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10◇ドラゴンの洞窟でお部屋探し


「じゃ、エインセイラ姫が住む部屋は、かつてのお姫様の牢屋でいいかな?」


「エインセイラでいいわよ、バック。でも、牢屋? 牢屋と聞くと、なんだか嫌な響きね」


「お姫様が住めるようには作ってあるんだけれど。でも脱走防止の仕掛けもあるし、閉じ込めるのが目的の造りで、ここからちょっと離れてて住むには使い難いかな? そうなると、他にエインセイラ、が住むには、あ、ダンジョンを経営していたときの従業員の寮があるけど」


「ダンジョンの従業員が住むところ? そっちの方がおもしろそうね」


「そう? じゃあ」


 黒いドラゴン、バックが手を伸ばしてエインセイラ姫の脇の下に手を入れます。

 ドラゴンサイズのテーブルの上からエインセイラ姫を持ち上げて、床にそっと下ろします。身長5メートルを越える大きなドラゴンですが、お姫様の扱いは丁寧で紳士のようです。

 バックは机の上のエインセイラ姫のアリスパックを持ち上げて手のひらに乗せます。


「ついてきてエインセイラ、案内するよ」


「わかったわ」


 二人は再び洞窟の中へと。エインセイラ姫はバックの黒い尻尾を追いかけてトコトコと。バックの住む家から出て暗い洞窟の中を進みます。


「この洞窟がバックのダンジョンなの?」


「ここの地下がそうだよ。もう閉鎖したけど。えーと、なるべく僕の家に近くて、人が住める部屋、となると」


 バックの後に続いて黒い大きな扉を抜けると、真っ直ぐな廊下があります。片側に扉が並んでいます。


「ここが従業員寮で、マンションという感じかな。扉は僕のサイズだけど、Mサイズの扉もついてるから」


「Mサイズってこれ?」


 エインセイラ姫の見る先には大きな扉にくっつく小さな扉。人の使う扉にペット用の扉を付けたように、ドラゴンサイズの扉に人のサイズの扉がくっついてます。

 エインセイラ姫が使うには、人のサイズの扉だけ開け閉めすると良さそうです。


「人の大人のサイズをMサイズって言うの?」

 

「マンサイズ、が一番多いからね。ゴブリンにワーウルフに。Mサイズを基準に人より大きいのがLサイズ。人より小さい小人に妖精がSサイズ、ってとこ。ちなみに僕はLLサイズ」


「ダンジョンにはいろんな大きさの魔獣がいたのね。そう言えばバックが魔獣をたくさん雇ってたって、言ってたわね」


「そうだよ。サイズに合わせて制服や装備も支給してたんだ。いろんなタイプの魔獣を揃えることで一筋縄ではいかない、攻略の難しいダンジョンになるからね」


「種類がたくさんあると、対抗策もその分必要になるってことね」


「そう。だけど種類が増える程に支給する装備とか、これも種類が必要になるんだ。頭に角がある種族は帽子とか兜に穴が必要になる。背中に羽が生えてる種族は、制服の背中を開けなきゃいけない。Bタイプは靴とかいらないって言うけれど、住む処に食事は気を使う必要があるんだ」


「Bタイプって?」


「ビーストタイプ。いわゆる四本足。ケルベロスとか、スフィンクスとか。従業員食堂をバイキング形式にしたんだけどね。ヒューマンタイプとビーストタイプで食べるものが違いすぎて、あとで食堂を分けて欲しいって要望が出たりね。いろいろ改善しながらやってたよ」


「お城だと働いているのは人間ばっかりだから、そういう苦労は無いわね。ダンジョンの経営って、たいへんなのね」


「こっちの部屋は、確かマンティコアが使っていたっけ」


 バックが大きな扉を開けて部屋の中を見せてくれます。何やら床に魔方陣が描いてあり、その向こうに赤い祭壇があります。おどろおどろしい感じです。邪教の館という感じです。

 エインセイラ姫はバックに尋ねます。


「家具はそのままなの?」


「運ぶのが面倒って置いていった人が多いかな? ドワーフにダークエルフはちゃんと持っていく人が多かったか。今はここに誰も住んでないから、置いてある家具はそのまま使ってもいいよ」


「この魔方陣と祭壇は?」


「あとで処分しようとして、途中で面倒になっちゃったのがそのままに。ここで従業員がどんな宗教を信仰するかは自由だよ。だからインテリアも人それぞれ。壁は防音を効かせてはいるけど。このマンションでは、夜八時以降に楽器の演奏や、掃除や洗濯などの騒音は禁止。お祈りの歌や踊りを大声で出すのも、ドタバタと振動させるのもダメ。そこが守れるなら何を信仰しても構わないし、楽器の演奏も好きにしていい」


「マナー違反に厳しいのね。でも、いろんな魔獣がいると、いろんな考え方や風習の違いとかあるでしょ?」


「まあ、トラブルもたまにあるけど、そのマナーをわきまえて無いのは面接で落としてたし。ここはフロアマスターにボス担当や経営事務と、いわゆる幹部級の魔獣達が住んでいたからか、問題はほとんど無かったね」


 そう言うバックは目を細めて、懐かしそうに従業員寮の扉を見ています。


「あの頃は、忙しかったなあ……。魔獣が増えてジムや娯楽室を増築したり、今になってあの頃をこうして振り返って思い出す、なんてなぁ……」


 しみじみと語るバックは、なんだか隠居したお年寄りのようでした。


「打ち込んでいるときはダンジョンの経営のことしか見えて無かったよ。それが何のためにやってるのかと見つめ直したときに、やる気が失せてしまって」


「バックはこれから、自分探しなのかしら?」


「遅い反抗期なのかモラトリアムなのか。あっと、エインセイラ、使いたい部屋はみつかった? 全部空き部屋で埃だらけだけど」


「うぅん。どこがいいか迷うわね。バック、私と背丈が同じくらいの人が住んでたのは何処?」


「エインセイラと同じくらい? そこかな?」


 バックの指差すところ。エインセイラ姫が赤い扉を抜けて入ると、天井には妖しい輝きのシャンデリア。高級そうな黒い家具。真っ赤な壁紙の部屋が見えます。


「貴族か王族のお部屋のようね。赤と黒って色合いがスゴイけど」


「そこはフロアマスターを任せていた、ヴァンパイアロードが使ってた部屋だね」


「ヴァンパイアロード、それで寝室にベッドが無い代わりに棺桶があるのね」


「エインセイラはベッドと棺桶、どっちがお好み?」


「そうね、できればベッドで」


「他に家具は必要かな?」


 バックを見るとメモを片手にペンで何か書いてます。必要なものをメモしています。


「えっと、カーテンにベッドに布団、マクラと。エインセイラ、必要な物があったら言ってね。ドラゴンネットでワイバーン便に届けてもらうから」


「ワイバーン便って、あのさっきの赤いワイバーン?」


「そう。早くて便利なんだけど、ナマ物とイキ物は扱ってないんだよ」


「ドラゴンネットって?」


「あ、人はまだネットは開発してなかったっけ。ドラゴンネットはドラゴン専用のネット回線だよ」


「ねっとかいせん?」


「このあたり、人とドラゴンで技術格差があるから、説明が難しいな」


「なんだか、ドラゴンにしか使えない、魔法の道具、なのかしら?」


「うん、まあ、そんなとこ。ドラゴンの為のインターネットで、必要なものはそこで注文してワイバーン便で届けてもらう。それが便利でついついカップ麺と缶詰ばかりの暮らしになっちゃったんだけど」


 エインセイラ姫はお喋りしながらアリスパックを部屋に下ろし、赤と黒の悪者の幹部っぽい部屋をあちこち見ます。なかなか斬新な部屋ですが、テーブルやソファはエインセイラ姫のサイズです。


「ヴァンパイアロードが住んでたなんて、雰囲気出てるわ。この部屋に住んでもいいの?」


「いいよ、家具はそのまま使う? 新しいのを買って入れてもいいよ」


「ありがとうバック。さ、私、がんばってお掃除するわよ」


「え? ドレスでお掃除? 着替えないの?」


「ドレス以外はネグリジェしか無いのよ。お姫様だからドレス以外の服は持ってないの」


「先に着替えが必要なんじゃない?」


「そうかも。お料理するにもエプロンがいるわね。そうだ、チーズケーキを作らないと」


「チーズケーキ!」


 バックが赤い目を輝かせます。黒いドラゴンはチーズケーキが大好きなようです。しかし、すぐにその顔をうつむかせてしまいます。


「っと、ワイバーン便じゃ生クリームとかミルクに卵は運んでもらえないんだよなあ。そこはどこから買いつけるか。その前にエインセイラの服、ね。うーん、よし、エインセイラ、ちょっとこっちに来て」


「なに? バック、今度はどこに案内してくれるの?」


「僕の財宝部屋」


 バックは洞窟の中を進み、階段を下ります。ドラゴンの階段は一段一段が大きく、エインセイラ姫がドラゴンの階段を登り降りするのはたいへんです。

 階段を常に二段抜かしでジャンプしながら使うような感じで降りていきます。途中で気がついたバックが階段に苦労しているお姫様をその手に抱えて運びます。


「ごめんねエインセイラ。歩幅が違うのを忘れてた。エインセイラが使える階段で行けば良かったね」


「はー、はー、いえ、はー、このぐらい、はー、はー、」


「息を整えるまで、無理に喋らなくていいから」


 バックは息を荒げるエインセイラを手のひらから肘にかけて乗せて運びます。ちょっと変わったお姫様抱っこです。

 黒いドラゴンに運ばれながら、エインセイラ姫はバックの顔を見上げます。


「バックって優しいドラゴンなのね」


「もう怖くして人のヘイトを稼ぐ必要が無いからね」


 バックが白くて豪華な扉の前に立ちます。とても頑丈そうな扉を開けると、そこには財宝の山が積まれています。

 床は金貨と宝石で埋まり、あちこちに派手な剣や豪華な彫像、絵画や装飾品が無造作に転がっています。文字通りのお宝の山です。


「マジメにドラゴンらしく財宝を溜め込んでいたときのものだよ。随分とがんばったもんだ」


「スゴイわね。でもゼンゼン整理されて無いのね」


「管理が面倒になって。この貯金のおかげで今は引きこもり暮らしできてるんだけどね」


「これだけの財宝を集めるなんて、バックはスゴイドラゴンなのね」


「昔はね。今はぐうたらのニートドラゴンだよ」


 金銀宝石を前にしてバックは自嘲するような笑みを浮かべます。


「自慢する為だけに財宝を集めても、虚しくなったら意味が感じられない」


「バックの自分の中身は、財宝では埋められなかったのね」


 そう考えるとお宝って、何の為に誰の為にあるのかしら?

 エインセイラ姫はドラゴンの手に抱かれて首を傾げました。


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