最終話-後:長々としたタイトルばかりだったけれど大体中身と関係なかった気がするよね?
魔神の頭蓋の肉を焼き、骨を砕き、終ぞ身の丈もある巨大な魔石にアマテラスが突き刺さる。
――ああ、ようやっとここまでたどり着いたぞ!
『ぐ、ダ、がッ!!』
魔神魔石が煌々と怪しく光り輝き、グラリと次元が軋み、歪む。
別次元の無事な自分をペーストし、この傷を無かったことにしようとしているのだろう。
――だが、何も変わらない。
『ナ、何故……っ!?』
魔神の驚愕の声と共にビシリ、と巨大な魔石に致命的な亀裂が奔る。
「この技こそお前を殺し尽くす唯一無二の必殺」
両の手で持ったアマテラスに力を籠める。
「幾多、数多の事象を束ね集わせ、ここに帰結させた」
何をしようとも、どう足掻こうともこの一撃を受けたという“結果”は変わることは無い。
それこそが無限流/勇者一閃/奥義終局/木櫻之佐久夜/万華。
確定未来へと帰結させる神技をも超えた奇跡の一閃である。
『そンナ、ことヲ……しテ――』
「可能性と言う枝葉を斬り落としたわけじゃない。凡てをここに繋げただけさ。お前を斃し、未来を新たに描きなおすために」
満開のに咲き誇る桜の大樹のように。幾千、幾万、幾億と正しく星の数ほどもある事象の、その総ての終着点が“ここ”なのだ。
尤も、魔神がこの世界で勝ち得てしまえば後に残る結末はすべて同じなのだから今日この日、このタイミングであれば何も問題は無い、筈である。たぶんね!
「……だから魔神ラオグラフィア。ここがお前のゴールだ」
亀裂がさらに広がり、その隙間にアマテラスから溢れ出す光が浸透し――砕け散った。
『我は、死ナぬ!滅びヌ!コノ世界がアる限り、我ハ――世界を喰ラい尽くす為ニ、幾度デも蘇ル!!』
恐ろしい事をさらりと言う魔神さん。まぁそうだろう。こいつは太極図でいう陰の部分。正の部分が残っている限り再びその姿を現すなんて存在だ。
「ああ、魔神はいずれ現れるだろう。だが、お前はここで死ぬ」
砕けた魔石を更に細々と斬り、砕き、アマテラスが邪気を消し飛ばしながら喰らい尽くしていく。
『あ、あああ!やメ、ろ!消エル!わタし、が!!あ、アアあ!ああアアアアああ!!』
巨大な魔神の体がきらきらと光の粒子となって世界に還っていく。俺を掴もうと藻掻く大きな掌も触れる寸前で光と消えてしまった。
『水無瀬、真人!水無瀬ェえええええ!真、人オオおおォォ……!オ前さエ!!オ前サえいナければあああああ!――わたシ、が!……――?ワタシ、は……』
「――世界に還れ、ラオグラフィア。世界はお前を拒絶なんてしちゃいない。だってさ、そうじゃ無けりゃ魔物も魔人も生まれていないんだ。お前はこの世界にいていい。ああ、誰も認めなくても俺が認めてやる」
もうひと欠片ほどしかなくなったラオグラフィアの魔石をギュッと抱きしめる。
『まな――ト……」
雲をも超える巨体が霞み、消えていく。最早、声すらもほとんど聞こえなくなってしまった。
「さよならだ、ラオグラフィア。ああでも、きっとまた逢える」
『――ぁ。わたし、わた……し、は――………………。まー……――……』
ラオグラフィアが何か言い切る前に魔石は完全に砕け散り、光の粒となって散りすらも残さず無くなってしまった……。
最後の瞬間――ふわりと柔らかな少女の手が優しく俺の頬を撫でた気がした……。
「まーくん、終わったの?」
ボロボロにの聖鎧のままサクラちゃんが俺の傍へと飛んで来てくれた。自動再生機能が付いている鎧があれ程までに砕け散るなんて、よほどの力を使ってくれたのだろう。
「ん、終わった。やっと――」
ふっと、体から力が抜け勇者の装束が解けて、そのまま空から落ちていく。こりゃダメだ。体全然動かないぞい!
「ま、まーくん!」
サクラちゃんが慌ててキャッチして、何とか地面へのダイナミックキスを阻止してくれた。ふふ、流石は出来た嫁さんだぜ……。
『神の力を人の身で行使したのだ、この程度で済んだことが奇跡と言っていいだろうな』
「ぴぇ!?」
ヌッと俺の体から半透明のヒルコ様が顔を出す。
サクラちゃんが驚いて俺を投げ出しそうになったから、そういうのぉ!やめて欲しいなぁ!
『そんな事言われてものう……』
俺の肩から体半分だけ出してヤレヤレと首を振っている。この神様はまったく……。
「まったく、お前はいつもボロボロだな」
「ん、ボロボロ」「え、そうなんすか?」
呆れ顔のシルヴィアとフレアの隣で公くんはそうなんすー?と可愛らしく首をかしげている。
「無事で――良かった――です」
「真人さん!」
伊代ちゃんとビオラちゃんが嬉しそうに俺に抱き着いてくる。あ、待って、ビオラちゃんの髪の毛に宿ってるヤマタノオロチ姉さんズが顔に絡みついて来て……や、やば、息、息!ヤバいからぁ!!
「あっ……」
『ふふ、出遅れましたね』
シルヴィアの後ろに楽しそうな朧気なウインディア様の姿が見える。大精霊様なにしてはるんですか……。
「んじゃ己も!」「んじゃ、オイラも!」
「え、ええい!」
そして団子みたいに空中でひと固まりに抱き合う事となった。
「えへへ、やっとみんな揃いましたね」
幸せそうな声で俺を支えるように抱き着いているサクラちゃんが俺に頬ずりをしてくる。
「ああ、もう絶対に離さないさ」
ふぅ、と息を吐いて俺は空を見上げる。どこまでも蒼く広がる空には二つの月。
――ああ、何度見てもこの世界は美しい。
今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ
次話エピローグとなります。