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クラフトワーク  作者: 竹内緋色
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gene genius

4.gene genius


瀬田星矢はスーパーから出てきた。両手にはスーパーの袋を持っている。最近はビニール袋まで有料になっている世の中だから、エコバックを持ち歩かなければな、と瀬田は考えていた。春になり、大分温かくなったにせよ、少し肌寒い。瀬田は早く帰ろうと、歩みを進めた。

不意に後ろから声をかけられる。瀬田が歩いていたのは一本道で、後ろには誰もいなかったはずである。当然、誰ともすれ違ってはいない。

「瀬田星矢。」

 瀬田は恐る恐る振り向く。そこには彼の生徒が立っていた。

「救世くんか。こんなところでなにしてるんだい?先生を呼び捨てはよくないぞ。」

 瀬田は右手をポケットに手を突っ込む。瀬田を呼び止めたのは先日転校してきた救世英雄であった。

「要件は分かっているだろう。ベイビー・モンスター。」

 瀬田はポケットから素早く折り畳みナイフを取り出す。右手のスーパーの袋を投げ出すのと、ナイフを展開するのを同時に行う。そして、自分の左手首と左手に握っているスーパーの袋を同時に切り裂く。瀬田の血が地面に落ちた豚バラ肉に滴り落ちる。その豚バラ肉はぼごっという奇妙な音を立てて、人の下半身ほどの大きさの奇妙な生命体へと姿を変える。皮膚のないその姿は、桃色の形容しがたいなにものかだった。怪物が英雄を襲おうとするその前に決着はついた。いつの間にか英雄は瀬田の背後に立ち、瀬田の体はばきばきと奇妙な音を立てた。瀬田は倒れる。それと同時に、怪物もぷしゅうという怪音を立てて、汚い肉片へと姿を変える。英雄はその臭いに覚えがある。腐臭である。死んだ人間の発する臭い――

「そうか。お前があの限界人間か。」

 倒れた瀬田は苦しそうに言う。

「頑丈には作られたみたいだ。一体誰の作品だ?拓真か?」

「処刑人のあの趣味の悪いマントは着ていないんだな。黒い筒のような――」

「殺しの技術は人間相手にしか発達しなかったからな。怪物用に調整するべきか。」

 英雄は瀬田と話がかみ合っていないことに気がついていた。瀬田は自分の中の幻影と話しているのだろう。パンという銃声が響く。英雄が振り向くと、瀬田の傍らに、拳銃を持ったスーツ姿の若い男が立っていた。

「ジーン・ジーニアス。人思いに殺してやらないと可哀想じゃないか。」

「三好翔。」

 翔のリボルバーからは煙が黙々と立ち上っていた。

「一体お前らは何を考えている。卒業生を暗示にかけて。」

「その件は僕がやっているわけじゃない。拓真だよ。」

「双子だろう。そうか。お前も黙認しているわけか。」

「親に向かってお前はないだろう。まあ、正解だが。」

 翔は無造作に拳銃をズボンのポケットにしまう。

「だが、流石だよ。天才人間。君は局長でも解明できなかった、たぐいまれなる才能だよ。」

「人間の限界までしか能力がないが?」

「十分じゃないか。あらゆる天才の能力を十分に発揮できるだから。超能力とは確かに言い難いが。でも、それが僕の目標だ。」

「誰でも魔法が使えるように、か。」

「いいや。人類の進化の可能性だ。超能力者は無理矢理調整したせいで、どうもこの世の道理から外れる傾向がある。体の成長が止まったり、寿命が短くなったり。人を襲うようになったり。」

「最後のは調整した結果だろう。」

「君は怒っているのかい?」

「まさか。」

 それだけ言うと、二人は他人のように別々の道を歩み始めた。


 その日、弾の病室に初めて見まい人が来た。

「弾くん!」

 勢い余って見まい人が転げそうになったので、弾は頬を緩める。

「危ないぞ、はな。」

「怪我は大丈夫?」

「しばらくは安静。」

「そう・・・」

 はなが不安げな顔を見せるので、弾ははなの頭に大きな掌を載せる。

「心配すんなって。」

「うん。分かった。」

 はなの笑顔が輝いたので、弾は満足だった。

「これ、お見舞い。」

 はなは嬉しそうに果物の入ったバスケットを掲げる。

「みんなも来てたんだけど。」

 弾が病室の入り口に目を向けると、慶と静がにやにやとした顔で並んで立っていた。

「なんだよ。」

「別に。」

 慶と静は声をそろえて言うと、病室に入ってくる。

「あ、果物の皮、剥いてあげるね。」

「はなは手を切っちゃうでしょ。私がやる。」

 静ははなから果物を分捕る。

「そんなことないもん。」

「皮剥いてあげるってエロっ。」

 ドスン、という音を立てて慶は床に倒れる。静が思いっきり慶を蹴り飛ばしたようだった。

「どうしたの?」

 はなが弾の顔を覗く。

「いや、なんでもない。」

 弾は加賀からのメールのことを考えていた。

「ほら、食べよ?」

 別に自分でも食べられるのに無理にフォークで指した果物を口に突っ込もうとするはなに対し、弾はむずがゆい気持であった。慶と静はまたもにやにやとしている。


 その日、奇妙な来客があった。

 弾が物思いにふけっていると、風がふわりと弾の頬を撫でた。窓が開いていたのか、とそちらの方に目を向けると、黒い服装をした人間と思しきものが窓のヘリに腰と足を載せて座っていた。

「お前は――」

 弾が何かを言う暇もなく黒帽子は話を進める。

「君がどう進もうと僕には関係ない。君が何を欲しているのかも、正確には分からないからね。ただ、その道は蛇の道だ。へヴィーだよ。でも、進むのなら覚悟はあるのだろう。ただ、はなにだけは迷惑をかけるな。悲しませるな。」

「はなを知っているのか!」

 その時、一陣の風が吹く。弾が思わず目を細め、風が止み、再び黒帽子を見据えると、そこにはもう見据える対象はどこにもいなかった。

 弾はベッドの上で拳を静かに握った――


ブギーポップのパクリのようなものです。楽しんでいただければ光栄です。

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