食戟
「キンカ頭、お前の言い分、最初から最後まで聞かせてもらった」と信長。
どうやら信長は光秀が寝込んでいる間に長屋の奥の部屋に潜んでいたらしい。
ここにいる人物でそれを知らないのは、光秀と義昭だけだ。
光秀は寝込んでいたし、義昭は「ちょっとおめかししましょう」と、まつの家に連れて行かれていた。
「信長様、何でここにいるの!?」と養観院。
どうやら養観院は子狼と遊ぶのに熱中していて、信長が来た事に気付いていなかったようだ。
光秀が絶体絶命な時、養観院とねねは隣の部屋のお勝手場で料理を始める。
「まず卵を割りまーす」と養観院。
「わりまーす」とねね。
「割った卵を黄身と白身に分けまーす」
「わけまーす」
「白身をメレンゲ状になるまでよーく泡立てまーす」
「泡立てまーす」
「よーく泡立った白身は捨てまーす」
「捨てまーす」
「「「「「ちょっと待て!!!!!」」」」」隣の部屋で光秀と信長に注目していたはずの人々が一斉にツッコミを入れる。
「信長様、ちょっと失礼します」と光秀が隣の部屋の養観院の所へ行く。
「お、おう」と信長もつい了承してしまう。
「突然、何やってるの!?」と光秀が養観院に言う。
「何、って料理?」と養観院。
「それは見ればわかる!
何で今、料理を始めたの!?」
「どんな問題でも山岡さんの料理にかかれば一発解決でしょ?
何か光秀さんと信長様、揉めてたみたいだし・・・」と養観院。
「どんな問題でも料理で解決するのは『美味しんぼ』の世界の中の話だ!」と光秀。
2人の話に聞き耳を立てていた義昭の頭脳に『山岡はどんな問題でも一発で解決出来る万能の存在』とインプットされた。
「そもそも何を作ろうとしていたんだ?」と光秀。
「ビーフシチュー」と養観院。
「ビーフシチューに卵要らなくない!?」
「だから白身捨てるんじゃん」
「黄身も要らないでしょ!?」
「黄身を捨てるの?
もったいない。
『食べ物を粗末にしちゃダメ』ってお母さんに言われなかった?」
「白身を捨てようとした君に言われたくないよ!」
「あ、『君』と『黄身』をかけた?
そんなに面白くないよ」
「やかましい!
そもそも牛肉がないでしょ?
どうやって『ビーフシチュー』を作るんだ?」
「ないなら別の食材で代用するしかないでしょ」
「・・・急にまともな事を言うな!
『代用食材』って何だよ?」
「みょうがだよ」
「そこは何かの肉であれよ!
せめて魚であれよ!」
そうこうしている間に、ねねが料理を完成させる。
『ビーフシチュー』の完成だ。
「おあがりよ!」と養観院。
「ソーマか!」と光秀。
出来上がった料理を口に含んだ光秀は・・・。
「マズッ!!!!!」悶絶する。
「あー・・・。
でも光秀さんには文句を言う権利はないんだよ?
僕と光秀さんが話し込んでる間に、味付けをねねちゃんに任せた結果こんな味付けになっちゃったんだから」
「白い『ビーフシチュー』の時点でもっと警戒すべきだった・・・」
「『ビーフシチュー』の茶色って何で着色するんだろうね?
僕は茶色い物なんて一つしか思い浮かばないよ」
「やめろ!
汚い事を言うな!」
「チョコレートしか・・・え?チョコってそんなに汚い?」
「いや・・・まあ・・・その・・・何だ?」光秀は言い淀み自分の心が汚れている事を恥じた。
ここで解説しよう。
養観院は触るだけで、菓子の材料や製法が一瞬でわかってしまうチート能力を女神から与えられている。
そして、古今東西の菓子のレシピが養観院の頭の中には入っている。
このチート能力を使って、この戦国時代を生き延びる事がもしかしたら出来るかも知れない。
でも養観院の頭は『ハーレム落ちを回避する』事で一杯なのだ。
そんな事はともかく、こと料理となると養観院は全然大したことはない。
例えるなら『魔法使いサリー』に出てくる『よっちゃん』並みの実力なのだ。
『よっちゃん』の料理の実力がよくわからない?
その通り。
「よくわからない」のだ。
菓子の技術を応用して、時々大ホームランの料理も作る。
しかし基本は『サードゴロ、ゲッツー』の料理の知識なのだ。
「・・・そろそろ良いか?」
痺れを切らした信長が光秀と養観院の間に割って入る。
まるでアニメ『ドラゴンボールZ』の引き延ばしオリジナルストーリーみたいな展開だが、再び光秀の大ピンチだ。
ちゃんと物語と進めますので、ブックマークを解除しないで下さい。
『110になった!』ってブックマークが、この話を公開した途端に105まで落ち込んだ時は反省しました。
でも今回のエピソードを思い付いた時『どこかで挟もう』って結構早い段階で決めてたんですよ?