32話:お腹が空いたときに近くのコンビニはとても便利だけど夜中でも食べれちゃうから気付いたらお腹のお肉がヤバそう……ヤバイよね?
大魔王城のあった辺りから黒い泥が間欠泉のように噴き出す。
周囲は既に泥まみれで生命の匂いが何一つ潰えて行っているのを感じてとれる。あの泥は触れたものに浸食し、そのエネルギーを凡て魔神のエネルギーへと変換している。つまるとこ、あの周囲はほぼ完全に魔神の御馳走となってしまっていると言う事だ。うん、地面まで食うとか節操無いな!
『ソウ、コの世界ハ全て――この神ニ還のダ』
ズン、と空気が揺れた瞬間。先ほどまであった大魔王城跡がその街並み事、巨大な縦穴となって消えてしまっていた。
地面ごと、そこで倒れたユウシャ達たちも、魔王も、何もかもをアレが飲み込んだのだ。
『嗚呼、生命があフれる。凡てガ我になっテゆく――』
恍惚とした表情で魔神がぺろりと舌なめずりをする。
……俺の知るこの世界の神々の大半はユウシャ達を面白半分で召喚している。
ある神はユウシャたちの魔法少女のような活躍を見たいから。
とある神は漫画や小説の世界に感化されて。
また別の神は圧倒的な力を持った時に人がどんな行動をとるのか、等々だ。
だが、その総ての神は一環として世界の滅びを望んでいるものは誰もいない。
――魔を殺し、世界を救え。
彼らは口々にそう言うのだ。
だから、こいつはこの世界の神なんかじゃあない。俺は絶対に認めない。
魔の神?ふざけろ。魔物も魔人も魔王たちも必死に生きていた。
自らの為に。誰かの為に。その誰もが滅びなんて求めていなかった。
ああ、知っているとも。何せ俺はその総ての魔王と殴り合って来たんだからね!
だからこそ認めない。こんなものが彼らの神であってなるものか――!
ギュウと握りこぶしを握り楽し気に笑う魔神ラオグラフィアに向けて鼓草を掲げる。
「滅せよ魔神。お前は――この世界にいてはならない」
『吠えルな――勇者如きガ。我はコの世界唯一の絶対なる者ゾ』
黒い泥が魔神の体へとドロドロと流れ込み、更にその体を強固なものへと変じていく。先ほどフレアと公くんが焼き崩した腕は黒い泥により完全回復し、逆に何やら先ほどよりも強靭になっているようにも見えた。ふふ、控えめに言ってマジでヤバい。さっきまででもヤバかったのに更にヤバくなっている。ヤバイだらけでマジヤバいね!語彙力が、足りない……!
だけど、不思議と不安はない。
この世界に来る前なら、こんな状況胃に穴が開いて喀血しそうなものだけれど俺の隣にはサクラちゃんがいる、フレアがいる、伊代ちゃんがいる。ビオラちゃんも、シルヴィアも、公くんにライガー、サテラさんも真理も、ヒルコ様も、アークルのみんなも、これまでであってくれたみんなが俺と共にいてくれている。
ああそうだ。俺はもう――独りなんかじゃあないんだ!
「行くよ、みんな!」
「はい!」「ん」「参ります――」『これで終わらせる!』
風を切り裂いて魔神のその巨躯へ向けて空を駆ける。眼下は全て黒き泥に染まり、行く手を阻まんと次々とデザイアが溢れ出す。
『邪魔だああああ!』
先行した嵐龍姿のシルヴィアが暴風を纏い、数万はいるであろうデザイアを蹴散らし舞い散る闇の泥を瞬く間に伊代ちゃんが地面ごと浄化してしまう。
「「むげんりゅー!おーぎのご!!えんこ-あらかん!!てんかッ!!!てんか!!!てんかあああああああああああ!!!」」
焱の連続蹴りにて巨大なデザイアたちを蹴って蹴って蹴り飛ばし、その総てを消し炭と化していく。二人の動きは正しく一体の龍の如く。
「まーくん!」「あいよ」
鼓草を構え、今まで食わせていた力をのっけて開けた眼前に解き放つ。
――無限流/刃/奥義ノ壱/武御雷-布都御魂×2!!
放たれた剣線は空を切り裂き、地面を砕き――魔神に届くその寸前でかき消されてしまった。
「そんな!」
悲鳴にも似たサクラちゃんの声が聞こえる。今まで通っていた攻撃が通らなくなっている。いや、恐らく、アレの完全な姿へと至ろうとしているのだ。
『真人様の読み通りです。先ほどは自分がくらってしまった攻撃を無かった次元からペーストしていたようなのですが、今回は攻撃そのものを当たる直前に無かったことにしています。魔神の周りに見えない障壁と次元断層を確認。恐らく、魔神の周囲は絶対守護領域になっています』
サテラさんが言うにはつまるところ、今の魔神には傷をつけるという事象そのものが発生しなくなっていると言う事なのだそうだ。
「そんなの、どうやって倒せば……」
刃を振るい、デザイアを消し飛ばすサクラちゃんの表情がだんだんと曇っていく。
地上からの援護が少なくなってきているのを鑑みるに、あちらもかなりいっぱいいっぱいになっているのだろう。敵との数の差が圧倒的すぎる上に、それぞれが黄色魔石の龍クラスの力を持っている。
そんなデザイアを相手にしながら、最早攻撃が通らなくなった魔神を斃さなければならない訳だ。絶望してしまうのも無理は無いだろう。
「だけど俺は諦めない。何故ならここにみんながいる。俺がいる。だから、絶対に勝てる」
「まーくん……?」
何か感じたのかサクラちゃんが不安そうな顔ををのぞかせる。
「大丈夫さ、俺は必ずサクラちゃんを……ううん、俺の愛するみんなを幸せにするって約束したんだ。だから――」
『ココで消え去レ』
「っ!」「!?」
急速に、そして急激に周囲が冷え始める。氷魔法なんかじゃあない。これは、魔神がその周囲凡てをひと固まりのエネルギーへと転化させたのだ。それは途轍もなく、途方も無く強大で。先ほど俺が勇者へと至った魔力砲など比にならない程のエネルギーが込められていた。
――八咫鏡……駄目だ。鏡ごと消失する。
――迎撃は――無駄だ。あれ程までの大質量は捌けない。
――回避――間に合わない。これほどまでに至近距離では――!
『なれば、その総てを受け止める』
鼓草を持った手が自然と魔神へと掲げられる。
「無茶だ!お前が壊れる!」
『お前ではない』
「駄目だ、鼓草!」
『断る――我は剣。主と共にある剣なり』
リンと何だか嬉しそうな鼓草の鍔が鳴り響く。
……子は親に似るという。まさか、剣まで俺に似てくれるとは思いもしなかったけれど。思わず笑みを浮かべて、鼓草の柄を強く握りしめる。
「わかったよ、相棒。覚悟はできてるかい?」
『――ああ、できてるさ』
トンと、空を蹴り。奥義/哪吒にて魔神に向けてその刃を振るう。
瞬間、無常にも凡てを消し飛ばす光が俺を、俺たちを飲み込んだのだった。
今日も今日とてとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ