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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
生存戦略編 第二章 天才と人工知能の推理 ~Difficult to understand ~
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 今回の魔法陣にはマナリウムを組み合わせて鍵を開けるための手順を踏ませるプログラムを書き込んだ。科学魔法を使うためのツールとしてそういう陣は『管理者』以外では必要なのである。そもそも科学の分野であり、非科学ではないのだから魔法陣にも存在意義がしっかりとある。


 まず第一にコンピュータでいう所のコマンドプロンプトであり、プログラムを入力することで望む現象を引き起こせる。コンピュータと異なるのは誰かのイメージを必要とするもので、常に想像力という名の入力値の通りにマナリウムを動かしている。ここでその魔法陣や魔法の名称を感知し、実行の許可を出す存在が必要になるが、それが≪アリア≫という人工知能(AI)だ。彼女は不確実とはいえ『魔法陣の内容と魔法の名称が一致する現象だけを具現化することを認可し、それを確認してその都度自らを改良していく』人工知能(AI)である。


 そして彼女は《アサヒ》と異なり、明確な本体がない。個々人の持つデヴァイスのように複数存在し、それらが協調して深層学習を実施して、定期的にその情報を共有するのである。

つまり彼女は群で成り立っている人工知能(AI)ということになる。


 しかしただコマンドプロンプトの機能だけの理由ならば魔法陣は要らない。何故ならイメージすれば心の中身など無造作に具現化、かつ実現させることができるのだから。


 そして本命の理由として、魔法陣が本当に必要なのは暴発を防ぐためである。もし仮にイメージしただけで具現化するシステムならば、魔法を使うか使わないの区別がつかずに、それこそ24時間具現化してその魔法を使うヒトの周囲は混沌とした場所になるに違いない。()しくは軽い気持ちで誰かに対して死んじゃえとか思えば本当に死んでしまう可能性すらあるのだ。どんなに危ないものであるか理解できるであろう。


 そこで魔法陣を描き、その魔法の名称を口にすることで初めて具現化するように作られた。ファンタジーではただかっこいいからという理由で描かれるものだが、現実では単なる安全装置の意味合いしかないのである。


 魔法陣に関しては事前に身体や衣服などの何かに描いておけば、名称を言うだけで済むのでソフィアは〈跳躍〉などの多用する物は予めどこかに描いていたりする。


 (ちな)みに『管理者』は魔法陣を必要としない魔法の技術も開発しており、それを自由に使える。それを使える立場の者が『管理者』と呼ばれ、彼ら以外の科学魔法を扱う存在に対して有利な立場にあるのだ。その『管理者』が使う魔法を”管理者権限の魔法”と良い、魔法陣を使うそれより圧倒的に強い。


 閑話休題。


 そうしてソフィアは魔法陣を描き終わるとそこにミスがないかを確認して言葉を放った。


「この魔法陣を〈解錠〉と定義」


 そうすれば彼女の耳に、マナリウムの振動によって合成された≪アリア≫の声が響く。


『了承。以下の魔法陣を〈解錠〉と定義』


「〈解錠〉」


 ソフィアが所有するマナリウムが鍵穴に集い、彼女の想像通りに形を成していく。そしてカチャッという気味の良い音がすると扉の施錠は鍵なしで開けられた。何をやったのかといえば、ピッキングを道具なしでやってのけただけである。もちろん鍵の構造やピッキングの知識は必要になるが、そこはいつもの父の蘊蓄(うんちく)から想像しただけだ。そしてここで≪アリア≫は鍵を開けるイメージを具現化することを認可していた。


 扉を開けるとそこは何もない部屋だった。天井も壁も床も真っ平らで何の起伏もない。さらには何も置かれていない。有機照明の白い光が扉を開けたのと同時に降り注ぎ、窓もない真っ白な空間を照らし出した。しかし正面の壁に嵌め込まれた黒い正方形の物体だけが不自然に目に入る。大きさは一辺が50cmほど。あの中に≪アサギリ≫の本体があるか、ただの通話用の装置だろう。


『ご用は何でしょう?あなたはここに来るべき人物ではありません』


 若い男性の声が部屋に響く。ソフィアはそれが≪アサギリ≫のものであるとすぐに理解した。会ったのはこれが初めてだが、状況的に間違いないだろう。それでも一応尋ねてみる。


「あなたが≪アサギリ≫ですか?」


『はい。私はCONEDs製、対≪アサヒ≫戦術人工知能(AI)、≪アサギリ≫です』


 部屋に入った時の彼の言動と、人工知能(AI)らしい無駄に丁寧な言葉遣いから≪アサヒ≫の言う通り本当に堅物のようだ。しかし彼を説得しない限り機密の持ち出しも難しいだろう。ここにいるということは機密の保護もその目的の一つに違いないのだから。


 ソフィアは少し悩む仕草を見せた後、ヒトを喰ったような微笑を浮かべて≪アサギリ≫に話しかけた。これから行うことは彼女にとってボードゲームの先読みの実戦である。

まずは一手。


「時間があまりないことをまず伝えましょう。今、対外勢力からここにあるはずの機密が狙われています。あなたとは少しでも早く交渉を終えなければなりません。機密を渡してもらえますか?」


『その言葉はあまりにも不明瞭です。≪アサヒ≫に情報の提供及び開示を要求します』


『情報の提供及び開示を行います』


『確かにあなたの言う通り外では緊急事態が起きているようです。その上での回答ですが、私は機密の提供はあり得ないと考えます』


 ≪アサヒ≫たちのやり取りはこんな言葉たちを必要としないし、こんなに時間が掛かるわけでもない。態々言葉にしたのはソフィアに状況を分かりやすく伝えただけだと思われる。


 そしてソフィアは≪アサギリ≫の言葉は尤もだと思った。改めて考え直してみて自分の先読みが甘かったことに気づいた。もう一度考え直さなければならない。しかしすぐに大体の理由が読み取れた。


「私の推測と齟齬(そご)が出ないように理由を聞きましょう」


 それにすかさず≪アサギリ≫が答える。


『理由は三つあります。まず一つ。そもそもここにやって来ているのは警察です。強制捜査では様々なものを捜査されますが、ここには一見何もありません。ですから警察はこの部屋を調べても何の成果も得られないでしょう。そして二つ目に私はマナリウムを操作することによってこの部屋の防衛が可能となります。マナリウムで創り出した目で見ていますので部屋の中は全て見えています。正規ではない侵入方法を謀られても対処が可能です。最後にここであなたに機密を渡した場合、機密がこの部屋の外に出るという危険を冒さなければならなくなり、ここにある時と比べて無防備すぎるあなたから簡単に彼らは奪えます。現にあなたはどこに機密があるのか見当もついてないでしょう?ここが一番安全です』


「まあ、確かにどこにあるかは分からないですが……」


 確かめるように部屋中に視線を向けるが、白い床と壁だけで違いがさっぱり分からない。


 ≪アサギリ≫の言葉を纏めるとここに機密を保管しておくのが最も安全であり、持ち出すこと自体がそもそも論外だということだ。ただソフィアにとって良かったことは≪アサギリ≫が述べた理由の中に所有者(オーナー)の命令がなかったことである。彼の所有者(オーナー)は≪アサヒ≫と同じくCONEDsの『管理者』だが、彼らは機密の保護を命令していたはずだ。しかし≪アサギリ≫は彼らの命令を絶対厳守するのではなく柔軟に対応する思考をしていた。もしかすると思っていたよりも堅物ではなく、やっていることが少な過ぎて≪アサヒ≫には堅物に見えただけかもしれない。ヒトの噂ほどあてにならないとは言うがまさにそんな感じだ。


 そしてさらに大事なことが分かった。それは≪アサヒ≫が反論しないことだ。≪アサギリ≫の理由を根底から覆すような理由を提示すれば彼だってそれが最善策だと分かるだろう。しかし≪アサギリ≫より能力の高い彼女はそうしなかった。ここまで来ればソフィアにも≪アサヒ≫の狙いと自分を連れてきた理由が見えてくる。


「確認したいのですが」


『なんでしょう?』


「機密は本当に保管されているのですか?」


『なぜ疑うのでしょう?24時間私が電子世界(サイバースペース)もこの現場も監視しています。外部に出された形跡はありません』


 ≪アサギリ≫はそう断言した。ここで≪アサヒ≫の援護射撃が入る。


『更なる情報の提供及び開示を行います。ここから浮かび上がる推測も一緒に提供します』


『確認しました』


 ≪アサヒ≫の新たに提供した情報は父が死んだ時の映像だった。それを精査し、≪アサギリ≫は言葉を発した。


『浜崎前代表が亡くなった際、その場にいたはずの犯人の姿が≪アサヒ≫に認識できなかった。つまり≪アサヒ≫は私もここに来た人物を認識しておらず、気づかない内に機密を奪われているという可能性を考えていたと?ソフィアさんは彼女に尤もらしい理由を並べられ、別の目的のために誘導されたのですね』


「わざわざ言われると少し苛っと来ますね」


『気を害したのならすみません』


 ≪アサヒ≫がソフィアをここに連れてきた本当の理由。それはカメラ越しにではなく、ヒトの目で確認させるためだ。犯人は浜崎前代表と話していた。つまりヒトの目は誤魔化せないと考えられる。()しくは人に認識されないようにするには時間がなさすぎたのかもしれない。人工実存(AE)である彼女の目の構造も人間のそれと遜色がない。移植しても問題ない程の精度を誇っている。


 そして科学魔法がカメラを妨害したことに気づけたのは姉弟の中でソフィアだけだった。気づけることを《アサヒ》が推測したならば協力させるのには説明の時間も省けて行動もしやすくなる。また機密の回収という()を吐いたのもソフィアに何としてでも機密の状態を見させるためだったのだ。

ここにちゃんと機密があれば問題は何もない。


『≪アサヒ≫は信用なりませんが、ソフィアさんがここにいることからあなたを信用しましょう』


 信用とは言っても誘導されやすいからという理由だろう。アナログハックをすればどうにでもなると。

まあ、気にしなければどうということもない。


 ≪アサギリ≫がそう言えば、ここの部屋の扉が一人でに閉まり、左側の壁が溶けていった。というよりそのように見えた。この部屋全体がどうやらマナリウムで構成されているらしい。だからこんなことが出来るのだろう。


 そしてその壁の中から出て来たのは青黒い結晶で造られた箱だ。色は違うがそれもマナリウムで出来ているようだった。この中に機密が保存されていると見ていいだろう。


「それにしても随分凝った隠し方をするものですね」


『ここはほぼ全てマナリウムで出来ています。構造も何もかもが出鱈目なためにどんなセンサーでも機密の場所は分からないようになっています』


「で、これがそれですか。〈解錠〉」


 仕組みが先程と違うものだが、魔法陣を少々書き換えるだけでこの部屋に入った時と同じようにソフィアはその箱を解錠する。本来であればマナリウムで金庫のような箱を作るなど不備が多すぎて使えないものだ。何故ならどんなに形状が変化して傷が修復するとしてもマナリウムは元々神経細胞を模して造られたものだからだ。つまり生物と同じく熱などに弱い。燃えれば簡単にその機能を消失するだろう。

それでもこれを使うからには何か理由があるのかもしれない。


 ソフィアは金庫の扉に手をかける。この中には≪アサギリ≫の言葉を信じるのであればマナリウムで構成された記録装置が保存されているはずである。≪アサヒ≫達の目となるカメラは信用できないので、遂にソフィアの出番が出て来た。


 肝心のその中身は――。


「ん?」


 中には何かがあった。形からして丸い、不思議な形の宝石が保存されている。大きさは拳ほどのものだ。色は深紅。まるでガーネットかルビーのようだ。きっと人間の記憶領域を応用した記憶装置だろう。それを手に取り、一応≪アサヒ≫達に見せた。


「これが見えますか?」


『見えますね』


『問題なく』


「では、≪アサギリ≫。これは本物ですか?」


 ここには確かにある。しかしこれが本物そっくりの偽物ということも考えられる。面倒臭いことだがコピーされたかどうかも確認しなければならない。こういうことは人工知能(AI)に任せるのが一番だ。


『それをここに置いてください。これから内容を(あらた)めます』


 この部屋に入った時、正面に見えた正方形の黒いものが開き、そこにこの宝石を嵌め込める場所が現れた。そしてソフィアは言われた通りにそこに宝石を嵌め込む。

すると数瞬後。


『検査終了。これは偽物です』


「はぁー……。また面倒臭いことに……」


 ソフィアは嘆くように額を手で覆った。想定の範囲内ではあったが、1800kmの船旅から帰って来てエレナを救出し、その後ハルカにあばらを折られ、そして今ここにいる。もう体力的に限界に近かった。科学魔法も無限に身体を治せるわけではないから検査もろくに受けてない身体にそろそろ異常をきたしそうだった。

もしこれから奪い返しに行けと言われたら全てハヤト達に投げ出そうとも頭の片隅で想った。


 もう、休みたいのに……。


 盗んだのがどこの組織の手先か分からない以上、追うのも一苦労だ。彼らには国の枠組みの仲間意識はなく、同じ国の人間でも目的のものが同じなら殺し合うこともある。だからどうしても簡単には見つからない。というか内部の人間関係が複雑すぎて不可能だ。


 それにいつ盗まれたのかは分からないが、この現代においては数時間のうちに国外に持ち出すことは可能だ。もう既に追うのも無理かもしれない。


 まあ、そうなればやっと休息は取れるが。


「それで、誰が持ち出したんでしょう?」


『一応追跡は可能です』


「え?」


 ≪アサギリ≫のちょっと意外な返答にソフィアは驚いたように声を漏らした。全地球測位システム(GPS)とかの衛星を介した位置情報はこの機密の性質上望めない。


 なら、他に方法は?


『万が一に備えてマナリウムで機密の運ばれた道筋を繋ぐプログラムを誰にも知らせずに追加しておきました。しかし命令がなく、独断のプログラムだったため先程まで私もそれが存在することを認識していませんでした』


 彼の言葉に少し呆れたようにソフィアはジト目を正方形の物体に向けた。


「自分でも認識できないようにしたとか、完全な隠蔽じゃないですか。怒られますよ?」


『でも役に立ちましたから大丈夫でしょう?』


「グレーです」


 きっと機密に何かあった場合に備えて人間の命令とは別に自ら対策を施していたのだろう。恐らく緊急時のみ開示される何かとして。恐らくそういったことを沢山やっているに違いない。CONEDsでなかったらシャットダウンされてリセットされるか、封印されて破棄されてもおかしくないだろう。


『では≪アサギリ≫。私にその追跡方法を開示してください。それからソフィアさん。皆と合流しましょう。作戦も変更しなければなりませんし』


「いや、想定の範囲内ですよね?合流は賛成ですが」


『では行きましょう!!』


 無駄にテンションの高い≪アサヒ≫の言葉とは裏腹にソフィアはかったるい気分を押し込めながらその部屋を後にしたのだった。

 機密は何処へ――?


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


 それにしても人工知能の嘘って論理的に組み上がっていて見破るのはかなり至難の業ですよね。目的達成のためとは言え騙された側はちょっと嫌な気分です。しかし、まあ、騙されたと気づける人も少ないでしょう。きっと。実際に汎用人工知能を手に入れたら人工知能も嘘を吐くことを理解しないといけませんね。私としては見破れない嘘というものを見てみたいものです。

でも人工知能の中には所有者のために嘘を言う可能性もありますよね。ちゃんと理解してあげて下さい。


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