表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
554/554

エピローグ

 何もかもが終わって決着して。それですべてが終わってしまえばどれほどまでに楽なのかを痛いほどに感じる今日この頃。そう、俺は今事後処理と言う名の書類仕事に忙殺されていた。


「しぬ、死んでしまう。マジで死ぬ。うう、また死ぬぅ……」

「ぼやく暇があったらさっさと手を動かせ!分身まだ増やせるだろ!」


 隣のデスクに座っているライガーが涙目で俺に食って掛かる。

 いやいやライガーさん?もう限界まで増やしてますからね?これ以上増やしてもいいけどそれだけでオイラ死んじゃう!


 あの日、世界のすべてが魔神の侵攻によってボロボロになった。


 どこの国もどこの町もボロボロのぐちゃぐちゃで、戦争なんてしている暇も無いから手を取り合って何とか復興しようと言う事になったのだ。それこそ、人の国も魔王の国も関係なくだ。


 そこで、何とか復興した大魔王の国王となることになったサクラちゃんに白羽の矢が立った。つまるところ世界連合組織――そのトップへの就任である。

 世界を陰から救い、守り続けていた大魔王――基、勇者グリムの娘であり、今回の戦いで魔王でありながら勇者となり、世界を救う一翼を担ったと評価されたわけだ。

 もちろん、ボロボロになった自国を立て直したという実績も評価してもらえている。ふふ、流石俺のサクラちゃんだぜ!


「その大半の仕事は大体お前がやったんだけどね」

「はは、だから今地獄を見ているのさ」


 俺は机に突っ伏しながらすらすらと書類を片付けていく。パソコン作業になれた子もいるので最近は俺一人分と同じくらいのスピードの文官も増えて来てくれて嬉しい限りである。まぁ、まだ数が足りていないんだけどね!


「頑張れ真人さん。僕はそろそろ死にます」

「諦めたらそこで試合終了だぞ、玲くん!帰ったら嫁さんたちが待ってるぞ!」


 目元に隈ができている玲君はつい最近結婚させられ……コホン、結婚した。


 相手は玲君に仕えていた勇者三人娘とさんだ。まぁうん、喰われたという表現が正しいような気もするけれど、そこはもう考えては負けなのだろう。


「嫁さんと言えば、あの話はどうなってるんだ?」

「まぁうん、お父様たちが中々ね……」


 そして、つい最近になってようやっと俺はライガーと婚約を結んだ。奴隷として数か月過ごした為に嫁の貰い手がいなくなったから、という建前で。無論、デートを重ねての結論なのは言うまでもない。その時だけ女の子らしい格好で来るとか卑怯だとぼかぁ思うんだ!まぁすっごく可愛いんだけどさ!!


「しっかし、ロムネヤスカ卿とライおっさん割と仲がいい筈なんだけどなぁ……」

「式の段取りやらドレスやらで揉めてるらしいよ?」


 呆れた顔でライガーがため息を付いている。そう、ロムネヤスカ姉妹ことカトレアちゃんにアイリスちゃんに、更にはクリュメノスさんの妹さんであるアコナイトさんまで俺の嫁さんになることになった。というか、なっていたんだ。いつの間にやらとか、気が付いたらとか、催眠術でもかけられたのかとか思えるようなレベルで。本当によくわからない内に妹の真理もセットで婚約してしまっていた。ドウシテコウナッタ……。


「俺の意思って一体……」

「嫌いじゃ無いんならいいんじゃないか?可愛い子たちだとは思うんだろ?」

「思うけど!そこはこう、もっと恋人生活とか送りたいじゃん!!」

「ボクらみたいに?」


 ニッコリといたずらっ娘のような笑みでライガーがほほ笑む。ああもう、本当にずるい。


「まぁいいさ。結婚はもう決まってるんだしね。それで、あっちはどうなのさ?」

「サクラちゃんは絶賛大魔王執務室で書類の山と格闘中。シルヴィアにフレア、伊代ちゃんも手伝ってくれてるけどまだ終わりそうに無いかなぁ……」


 ガリガリガリガリと書類の山を削っていく。あちらもこちらも終わりはまだまだ見えていない。





「まーくん!私の腕が死にました!もう無理です!むぅーりぃー!」

「しぬーしぬー」「んちゅー」

「手を止めるな!今日の分が終わらなければ明日の分になるぞ!」

「が、がんばり――ます」


 大魔王執務室も又地獄の様相を呈していた。以前の大魔王の遊び部屋の代わりにお仕事部屋が設置された感じである。これが普通。うん、普通だな!


「俺も手伝いたいところだけど、みんなにしかできない事ばかりだからね……」

「そう言う書類ばかり投げてくるのは真人だろう!全く、あとできっちりと元を取らせてもらうからな?」


 むぅ、と口を可愛らしくとがらせてシルヴィアがいう。昔の面影は最早どこにも残っていない。可愛い俺の奥さんである。


「己もとらせてもらう!」「むむ、オイラもついでに!」


 フレアは兎も角として、最近は公くんまでべたべたと引っ付いてくるようになってきたのはちょっと困りものである。うん、もふもふのネズミモードなら大歓迎なんだけどね!巨乳幼女モードは色々とヤバイ。世間体がヤバイ!俺のザンバットソードも割とやばい!!


「で、では――私も」


 ポッと頬を赤く染めて伊代ちゃんがそっと手を上げる。ああもう可愛いなぁこの子は!そう言う子は抱きしめてナデナデとしてあげたくなる。後でたんと愛してあげるとしよう。


「只今帰りましたぁ……」


 疲れ切った様子で帰って来たのはビオラちゃんだ。荷物を自分の机のわきに置くと、そのままぐてっと椅子に座り込んでしまった。


「お帰りビオラちゃん。あっちはどうだった?」

「はい、話自体はスムーズに終わったのですけど、中々帰してくれなくって……」

「まぁ、昔滅びた王の娘と王妃が再びその土地を納めるようになったのだからな。元々の王が慕われていたと言う事だろう」


 シルヴィアの言葉にビオラちゃんが突っ伏したままえへへと嬉しそうにほほ笑む。どうやら久々の里帰りはとっても楽しかったらしい。


「ですが本当に中々帰してくれなくって……」


 今現在、元々ビオラちゃんのお父さん――魔王フォカロルが納めていた土地はビオラちゃんのお母さんである茜さん(お義母さん)に領主をお願いしている。近年は人の国の一部になっていたのだけれど、復興の支援をする対価として大魔王国へと編入させてもらったのだ。元々奪い取った土地だっただけあってサックリと提供してくれた。それだけサテラさん作成のゴーレムたちの復興支援工事が素早く手早く正確だったと言う事だ。


「こちらとしてももーけもんだったけどね。うまい事鉄道を奔らせられたお陰で新鮮な魚が仕入れられて幸せ過ぎる……!」


 他国との交易の方も順調そのもの。大型交易船2号機の建造が出来上がったおかげで遠方との交易もかなりはかどるようになって来た。航空機の方は残念ながら旅客機や輸送機として運航するにはまだまだ各国の準備が足りな過ぎて難しいとのことだった。飛行場とかの整備に時間もお金も土地も人も足りてないのが現状である。


「他国、といえば以前は真人の世界へ大魔王様仕入れに行かれていたと聞いたが……」

「ああ、そうらしいね。今はかなり難しそうだけれど」


 大魔王が俺の元居た世界に割と頻繁に通っていたことを知ったのは魔神との戦いが終わった後になってからだった。何でも魔神の魔石の力を削ぐためにわざわざ異世界に出かけていたのだそうだ。

 どういう事かはヒルコ様がいい例だろう。俺らの世界からこちらの世界に転移する際にかなりの力を削り取られてしまったのだそうだ。それと同じことを大魔王もやっていたのだという。

 もしかすると、俺たちがかの魔神に勝てた理由も大魔王がコツコツと力を削ってくれていたからなのかもしれない。……まぁ、大体アニメショップとおもちゃ屋巡りをしていたと聞いてそっちがメインだったのでは、と思わざるを得ないのはここだけの話である。


 そして、その出入口として使っていた大魔王城地下の鳥居のゲートはその機能をほとんど失ってしまっていた。

 もともとあの装置は以前の――大魔王と魔神との戦いで生じた世界の穴がこれ以上開かないように制御するための装置だったらしい。けれど、もうその穴も役目を終えたとばかりに人がぎりぎり一人通れないくらいの穴しかなくなってしまっていた。

 まぁ、あのゲートくぐるだけで力を削がれるんだから、通れる人なんてほとんどいないんだろうけど。


「アニメと特撮の最新話くらいは何とか見れそうだし、それはそれで助かったかな……」

「クリュメノスさんが必死に穴を広げようとしてましたけどね……」


 ビオラちゃんがあはは、と苦笑いをしている。だけど、俺たちにとっては割と死活問題だったりするから割と真面目にグッジョブといっていいだろう。


「それで、花見の件はどうなってるんだ?各国の首脳陣とか集めて大宴会するんだろ?」

「ああ、まぁその予定だけどまだ咲ききって無いからね。バキバキに折れてて普通なら枯れてもおかしく無かったから、もう少し待って欲しいかなぁ」


 大魔王城の桜の大樹は魔神に吹き飛ばされた後もまだ生きていた。だからサクラちゃんが聖剣と聖鎧の座として力を注いだ結果、再び花をつけ始めたのだった。


「小さいころからずっとそばに居てくれた樹ですから。これもまた恩返しみたいなものですよ」


 とサクラちゃんは言っていた。ああもう本当にうちの嫁さんはなんて可愛いんだろうか!


「で、だ。前々から気になっていたんだが、お前その刀……魔神との戦いで柄に残ってた部位以外は消失したんじゃ無かったか?」

「そう言えばそうですね……いつの間にか元に戻ってます」

「ん、不思議」「あれ?なんかオイラたちと同じ匂いがするっす」


 みんなの視線が俺の腰元に結わえ付けられた鼓草に注がれる。うん、駄目だぞ。そんな風にみられるとこいつテレちゃうんだから。


 簡単に説明しよう。柄に残ったごくわずかの金属ではあったけれど、鼓草という刀には魂が宿っていた。いわゆる付喪神と言われる精霊のようなモノだ。俺の事をたまに助けたりしてくれていたのはこの子だった訳で、そんなこの子が最後の力を振り絞ってアマテラスへと変じた。


「その時にバリボリとエネルギーの塊を喰らいまくって、最後には魔神の魔石すら砕いて幾ばくかは食べちゃってるんだよね」


 そしてそのエネルギーを使ってまた再び俺の腰に収まる事となった。


「……精霊か。真人、これ以上嫁を増やすなよ?」

「大丈夫ですよ、シルヴィア。私はもう諦めましたから」

「サクラちゃん、諦めないで!俺増やしたくて増えてないからね!何でか増えてるの!」


 そう、俺のせいじゃない!だって、いつの間にか婚約させられてて、いつの間にか告白されてて、そしていつの間にか外堀まで埋められてるの!俺、悪くない!!


「「「「「いや、それはない/です/っす」」」」」


 みんな見事にハモって答えてくれた。おかしい、誰も同意してくれない……。相棒の気配ですらヤレヤレという感じである。くそう、おまえもか!



 ふぅ、とため息を付いて窓の外を眺める。


――最近になってようやっと眠れるようになった。


 もちろん、うちの嫁さんたちがそばに居るときだけなのだけれど。いままでどうやっても寝れなかったのが不思議なほどにぐっすりと寝れるようになったのだ。


 呪いが解けたんじゃないか、とサクラちゃんは言う。


 役目を終えたからだとシルヴィアは言う。


 成長期じゃないかとフレアは言う。


 愛する人が居るからですよとビオラちゃんは言う。


 今が幸せだからですよと伊代ちゃんは言う。


――きっと全部正しい。




 俺は一度目の人生を後悔ばかりで終えてしまった。




 二度目の人生で沢山の人と出会って、沢山の別れをして、沢山大切なものを受け取った。




 それでも反省ばかりの毎日だったけれど、一度たりとも後悔はしなかった。今日も、そしてこれからも。





――拝啓、俺を大切に育ててくれた義母様。




 俺、勇者だけど大魔王城で執事やってます。


 結局チートなんてもらえなかったけど、この世界に大切なものが沢山できました。


 もう二度と元の世界へ帰ることはありませんが、幸せに暮らしていきます。――敬具

 今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ


 これにて、勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?は完結となります。

 三年もの長い間、作者の趣味全開の物語にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

 年内中に誤字やら文章の公正とか修正をして、次回作に移って行こうかなと考えております。

 感想やポイントなど付けていただけると次回作へのやる気に繋がりますので、是非つけていただければ幸いです。


 それでは、よいお年を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ