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エピローグ 後日談――――。

 ――――マッケニーの襲撃から一か月後。


 カンカンカンカンと、槌の音が聞こえてきます。


 何人もの大工さんが良い汗を掻きながら大きな木材を運んでいる光景も、なんだか見慣れてきました。既に整地も完了し、建築の基礎が造られ始めてますね。巨大総合商店、名称未定との事ですが、それの完成もそう遠くない話なのかもしれません。


 ――便利になるよね。

 ――食料品店も入るらしいよ?

 ――雑貨に洋服、なんでも揃うんだって。


 街の人たちの感想も悪くはない様子です。

 私も可愛い洋服があるなら購入したいと思っています。

 

 結局、ドルガ盗賊団の追跡は失敗に終わり、ポーネクロス周辺はランクAのまま。

 国の方針として、巨大総合商店の建築が行われると発表がありました。

 商家の方々がこの街を見捨ててしまっては、元も子もありませんからね、致し方ない事です。


 買い物を終えて店に戻ると、ラズマさんの姿がありません。

 カウンターに残る書置きを見るに、店を閉じて鍛冶場に行ってるみたいです。

 

 相変わらずじっとしていられない、ラズマさんの可愛い所の一つです。

 店を開け棚の掃除をしていると、カランカランと扉の音が聞こえてきました。


「こんにちは」

「あら、マッケニーさん、こんにちは」


 扉を開けたその先には、身なりを整えたマッケニーさんの姿がありました。

 あの日の傷はもう癒えたみたいですね、良かったです。

 

「ご依頼の品の納品に上がりましたので、ご確認宜しくお願い致します」

「はい、ご足労頂き、誠にありがとうございます」


 マッケニーさんが納品しにきた物、それは周辺諸国に眠るダンジョンの宝箱の中身です。

 価値は大なり小なりですが、軍に納品するには申し分ないでしょう。


「確かに。ではお約束通り、武具以外の物品は全てマッケニーさんの自由にして頂いて結構ですからね。それと、これは今回の買い取り賃になります」

「おおぉ……誠にありがとうございます。早速商売に走ります故、では」


 お腹たぽんたぽんさせながら走っていきましたね。

 マッケニーさん、巨大総合商店に店を構えるつもりらしいです。


 没落してしまったマドル家の再興、マッケニーさんは当初からその為だけに動いていたみたいですから、正攻法としてその目的が叶えられるのであるならば、従順なものです。


 そもそも没落した理由も、叔父であるアリューゼ伯爵が原因みたいですけどね。

 肉親に手を出すとは、なんとも愚かなことです。



 あの日、私達はマッケニーさんと取引をしました。

  

「近隣諸国のダンジョンの宝箱、その中身を回収しろだと?」

「はい、先ほどマッケニーさんはこうおっしゃいました。私と貴方が手を組めば、裏世界を牛耳る事が出来る……と。その言葉だけでは到底信じることは出来ませんが、実際に銀砂のオクトパスをマッケニーさんは手中に収めていましたからね。その腕を見込んでの依頼です」


 聞けばマッケニーさん、裏世界の盗賊団や野盗だけでなく、裏稼業や生活の苦しい農民たちとも繋がりがあるらしく、そのマーケティング力は相当なものでした。


「もちろん、断れば殺します。魔紫煙(マッシュルーム)を直に刺した場合どうなるのか」

「――、わ、分かった、その取引乗った! ただ、取引というからには私にも旨味が欲しい!」

「この状態でよくも」

「ハゾ」

「……でしゃばりを、申し訳ない」


 両腕をガッチリと決められた状態で、マッケニーさんの執念たるやいなや、立派なものです。

 

「分かりました、では、宝箱の中身から武具以外の金品財宝が出てきた場合は、マッケニーさんの自由にしても構わないという事にしましょう。更に納品して頂いた分に関しても料金を支払います。ただし、軍に納品する価格の半額。鑑定は私が行いますから、ご安心ください」


 市場に流れる場合は六掛けが基本です。

 ですが今回は迷惑料として一掛け増やしましたが、許容の範囲内でしょう。


「人件費を込みにしても……分かった、その条件全て飲もう」

「マッケニーさんが話の分かる方で良かったです、死体の処理も結構面倒なんですよ」


 二十人以上となると、ハチミツつけて放置という訳にはいかないですからね。

 血の海になった武具店の清掃も大変ですし、こちらとしても大助かりです。



「え、これ全部マッケニーさんが納品してきたのかい?」

「はい、元貴族の伝手を利用したらしく、格安で譲ってくれました」


 鍛冶場から戻ったラズマさん、武具が詰まった大箱を見て驚いています。

 隠せる量じゃありませんからね、百以上の武具が入った箱が四箱ですもの。

 

「凄いな……あ、この武器の形状とか参考になる。ドラゴンスレイヤーか? こんなバカでかい剣を使える人間がいるのかな。あ、珍しい、アイナさんこの盾知ってますか? 女神の微笑と言って、対象を魅了状態にしてしまうんですよ。え、で、この武具はどうするんですか?」


 ラズマさんの言う通り、思った以上のレアアイテムなんですよね。 

 これをこのまま軍に納品したら、また厄介な事になるやもしれません。

 このクオリティで続けて欲しいなんて言われたら、身も蓋もないですし。


「えと……店頭販売しようかなと思うのですが」

「販売か……じゃあさ、僕が手を加えてもいいかな?」

 

 あら、ラズマさんの鍛冶師としての魂に火がついてしまったみたいですね。

 新しい玩具を与えられた子供みたいな瞳をして、本当に可愛いです。


 いずれ納品するにしても、そんなに急ぐ必要もありませんし。

 巨大総合商店が完成しても、この武具店は質も量も兼ね揃えた優良店ですからね。

 

「はい、ご自由にして頂いて大丈夫ですよ」

「やった。じゃあアイナも一緒においでよ、一人にして何かあったら大変だしさ」


 一瞬でも離れたくない、私も同じ気持ちです。

 喜んで一緒に行きたいと思います。


 そしていつの日か、二人の愛する子供を。

 ……恥ずかしすぎて、想像しただけで顔が熱を持ってしまいます。


「あ、あれ? アイナ、大丈夫?」

「ダイジョブです、行きましょう」

「本当に? なんか真っ赤だよ?」

「なんでもありませんから、大丈夫ですから」


 氷の令嬢、なんて呼ばれてたのも、もう昔の話です。

 すっかり(ほだ)されちゃった私は、もうラズマさんに溶けきっちゃってますからね。


 愛しています、ラズマさん。



「ミーナお姉ちゃん聞いた? アイナが裏世界の派閥を一つ潰しちゃったらしいよ?」


 ピンク色をしたツインテールの女性、かぶりつく果物からは果汁が溢れ、香ばしい蜜が彼女の頬を濡らす。小さな背丈に似つかわしくないほどの大きな部屋、豪奢な椅子に腰かけた彼女は、小さくて丸いテーブルに置かれた通念箱へと語り掛ける。


『商業ギルドを取り仕切るメイナが無駄にお節介するからですよ。ポーネクロス周辺のギルドランクなんて、貴女が口出しすればすぐにでもBに下げる事が出来たでしょうに』

「だってそれじゃアイナが成長しないじゃん。ミーナお姉ちゃんだって色々と出来たんじゃないの? 私だけを責めるのは筋違いってもんだよ」


 赤く燃えるような髪色をした長い髪を前で二つに縛る彼女は、揺れる船内で団扇を仰がせながら大きなソファに横たわる。テーブル上に乱雑に置かれた書類の数々には桁違いの数字が書かれており、そのサインにはミーナ・J・オルトリウスの名が刻まれていた。

 

『表と裏、豪商ガルド家を盤石にするためには、双方の発展が不可欠とは言いますけどね。アイナは優しい子なの、育てるにしても可愛く愛でてあげないとダメなのよ』

「へぇ~? そんなこと言いながら、アリューゼ伯爵家を潰させたのはどこの誰さ? 辺鄙な土地ばっか与えて開墾に次ぐ開墾、農地以外に活かせない領土をワザと与えて、アリューゼ伯爵の野心を根底から叩きのめそうとしたのは、誰が指示したんですかね」

『この世界で野心なんて持つのが間違いなんです。だって、頂点は決まっているのですから』

「まぁね、そうなんだけどさ」


 全ては、この姉妹の手のひらで踊らされているに過ぎない。

 アリューゼ伯爵の悪政も、マッケニーの野心も、利用されるべくして利用された事なのだ。


「そんで? 次はどうするのさ?」

『そうですね、ドルガ盗賊団の人数が今回の件でかなり増えてしまいましたから、ポーネクロスの発展を更に促してあげたら、アイナは喜ぶかもしれませんね』

「はいはい、今度の方法はちゃんとアタシの耳にも入るようにしてよね。ミーナお姉ちゃんの(たくら)みは気付くのが容易じゃないんだからさ」

『おや? メイナもその程度なのですか?』

「……ったく、イチイチ棘がある言い方しないの。そんじゃ、いつも通りに」

『ええ、好きな様にやらさせて頂きます。世界は私達三姉妹のものですからね』


 我儘の頂点とも言える姉たちの企みに、アイナはまだ気づいていない。

 彼女はただ、ラズマとの幸せな日々があればそれだけでいいのに。


「へくち」

「ん? どうした、寒かったかい?」

「……すいません、はしたない所を」

「いいよ、くしゃみも可愛いね」

「ラズマさん……もう、恥ずかしいです」

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