序章
男は疲れていた、毎日のブラック企業勤務に
男は疲れていた、自分が身動き取れないことに
男は疲れていた、周りの期待に
だから仕方ないのだ、これは悲しい事故だ、きっと明日は粗末な出来事などを気にせずのうのうとやってくる。
誰も気にしない
きっとこれで救われる
そう、誰にも届かない言い訳を頭の中で繰り返していた。
足元の人形のように動かなくなった『人』を見下しながら。
○● ○● ○●
男は、一言で言えば実に中途半端な男 だった。
勉強は赤点ギリギリ、運動も万年補欠。
かといってオタク趣味があるわけでもなく逆にバカにしていた、そのくせ流行を追うわけでもない。
何か始めようと本を買えば三割ほど読んで放置し、ギターも基礎を覚える前に諦めた。
地元の田舎が嫌で都会に出たいと思いながらも、大都市に飛び込む勇気はなく、結局は中途半端な地方都市で就職する。
勤め先は、よりにもよって典型的なブラック企業。辞める決断もできず、淡々と残業を繰り返していたが、気づけばそこそこのポジションを任され、部下からも頼られるようになっていた。
皮肉なことに、やっと「自分にも役割がある」と思い始めた矢先だった。
久々にできた隙間時間、スマホを手に取った。
表示されたネット記事の見出しには、こう書かれていた。
『ブラック企業に勤める人必見!!この兆候はやばい!!』
(またよくある煽り記事だろ)
そう思いつつも、指は勝手にスクロールしていた。
『社会人のみなさん、毎日疲れているのに休めない、仕事量が多すぎるなどお悩みはありませんか?たしかに大変だけど自分の会社はブラック企業じゃない、そう考えている「今」が一番危険です!気づいたら心身共にボロボロ、最悪は過労死……。下記の表に書かれていることが3つ以上当てはまったらレッドゾーン!すぐに職場を離れることをおすすめします。』
男はため息をついた。
(過労死、か……他人事じゃないよな)
ほんの一瞬、胸の奥で不快なざわめきが広がる。
――この時はまだ、その記事が後に自分の人生を大きく狂わせるとは思ってもいなかった。




