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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
未来の魔法編 序章 未来の世界 〜Distopia 〜
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暴動についての考察

 18時50分頃。


 ハヤトは横浜駅西口を出て、一度周りを見渡した。駅構内もそうだったが、やはりこの街は人が多い。見渡す限り人、人、人……。


 この横浜は奈良時代から人口が増え、実はペリーが二度目の日本来航時に日米和親条約を結ばせた地でもある。輸出入も盛んであり、日本の経済を支える一都市であるためにここは神奈川県の県庁所在地、及び政令指定都市に指定されている。


 また様々な異文化が集まる多様性に富んだ都市であるため人が集まり、主要な移動手段の要となる横浜駅は東京並みに混むことになる。


 人が集まれば相応に秩序を乱すものも増える。そこに色々な要因も合わさって治安が悪くなっているのはここ数年続いていることだった。


「……」


 見慣れているとはいえ改めて見渡すとうんざりする人の多さである。もう少し地方に分散すれば地方過疎化も緩慢になるだろうに。


 あ、過疎なんてある意味どこにもないんだっけ。

 確かどこも無人で森に還ったとか。


 そしてふとここが今朝の暴動が起きた場所だと思い出し、ハヤトはそのことを調べるためにメガネ端末を起動する。ちゃんと周りの人に気を配りながら関連するニュースを検索してみると、以下のことが記されていた。



【6月22日。日本標準時間午前7:20頃、横浜駅西口を中心とした暴動が発生し、2時間に渡り各線の鉄道とバスが運行を見合わせました。


 この暴動で死傷者257人に及び、内5人が死亡したとのことです。


 神奈川県警はこの暴動について、複数の企業に対する暴動だとの意見を示し、被害総額は約2000万円に上ると見ています。また、詳しい調査は継続中とのことです。


 さらに、暴動の参加者の大半が給料低賃金の外国人労働者であることから、政府が一昨年9月に公布した外国人労働者等規制保護法に関する対抗処置と捉える専門家もおり、更なる治安悪化が危惧され……】



 これを見てハヤトは首を傾げた。5人も亡くなってしまったのは痛ましいことだが、そもそも暴動という手段を取ったことに疑問を覚えたのだ。


 まず暴動以外に考えられる手段は労働三権を使うこと。団結するのは前提条件として、団体交渉権で企業などと交渉をする。それでも望んだ結果が得られない場合は、団体行動権でストライキをすればいい。


 勿論暴動のような暴力沙汰には発展させない。そうしなければ今回のように死者が出てしまうから。

きっとそれで上手く行くはずだ。


 今回はそのストライキが暴動に発展した可能性もある。しかしそれだと複数の企業の暴動が同時に発生したのはどう説明すれば良いのだろう。ただ単に偶然時間が重なっただけかもしれないし、同じような境遇の外国人が協力したのかもしれない。


「外国人労働者等規制保護法?」


 ハヤトは政治には詳しくない。この法律については父が何か語っていた気がしたが、右から左に聞き流していたから記憶にない。規制するのか保護するのか意味不明な名前だとしか覚えていなかった。


 一応これも検索してみたのだが、単に外国人労働者の人数を規制し、現在日本国内で働いている労働者には保証金を支払われたり、日本国籍を原則取れないようにする法律と書いてあった。


 どこに暴動の要素があるのかさっぱりだ。日本国籍は取れないにしてもお金は貰えるし、特に会社を止めさせられるわけでもない。今すぐに強制送還されるわけでもない。


「うぅん?」


『手伝いましょうか?』


 考えるのを止めようかという時に《アサヒ》がひょっこり画面の片隅に現れた。


 考えても答えが出てこないので、肯定の意を表すように一度頷く。


『何か疑問でもあるんですか?』


「いや、今回の暴動がこの法律に関係あるんじゃないかみたいなことが書いてあるんだけど、正直どこに暴動が起きる要素があるのか理解できない」


『ん? それは浜崎先生がよく話していた内容だと思うんですけど、聞いてなかったんですか?』


 やはり話していたらしい。


 《アサヒ》は一度ため息を吐くと、解説しだした。


『時間があまりないので、端的に大雑把に説明しますね。まずハヤトさんは日本に働きに来ている外国人はどういう人たちか知っていますか?』


「それは……技術や知識が豊富な人だったり、その家族だったり?」


『そうですね。日本政府はずっと一貫して移民や難民には厳しい政策を取っていますからね。では、彼らは現在日本でどのような生活をしているか知っていますか?』


 ハヤトは首を傾げた。ふと考えてみて、そう言えば彼らのことについて何も知らないことに気づいた。しかし考えてもいまいち分からない。

数瞬の間、ハヤトが沈黙していると《アサヒ》が言葉を続けた。


『正解は、超低賃金の労働生活です。残業してもお金は貰えません。もちろん違法ですが、消えてませんね。政府も無視しているようにも見えます。例外はありますが、殆どはそういう人たちです』


 そして彼女は続ける。


『一昨年までは外国人労働者もそんな状況でも沢山日本に来て働いていました。こんなでも日本は比較的治安が良く、国際的に評判が良い民族性をしていたからです。未だに経済大国4位ですしね。日本も労働者が欲しかったというのもあります』


 確かに国民が裕福に暮らせて、それが普通だと思えるくらいには日本は金持ちだろう。そこに働き口があるなら貧乏な国よりもお金は手に入る。


『しかしヨーロッパで40年以上も問題になっている国民の働き口の問題や非常に治安が悪くなるなどの問題が日本でも発生したんです。しかも外国人が以前よりも多く国内に入ることになって、違法な手段で滞在する人も増えました』


 そう言えば、この間スポーツ大会で外国人選手が失踪したなんて話があった。もしかしたらそうやって違法に滞在する手段としているのかもしれない。


『そんな把握するのも困難な人達が利用され、スパイがさらに多く入るようになり、この法律が出来ました』


「つまり、最初は労働者が欲しかったけど、付属する問題の方が大きくなったってことか」


 じゃあ、最初からそういう制度をやらなければ良かったのに。ヨーロッパで先に問題が起きていたんだから対策は出来たはずだ。

しかしそれは今更言っても意味はない。


『で、話を戻しますと、一昨年に公布されたその法律ですが、色々と外国人には受け入れ難いことが多々あるんです』


「そうなのか?」


『はい。まず彼らは一度仕事を止めてしまうと猶予期間を経て祖国に帰らないといけません。また旅行も含めて国外に出るともう一度数カ月から数年の時間を掛けて厳重な審査をしなくてはならなくなります』


 長いな。

 そんなに時間がかかるなら出て行こうとしないだろうに。


『これは労働者の家族も例外ではなく、日本国籍を取っていない場合、それらに違反したり重大な犯罪を犯したりしたらまず間違いなく強制送還されます。日本国籍を採れる基準もかなり厳しいものになりました』


 家族もとなるとかなり厳しい。なのに日本国籍を取れないとは。日本生まれの外国人の子供も等しく見知らぬ祖国に送り返される可能性だって出てくる。


 流石に理不尽ではなかろうか。


『そして2つめは保証金ですけど、全く当てに出来ない金額ですね。月々3000円は少な過ぎます。最後に彼らの給料の平均値は日本国民の給料の平均値の約半分なんですよ。しかも最近は第二次米中冷戦なんて言われて不況ですし結構生活は大変らしいですよ?』


 なんとなく理解できた。恐らく彼ら、外国人労働者は低賃金で働いて祖国よりは良い暮らしが出来るが、平等に扱われず給料が少ない。保証金も圧倒的に少なく、不況で解雇されることが増えてきた。


 そして仕事を失くし、祖国に強制送還されるとなれば、せっかくの努力が水泡に帰する。

不満を持つなと言う方が難しいだろう。


 そもそも帰る場所もあるか分からないのに。


 なんとなく日本政府が外国人を追い出したくて仕方ないという風に聞こえるのは気のせいだろうか?


 今のだけを聞いていると失業者は完全に働き口がないのに強制送還されると言っても過言ではない。しかもその家族もとなれば、それなりの保証をしないと世界から叩かれそうなのに。


「でもやっぱり暴動はないだろ」


『どうしてですか?』


「だって、そんなことしても怪我して医療費が馬鹿にならないし、死んだら元も子もないじゃないか。下手したら捕まって日本から追い出されるかもしれないし」


 その意見に対し、返ってきたのは予想外に少し呆れたようなため息だった。


『ハヤトさんはやっぱり日本人ですね』


「なんだよ、それ」


『暴動っていうのはある種のコミュニケーションなんですよ? 昔から人は圧政に苦しむと団結し、上に立つものを打倒してきました。それが自分たちの意志であると強く伝えるために。所謂個人主義ですね』


 そんな話は世界中にある。いわゆる革命や維新というやつだ。


『そして暴動による意志が強ければ強いほど、例えそこで失敗したとしても後世ではそれを受け継いで成功するかもしれない。そう思い、立ち上がるんです。自分たちのために』


 なるほど。通らないはずの主張を無理矢理通す。そういうコミュニケーションか。


『でもここ数百年の日本人はだいたい温厚で人や物を壊したりする習性がないみたいですね。一部例外が歴史上では派手に取り扱われてますが。おかげで本気で怒らないと強く言えない民族になったようです』


「そういうものか?」


『まあ、長期的に見れば日本人の非積極的な言動も良いことが多いんですけどね』


 正直言うとハヤトには《アサヒ》の意見はよく分からなかった。話がややこしいというのもあるが、ハヤトにとって人間は人間であって人類はみんな同じ存在にしか思えないのである。


 日本人とか外国人とかで分けたりする感覚はどことなく変な感じだった。人種の違いも殆ど意識したことがない。


 何か自分には理解し難いことを誰かがやっていたとしてもそういう考えの一面が自分の中にもあり、理解不可能な人間はいないとさえ思っている。


 まあ、父に影響され過ぎたのかもしれないが、民族の枠組みや宗教の枠組みはハヤトにとって果てしなくどうでも良いことだった。


 そんなこんな《アサヒ》の講義が終わる頃には目的地であるCONEDs第二ビルが遠目に見えてきた。高さは10階建てだからそこまで高くない。それでも大通りの向こう側の丁字路の正面にあるからよく見える。


 しかし歩道は雑踏で溢れ、隙間からやっと見える距離だった。ハヤトも身長が175cmあるし、そこまで低身長ではないはずだが如何せん外国人が多い。ハヤトの背が小さく見えるほどだ。


 歩く速さは、人混み故かひどく遅い。少しイライラしてくる。


 だから暇つぶしに夜の町並みを眺めることにした。

この大通りを挟むように立ち並ぶ数々の摩天楼は色彩豊かに燦々と輝き、車道には絶えず車の河が流れ、雑踏はその隙間を埋めるように蠢いている。夜を感じさせないこの街は大いに賑わい、目を回す程のコマーシャル映像やその音声が街中に数多く溢れていた。


 一見とても賑わっているように見える。しかしハヤトには寂しい場所に思えた。街を歩く人は数多にいるのに共に同行している人間以外目を合わせず、挨拶すらしない。代わりに目を向けるのは己の端末であり、街に溢れたコマーシャルであり、混雑した歩道であったり。


 それは普通のことかもしれない。ハヤトも誰にでも挨拶したり、目を合わせたりするようなことはしない。それでもこんなに発展して人が集まる場所なのに、人間関係が希薄なのがとても悲しく寂しい光景のように思われた。


 たくさんの人がいるのに孤独な場所。そういうなんとも言い表し難い気持ち悪さを感じさせる街。それがハヤトの横浜に対する感覚であった。


 不意にメガネ端末が震えた。


『浜崎先生からです』


 《アサヒ》の言うとおり通話を掛けてきたのは父だった。


「もしもし?」


『今どこだ!?』


 電話越しの父は珍しく声を荒げていた。今までそんなことが少なかったためにハヤトは少々動揺してしまう。


 走っているのか、父は少し息が上がっているように思われた。運動している訳ではないことは雰囲気で伝わってくる。階段を駆け上っているのか、あの特有の反響音が耳朶を打つ。


 それにスピーカーから聞こえてくるサイレンらしき音もハヤトの不安を掻き立てた。


 一体、何が起きているんだ?


「え、えっと。向かってるけど?」


『来るんじゃないっ!すぐに引き返せっ!』


 訳が分からない。

呼んだのはそっちだというのに。

急な用事でもこんなに必死にはならないだろう。


 考えられるとすれば、危ないことが起きている?

心配になって問いかけた。


「父さん。何かあったのか?」


『今こっちは――――』



 爆音。



 腹の底から響くような、花火が弾ける時の破裂音のような大音響が閃光と共に轟いた。突然のことに辺りは騒然となる。


 そして、狼狽した人たちの顔も見えた。

ある者は悲鳴を上げ、ある者は思わずしゃがみ込んでいる。


 同時に父との通話が切れてしまい、ツーツーと虚しく電子音が耳元に響く。


 何が起きたのか、考えるまでもなかった。

しかしハヤトは咄嗟にそれを否定した。


 いや、受け入れられなかったのだ。

なぜならその音と光の発生源が、今前方に見えているCONEDsの、父の会社のビルだったのだから。

 突然の爆発――。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 死傷者257人、内5人が死亡……かなり大規模な暴動(;´・ω・) アサヒちゃんが説明してくれる日本での外国人労働者の現状が読んでいて辛い……日本は今でも難民受け入れが少なかったり、低賃金の…
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