表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
沖縄本島編 第二章 花火大会 〜Her fate and destiny〜
92/263

待ち合わせ

 ホテルのエントランスホールでエレナは準備を一通り済ませ、皆を待っていた。もう既に時間は夜。しかし沖縄という横浜から1500kmも西に位置している場所故か、この季節だと19時半くらいになってやっと日が落ちていた。だからまだまだ空は明るい。


 そんな夕陽の残滓が射し込むホテルのエントランスホールにはブラケットライトのオレンジ色の暖かな光が辺りを満たし、落ち着いた背景(バックグラウンド)音楽(ミュージック)が心を落ち着かせるように響いている。


 その旅先の疲れを癒やしてくれそうな雰囲気の中、しかしエレナは鑑賞樹(シルクジャスミン)の隣に設けられたソファーに腰掛けて内心全く落ち着けていなかった。


「あぁ……」


 苦悶混じりの嘆息を一つ。


 今エレナはとあることを考えていて、周りのそういう綺麗なサービスが意識に入ってこなかった。というのも昼からずっと彼女はそれについて考えていたのである。


 そして今彼女は――。


 どうして私はあんな反応をしてしまったのだろう?

 メチャクチャ恥ずかしい……っ!


 顔を真っ赤ににして悶えていた。


 力強く抱き寄せられて、助けてくれて、それに…………うぅ……。

 ……。

 違う違う!

 ”彼女”だなんてただの方便だもん!

 気にするほうがおかしいもん!

 なのに、なんでっ。


 昼間ナンパに遭って、それをハヤトが助けてくれた一幕を忘れることができなかった。あんな大勢の前でハヤトが自分のことを”彼女”だと、嘘でも宣言して物凄く恥ずかしかった。それなのに少しそれが嬉しくて、そして恥ずかしさのあまりその場で悶絶してしまったことでハヤトに勘ぐられたのではないかと思ってしまって、この後どうやって顔を合わせたら良いのかわからなくなってしまった。


 お礼も言えなかったし、思考が停止してしまったのか記憶が曖昧で何があの後あったのかよく思い出せない。

迷惑を掛けてしまって、非常に申し訳ない気持ちで一杯だった。


 それに思い出すのはそれだけじゃない。ソフィアがハヤトに態々自分の箸で食べさせようとしてたのを見ているのはとても嫌だったのを覚えている。けれどそうなる理由がよく分からなくて、自分の気持ちが理解できない。そしてそれはとても自分からはできないものであるはずなのに、どこか羨望を抱いている自分もいて、心拍が上がるのが感じられる。


 もしエレナが事実だけを受け止めて、受け入れられるのであれば結論をすぐに出していたであろう。


 そう。

 これだとまるで……まるで――。


「ふにゅ〜う〜っ!!」


 結論の一歩手前、エレナは途端に恥ずかしくなって頭を抱えて頭を振る。変な声も漏らしてしまう。それでも気持ちを落ち着かせようと姿勢を正すが、その手はぎゅっと浴衣を握り締めている。考えの結論を見出そうとする自分の思考を押さえるように。決して答えを出さないように。


 だって、普通に考えておかしい。

 これは抱いてはいけない気持ちなのだと思ってしまう。

 苦しい。

 なんで、こんなにも苦しいんだろう。

 最近はあまりなかったのに。


 そんなところに誰かが来る気配がして、慌ててエレナは平常を取り繕った。


「お、バえるねぇ」


 そこにやってきたのは母だった。そして母はエレナを見つけるとそんなことを言った。しかしその古めかしい言葉にエレナは首を傾げる。


「ばえる?」


「あれ?通じない?」


「もしかして、ナウいとか、イモいみたいなやつ?」


「なんでそれを知ってて知らないの?」


 母は不思議なものを見たかのような表情になるも、すぐに話題を戻した。


「バえるってのは……う〜ん。ここだと似合ってるってことかな?写真に収めておきたくなるくらい綺麗ってこと」


「そうなんだ。ありがとう」


 やっぱり褒められるのは嬉しいもので自然と頬が緩んだ。


 今エレナは編み込みアップスタイルの髪型で、少し大きめの綺麗な花の髪飾りを付けている。化粧も多少していて、浴衣はピンクと白の花模様のそれだ。帯は黄色で本当にカラフルなイメージを抱かせる。

とても美しい少女の姿がそこにあった。


 そして、バえると言ったら端末を手に取る癖でもあるかのように母は自分の端末を取り出して何枚か娘の浴衣姿を端末に収めたのだった。


「お母さんは浴衣着ないの?」


 ふとエレナは母がいつもと変わらない普段着であることに気づいてそう聞いてみた。


「今さらお洒落してもね。良い年したおばさんだし、見せる人がいないしね」


「ちょっと見たかったかも」


 母はおばさんと言ってもほとんど白髪も皺もないし、スタイルには気を使っているからまだまだ綺麗な方である。一度母の浴衣姿を見てみたかったなと、エレナは正直に思った。


 そこへ一つの集団がやってきた。見ると健二とその家族だった。それに美枝もいる。彼らとは横浜駅の路上ライブ以来会っていないが、なんとなく仲良くなれそうだとエレナは思っていた。それにハヤトの友達だし、良い人たちに違いない。


「あら、日和さん。こんばんわ。今日はよろしくお願いしますね」


 最初に母に話しかけたのは見たところ向こうの家族の母親のようだった。彼女も母と同じく私服姿である。それに対して母も笑みを浮かべて返した。


「こちらこそ、よろしくお願いします。家は子供が多いので、迷惑を掛けないか心配ですけど」


「いえいえ、そんな。本当に楽しそうな家庭で羨ましい限りですよ。ウチなんて男連中ばっかで喧嘩茶判事で……ったくもう」


「それを言ったら家も同じですよ。女ばっかですけど」


 仲良さそうに話す母と向こうの家族のお母さんの会話を聞いてふとエレナはハヤトの友達の家族を見てみる。よくいるような夫婦にとてもやんちゃそうな三人兄弟だった。一番上の金髪の少年が健二で、その隣で美枝が彼と話しながらこちらに歩いてきている。


 不意に健二の弟らしき2人が駆け寄ってきた。なぜ健二の弟分かったと言えば、顔が彼ととても似ていたからである。見た感じ小学生だろうか?容姿がかなり似ているから双子に違いない。


「ねえねえ、姉ちゃんの髪って染めてるのか!?」


「目もそれカラコン!?」


 2人の男児は興味津々といった感じでそんなことをエレナに問いかけてくる。やはり髪を色んな色に染めるのが流行っている現代に於いてもエレナの髪のような白銀色は物凄く珍しいのだろう。それに青銀色の色彩なんて専用のカラコンでも造らないと手に入らないだろうし。


「なあなあ、どうなの!?」


「どうなんだ?どうなんだ?」


「ええっと……」


 なんかグイグイ来る。元気いっぱいの少年たちだ。

積極的すぎるのは苦手なのだけど……。


「こらっ!そういうこと気軽に聞いたちゃダメでしょ!」


 答えようとしたら子供たちの母親が柳眉を逆立てて彼らに叱責した。


「別に良いじゃん。そんくらい」


「ただ染めてるか聞いただけじゃん」


「ダメなものはダメです!わかった!?」


 二人はちぇっ、と下手な舌打ちをしてどこかに走っていってしまった。本当につまらなさそうに。しかし少し離れたところで怪獣ごっこみたいなことをしているところを見るに、新しい遊びを見つけたようだ。


 なんか可愛らしい。


「ごめんね。デリカシーがなくて」


「いえ、ぜんぜん」


 実際容姿で注目されるのはもう慣れたことだ。今更聞かれてもどうということはない。


「あ、こんにちは。久しぶりですね」


「ライブ以来だったか?」


 健二と美枝がこちらに気づいて声を掛けてきた。2人は私服で、少しお洒落な動きやすい服装を着ている。思わずエレナは自分の格好と見比べてしまって場違い感を覚えざるを得なかった。


「久しぶりだね。えと、美枝さん?敬語はいらないよ?」


「そう?じゃあ、私もエレナって呼ぶから、エレナもさん付けいらないよ」


「うん。わかった」


 実は前に路上ライブで初めて会った時に自己紹介は済ませている。友達になれているかはわからないけれども、気持ちは友達になりたかった。同い年だし。


「なんか私だけ浮いちゃってるね」


 周りを見渡してエレナは呟いた。ここでは彼女だけが浴衣姿だ。花火大会の出店にでも行けば他にも浴衣姿の人はいるだろうが、ここではどうにも目立ってしまっている。

周りと違うというだけで周りからの視線が気になって仕方ない。慣れたとしても全く気にならないというのは彼女にとっては嘘だ。彼女の魂はそういう風にできている。


 ちょっと恥ずかしい。


 しかし美枝は頭を振った。


「そんなことない。めちゃくちゃ綺麗だよっ!ああ、ほんと羨ましい」


「そうかな?ありがとう」


 他人に褒められるのもまた気恥ずかしい。それでもなんだか嬉しかった。


 そこで健二が頭の後ろで手を組んで。


「ハヤトの姉ちゃんたちってホント綺麗だよな。ハヤトが羨ましいぜ」


「あんたに姉ちゃんがいたらパシリにされるわよ」


「はあ!?なんでそうなんだよ!」


「あんたはハヤトと違って紳士じゃないし!」


 突如2人は言い合いを始めてしまった。それは一見ケンカのようにも思えて、エレナは思わずケンカを止めようとオロオロしてしまう。しかし言葉が出る前に気がついた。2人の口元が楽しそうに笑っていたのだ。

そして納得する。これがただのじゃれ合いであると。


 こうやって喧嘩をしていても互いを認めているからこんな関係でいられる。多少相手に強い口調で言葉を投げかけても、決して深刻的な罵詈雑言は吐かない。本当に冗談めいたバカとかアホしか言っていないのだ。なんやかんや言い合っても2人はどこか似ているとエレナは素直に思った。微笑ましいとも思った。


「ほんとに似てるね」


「「似てないっ!」」


「ほら、お似合いじゃん」


「「違うっ!」」


 全力で否定するところとかもうそっくりだ。ここまで気が合う人なんて一生に一度逢えたら奇跡に違いない。

なのに2人共自覚がないのだから見ている方からするとなんか微笑ましい。

自然と頬が緩んでしまった。


「そういえばまだハヤトは来てないの?」


 美枝が気づいたように辺りを見渡した。


「うん。もう少ししたら来るかな?」


「そっか」


 そう返してエレナも周りを見渡した。どうしたのだろうか。ちょっと遅い気がする。


 その時美枝が健二に小声で何か話しかけたのが見えた。それを聞いた健二も同意したように頷く。しかし健二はどこか複雑な表情を浮かべていた。


 なんだろう、と首を傾げていると不意に美枝がエレナの目を真っ直ぐに見てきた。


「ねえ、エレナ。お願いがあるんだけど、ちょっといいかな?」


「お願い?別に良いけど?」


 わざわざお願いなんて何だろうか?

 なにか大事なことが?


「あのね……少しだけ、ハヤトと2人っきりにさせてくれないかな?」


「え?」


 2人、きり……。

 それは、もしかして――。


「実はね――」


 その理由を来たエレナは目を見開いた。そしてなぜか困惑してしまう。でも美枝が2人きりになりたい理由も分かる。普通はそういうものだから。


「そう、なんだ。2人……」


 なぜだろう。

 すごく胸が痛い。

 本当に、どうしてだろう。


「結構前から考えてたんだけどね。やっと決心が着いたんだ」


「うん。頑張って」


 なんだかモヤモヤするも、エレナにはとやかく言う権利はどこにもない。ただ、結果のみを聞くしかない。


 そんなエレナの心情を見て取ったのか、美枝は申し訳なさそうな表情になって。


「それと、2人きりなんて言って、ごめんね」


「ううん。気にしないで」


 その時のエレナの声音は自分でも驚くほど弱々しいものだった。


「ありがとう。でもたぶんエレナが思うようなことはないよ」


 どこか清々しいほどまでに述べる美枝を見てエレナもどこか力なく頷いた。

 そして花火大会へ――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます!


 感想、評価、質問、お待ちしております。ブックマークもぜひ!またまた〜。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ