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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
沖縄本島編 第三章 黄霧四塞の影 〜Transfiguration〜
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大会の後と肝試し

 美枝は今申し訳無さでいっぱいだった。自分は本当にここに来てよかったのかさえ、疑わしくなっている。ミリアと目を合わせられなかった。だって、迷惑を掛けてしまったのだ。自分が不甲斐ないばかりに彼女を危険な目に合わせてしまったのだから。


 それに沖縄に来たのはどう考えても自分勝手過ぎる理由があったから、それがまた彼女に後ろめたい気持ちを抱かせている。もしそんな考えなど抱かなかったら、もし沖縄に来なかったら、こんなことにもなりはしなかった。本当に情けない。


 しかし何も言わないのは違う気がして、美枝は尊敬するミリアの言葉に一つ一つ応えていくことにした。


「実は、私……留学するんです」


「うんうん」


「だから本当なら今も忙しいはずで、ここに来る必要もないんです。そんな暇もなかったんです。でも、私……ただ一言言いたくて……。健二に相談したら忙しい両親の代わりに健二のパパやママが連れてきてくれて……なのにこんなに迷惑を掛けちゃいました……。本当に情けないです。ミリアさんに危険な目に遭わせてしまって。本当にごめんなさい」


 あの状況では仕方なかったとはいえ、彼女の中では巻き込んだ自分が許せなかった。連れて来て頂いた健二の両親にも心配をさせてしまうところだった。いや、全員に心配させるどころか、悲しませてしまうところだった。死ぬところだったのだから。

だからそんな自分が許せない。


 しかしミリアはまるで問題でもないように振る舞って言った。


「まあ、確かに迷惑にはなったかもしれないけど、私も人のこと言えないからねぇ」


「え?」


 どういうことか分からず、美枝はミリアの横顔をその視界に入れた。ミリアの横顔はどこか楽しそうで、それでいて申し訳無さそうだった。


「美枝を助けたい気持ちは本当だったけど、実のこと言うと結構演技を楽しんでたんだよね。あのヒト達をどれくらい振り回せるかも少し気になっていたし、あたしの中じゃフィクションの再現みたいな気分だったよ。ごめんね?一番大変だったのは美枝だったのに」


「いえっ、そんなっ」


「でもさ、本当に迷惑を掛けたと思ったんなら、あまり引きずらない方が良いよ?謝るのは当たり前だけど、それをずっと抱えてたらせっかくの旅行が台無しになるじゃん?逆に皆に迷惑だよ」


 その言葉に美枝はハッとなる。今、自分はどんな顔をしていただろう。きっとしんみりして暗い表情をしていたに違いない。もしこの旅行中その顔でずっといたらどうなっていただろうか。


 確かに大きな迷惑を掛けてしまった。それでも沖縄に、楽しいはずの旅行に来ている。ならば皆で楽しんで良い思い出にした方が良いに決まってる。どんなに自分勝手な思いがあったとしても楽しい時間だけは本物のはずだ。


 美枝は今までの気分を打ち払うように両手で自分の頬を叩いた。ちょっと強すぎて痛かったけど、気持ちを切り替えるには充分だった。そして再びミリアの目を見る。


「ありがとうございます。ミリアさんってポジティブで凄いですね」


「そんなことないよ。あたしはただ一瞬一瞬の時間を楽しんでいるだけだから」


 それをヒトはポジティブというのだろう。


 羨ましいなぁ。


「それとさ、”さん”付けじゃなくて良いんよ?同い年なんだから」


「あ、はい!……ん?あれ?」


 そこで美枝は疑問を覚えた。確かハヤトとエレナは同い年の姉弟だったはずである。彼らの両親は再婚とかはしていないらしいから、2人は二卵性の双子かなんかだと今まで思っていた。しかしミリアも同い年となると考えられる可能性は三つ子になる。果たして三卵性の三つ子などあるのだろうか?


 確かに理論的には有り得そうだけど……。

 とても珍しい?


「ミリアさ……ミリアって三つ子なんですか?」


「え?」




 内心ミリアはしまったと思った。美枝には人工実存(AE)のことを話していない。これから話す予定もない。彼女には悪いが、そういう知られたら大変なことを話すにはリスクがありすぎる。

ヒトの口には戸を建てられないから。


「だって、私と同い年って言うことはハヤトやエレナと同い年ってことですよね?」


「あ、ああ……それは……」


 ど、どうしよう……。

 ……。

 あ、そうだ!


「そうそう!私たちは別々に作られたんだよ!マッドサイエンティストの実験でね?」


「あははっ!なんですか、その設定っ!」


「ははははっ」


 美枝はミリアがボケたのかと思ったらしく、確かに変な発言に吹き出していた。しかしミリアの言っていることは間違ってはいない。事実である。


 それでも普通誰が聞いてもこんなことは冗談にしか聞こえないものだ。だから敢えて本当のことを言ってごまかしたのである。ヒトは本当にありえないと思うことは嘘だと決めつける。未確認動物(UMA)、魔法、異世界、宇宙人、未確認飛行物体(UFO)などがいい例だろう。無理に隠そうとすればそれを聞いたヒトにあることないこと妄想させて、ありえないはずのことがいつの間にか世間に広がっているなんてこともあり得る。学校の恋話や叔母さんの会話ネットワークみたいに。

だから一見滑稽に思えるようなことを言えば、大抵の場合それ以外の選択肢をヒトは考えてしまう心情が働く。


 まあ、それも絶対ではない。だから追求されるのは困るので何か言われる前にすぐさま話題を変えた。


「あっ!いけない!言い忘れてた!」


 美枝はミリアがいきなり大きな声を上げたので驚いたようにビクッと肩を跳ねさせた。


「約束してほしいんだけど、さっき見たことは誰にも言わないって約束してくれる?もちろんネットの書き込みもなしで」


「別にいいですけど、なんでですか?」


「じゃないと今度はあの人達が攫いに来るよ?」


「わ、分かりました」


 ドスを利かせた声で脅したら美枝の瞳に恐怖と動揺が伺えた。


 やりすぎたかな?


「ごめんごめん。そこまで気にしなくていいよ」


「はいっ」


 今度は満面の優しい笑みを作ると美枝の顔が綻んだの見えた。


 なんか面白いな。

 美枝って。

 拗ねたらどんな顔になるのかな?

 色んな顔が見れそう。


「美枝はどこに留学するの?」


「えっと、アメリカのバージニア州です」


「うわぁ、いいなぁ!あたしも行きたいなぁ!」


 残念そうに頭を垂れるミリアだったが、これだけは結構本心だったりする。だって、彼女は国境を越えるだけの資格、つまり国籍を持っていないのだから。それ故に海外に行きたいと思ってもミリアにはこの国以外行くことができる場所がない。

ミリアにとって海外に出られる美枝がとても羨ましい存在に思えてしまった。


「ミリアだって日本中色んな所に行ってるじゃないですか」


「それは仕事でね。スケジュールがいっぱいだと全然楽しめないんだよ?」


「ああ、それは失念してました」


 そんな会話をしていると遠くに駐車場が見えてきた。そこにはもうほとんど車はなく、静かな暗がりが満ちていた。その片隅で皆が自分たちに向かって手を振っているのが見える。


 それを見つけて、応えるように彼らにミリアと美枝は大きく手を振り返したのだった。


「ま、今回の旅行は楽しむけどね」


 そうして彼らの一日が終わっていく。



            †



「さあ!次は肝試しだぁ!」


 ミリアは拳を振り上げ、そう宣言した。それに対してハヤトとエレナはベッドの上で座りながらどうしてそんな結論に到ったのかわからないという顔をする。正直言って花火大会が終わったから早く風呂に入ってくつろぎたいのだが、どうやらミリアは遊び足りないらしい。


「今からか?」


「流石に危ないんじゃない?」


 2人してそう苦言を呈するも、ミリアは一切不安の種などないとばかりに笑い飛ばした。


「大丈夫大丈夫っ!ソフィアに頼めば保護者役として見ていてくれるだろうし、ハルカも誘えば大抵のことなら大丈夫でしょっ!」


 他人頼りの計画にハヤトとエレナは呆れた表情を浮かべるしかできない。


 ここはハヤトたちが泊まるホテルの一室。浴衣から着替えて小休憩をしていたらミリアが突然部屋に突入してきて今に至っている。本当に突然過ぎて最初は一瞬、何を言ってるんだと思ってミリアを凝視してしまった。


 それに皆疲れているはずだ。ソフィアもハルカも了承するとは思えない。ハヤトたちだって人混みに疲れてしまっている。しかも世の中は平和そうに見えて実は結構治安が悪い。絶対安全なんて誰も保証できない。


 あと、意外とソフィアは面倒くさがりだし、一緒に出掛けてくれるとはとても思えない。


「ただいま」


 そこで噂をすれば影というものか、ソフィアがタオルを肩に掛けてこの部屋に戻ってきた。どうやら大浴場に行ってきたらしい。彼女からいつもとは違う良い匂いがふわっと香って鼻を擽る。


 そしてミリアも彼女の姿を認めて彼女に向かって歩み寄っていった。


「あっ!ソフィア。肝試しするんだけどさ、保護者役として見ててくれない?もしもの時のことを考えてさ」


「はあ。何言ってるんですか。こっちは疲れているんです。やりませんよ?というか私が貸したマナリウムを早く返して下さい。着替えたでしょう?」


「それは返すよ。でもでもぉ、ほらぁ、見たくなぁい?」


 どこか意味深な顔で詰め寄るミリアにソフィアは最初迷惑そうにしていたが、何かに思い至ったのか突如物凄く楽しそうな、悪巧みでもするような笑みをニヤリと浮かべた。

そして2人して怪しく笑い合う。


「「フフフフッ」」


 嫌な予感しかしない……。


 その思いはエレナも同じであるらしく顔が引き痙っている。


「じゃあ、どうしましょうかねぇ?どんな風にやります?」


「そうだなぁ。じゃあ、あたしは1人で行く!スリル満点だよね?ハヤトとエレナは2人で行ってね?」


 その提案にハヤトとエレナは吃驚してしまった。予感はしていたが、まさか本当にやることになるなんて。


「え?行くの!?」


「本当にやるのか!?」


 ミリアはその言葉に大きく頷いた。やる気満々のようである。最早この流れを止められない雰囲気を否が応でも感じってしまう。


「Let's go!」


 そうしてほとんど強制的にハヤトとエレナは肝試しに参加させられたのだった。因みにミリアはハルカを誘うのをすっかり忘れていたのだが、それに気づいたのはかなり後のことである。

 肝試しへ――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


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