを、それぞれ手早く準備し始めました。
その間僕はというと青騎士さんと二人、夕陽を眺めて今日の事を話していました。
「なるほど、PKか。それは災難だったね」
「はい。とはいえ、なんとか逃げられたので結果的には問題ないのですが……なんでわざわざPCを狙うのか、その辺が僕には分かりません」
「そうだなぁ……」
腑に落ちない顔の僕に青騎士さんはゆっくりと考えながら話し始めました。
「単純に言えば、対人戦闘がしたいんだろうね」
「対人戦闘……ですか?」
「そう、戦うにしてもAIが操作するモンスターと人間が操作するPCとじゃやっぱり楽しさの質が違うからね。じっくりと自分が育てているPCが他のPCと比べてどうなのか? 自分自身のプレイヤースキルはどうなのか? それを簡単に測る物差しとして戦闘をするというのは分からない話しじゃないだろう?」
剣を振るような動作をする青騎士さんに僕は頷きます。
リアルでならサバイバルゲームの経験も何度かありますし、対人戦闘ならではの楽しさがあるのはわかります、わかりますが……。
「ええ、それはまあ……でもそれならFPSや格闘なんかの対戦ゲームをしていれば良いのでは?」
新たな疑問をぶつけると青騎士さんは、これはオレの考えになってしまうけれど、と前置きして答えを返してくれます。
「やっぱり基本はこのゲームが好きだから、このゲームを楽しむ手段の1つとしてPKをするんだよ。それは他のゲームじゃ意味がないんだ、自分が好きなこの『GO』でやることに意味があるんじゃないかな?」
「PK自体を楽しんでいるわけではなく、『GO』を楽しむ一環としてのPKだと?」
「もちろんPK自体も楽しんでいるだろうけど、『GO』を楽しむことと両立出来ないことじゃないよね?」
ふーむ、そう言われればそうなのかもしれません。
「……結局は人それぞれの楽しみ方の違いってことですか?」
「まあそういうことだね、いろんな趣味嗜好の人間がいるってことさ。なにが正解でなにが間違いってことは言えないんだ」
「そんなものですか……」
僕の答えが不満気だったのでしょう、青騎士さんは励ますように背中を叩いて言葉を重ねます。
「そうそう、そんなものなのさ。もっとも、キミが出会ったように自分よりレベルの低い相手を集団で襲うような奴らは随分とツマラナイ真似をするもんだと思うけどね」
「え? あの人たちはPKでもまた特殊なんですか?」
「いや、逆だよ。必ず自分が勝てる相手にだけPKを仕掛けるのが普通だ。ただ中には特殊なのが……必ず1人で行動して自分と同レベル以上の相手か自分より数の多い相手だけを狙う、酔狂なのが居るんだよ」
そういう青騎士さんは楽しそうに何かを思い出しているようです、そういう人に心当たりがあるんでしょうか?
◇
僕の持つ30cmはある長い金串に、バーベキューにしては薄めの肉と櫛切りにした玉ねぎが交互に刺さっています。
「いっただっきま~すっ!」
醤油ベースのタレを付けながら焼いた香ばしい匂いに我慢できずにかぶり付くと、しっかりとした歯ごたえのある猪肉から肉の旨味とサラッサラと溶けていく脂の旨味が口中に広がり、トロトロに焼けた玉ねぎの甘さと抜群のハーモニーを奏でます。
うわー、美味しいですっ!
あっという間に一串食べきった僕は、迷った挙句今度は白い湯気が上る鍋へと箸を伸ばします。
牡丹鍋の中には大ぶりに切った大根に牛蒡、ニンジンと長ネギ、そしてやはり猪肉が入っており、味噌の良い匂いがしています。
箸で大根と肉を一緒に取り口に入れると……うわっ、こっちも美味しい~。
味噌と野菜と肉の旨味が混然として……うん? これはコンニャクでしょうか……うわっ、くにゅくにゅの歯ごたえのコンニャクに味が染みてて凄いことになってます!
「ある程度食べたら、今度は生卵につけてすき焼きみたいにしても美味しいわよ」
夢中になって食べている僕とリンさんにディアナさんがいろいろと世話を焼いてくれています、ありがとうございます。
と思えば、鍋の向こうでは親子三人で仲良く食事を……。
「ん~、やっぱり男の子は食べっぷりが気持ちいいわね……ねえダーリン、アナタも息子が欲しくな~い?」
僕のことを見ていたマリアさんが指で青騎士さんをつんつんとつつきます。
「もちろん欲しいに決まっているじゃないか。 ふっ、猪で精力もつけたことだし今日は頑張るよ、ハニー」
すると青騎士さんはマリアさんの手を取り見つめ合い始めました。
「娘の前でエロ話はやめれ」
その二人を無表情に横目で眺めながらラビちゃんが突っ込んでいます。
……えっと仲良く漫才をしていらっしゃいっますね、はい。
「なんつーか、相変わらず仲の良い夫婦よね、あそこは」
「ホント、夫婦でギルドを作ってる人たちは他にもいるけれど、あそこまでラブラブなのは珍しいわ」
呆れたようなリンさんにディアナさんも苦笑しつう同意しています。
「なるほど、いつもああなんですね……いいなぁ~」
ウチの両親、仲は良いと思うのですが、互いに忙しい人たちなので家族全員で一緒になることが少ないのですよね。
「ん? どうしたのさ、ユーノ?」
青騎士さん家族を眺める僕に気付いたリンさんが、ニヤリと笑い僕に抱きついてきました。
「青騎士さんが羨ましいの? ユーノにもアタシがいるじゃない」
「ちょっ!?」
僕の三角耳を甘噛みしながら囁くリンさん、ってちょっとこの体勢は……あああっ、柔らかいものが正面から当たっています! って体を揺さぶらないでっ!?
「ちょっと、リン! なにやっているよっ、離れなさい!」
「ええ~、いいじゃない~、ユーノも嫌じゃないでしょ?」
「い、いや? 嫌じゃないですけどっ、いや、でもいや~~?」
ちょっ、お二人が揉み合いになると間にいる僕に……うわっ、ディアナさんもリンさんほどじゃないけれど結構凄いですっ! って僕はなにを考えているんですか!? あああ、ごめんなさい~、でも柔らかいやら温かいやらどうしたらっ!?
二人ともヒートアップしちゃってて……はっ、そういえばこの場にはちゃんと大人がいらっしゃいました!
「あ、あのっ、青騎士さん助けてっ」
「あらあら、若い人たちは良いわね。私たちもあの子たちくらいの頃は……」
「何を言うのさマリア。僕達なら今だって彼らよりも熱い夜を過ごせるよ」
「だからエロ話はやめれ」
……うわ~、助ける気ゼロですかそうですか……ラビちゃん、無表情に親指を立ててこちらに付き出すのはやめてください……。
てか、あの完全にお二人の体に挟まれて、嬉しい、いやいやそうじゃなくてどうすれば……。
Pi―――――!
とその時、笛の音が鳴り響き、僕らの頭上に大きなモニターが出現しました。
「なんです?」「えっ」「あちゃっ」「おやおや」「やっちゃったわね」「GM、グッジョブ」
モニターに映し出されているのは濃い色の肌にトーガを纏った美人の女性……この人は確か……。
「突然ですが失礼いたします、調和神の使いサージャリ―からのお知らせです」
そうそう、あのなんとかって番組の司会をしていた人ですよね。
「リン、ディアナ、両名にGM権限でのイエローカードが仮発生されました。罪状はユーノへの『セクハラ』になります」
サージャリ―さんがそう言った瞬間、リンさんとディアナさんの頭上に『審議中』の文字が浮かびあがりました。
「ええーっ、ちょっとじゃれてただけじゃない」
「……状況からするとちょっとじゃないわね」
咄嗟に反論するリンさんと状況を見てため息を吐くディアナさん……ちなみに現在僕は二人に両側から抱かれている状態です……。
「ユーノ」
「えっ、はい僕ですか?」
「はい、アナタがセクハラの申請をすれば両名へのイエローカードが確定されます、申請されますか?」
えーと、イエローカードは確かマナーや規約違反者への警告カードの一種で、カードが出された人はホームページから確認出来たり、ゲーム中名前の横にイエローカードが一定期間表示されたりするんでしたっけ。
「いえ、必要ありません……その、ホントにふざけていただけですので……」
「了解しました。では今回は不受理となります……が、リン、ディアナ両名は以後行動に十分お気を付け下さい」
サージャリ―さんはきつい目で二人に釘をさし、「それでは失礼いたしました」と消えました。
と、青騎士さんがなにやら感慨深げに頷いています。
「うんうん、僕らもβテスト中にやられたねぇ。懐かしいな」
「二人の同意で抱き合っていただけなのにね? 無粋な人たちよね」
「エロ夫婦やめれ」
なるほど、お二人も経験済みでしたか……というか経験していたのなら……・
「分かっていたなら先に注意してください!」
そうそうディアナさんの言う通りですよ。
「いや~、人に言われるよりも実際に体験したほうが身につくものだよ」
あの、良いこと言ったみたいな態度ですけど、にやにやしながら言ってたらまったく有難味がないですよ、青騎士さん?
おやラビちゃんがトコトコと歩いてきました。
「エロ自重」
え、突然なんですか?
「そのままだと、また来る」
「「「あっ」」」
そういえば、僕達まだ抱き合ったままでしたね……どうもテンションが下がっていたこともあってディアナさんだけじゃなくリンさんも顔を赤くして離れてくれました。
…………ちょっと勿体ないような気も…………。
ラビちゃんがまた親指を立てた手をこちらにつき出しています。
「面白かった、グッジョブ」
あの別に見世物だったわけではないのですよ……傍からみたらどうだったのかは考えたくありませんけどね。
うう、青騎士さんとマリアさんも笑ってるし……ふう、僕らももう笑うしかありませんね。
結局、6人で顔を見合わせて笑いあった僕らは、その後はゆっくりと6人で話をしながら美味しい料理を食べられました。
まあなんだかんだ色々ありましたが楽しい宴でした。
そういうことにしておいたほうが平和ですよね?
ね?
作中のPK関係の会話は私の考えですが、個人的にはFPSなんかが好きなのでPKに拒否感もありませんし、ゲームはやっているみんなで楽しむの一番だと思っています。もっともPK出来るMMOをやったことがあまりないので、何言ってんだこいつと思われるかもしれませんね。




