31話:山のように大きいって標高六十センチから九千メートルまであるからどれで比べればいいのか人それぞれでかなり変わりそうだよね?
魔神が歩くだけで巨大な足が地面を砕き地面のごと味方を踏み殺し、巨大と言うには馬鹿らしくもなるほどの巨腕が空を薙げば、飛ぶ者たちが地面へと叩きつけられてしまう。
大きすぎて動きがゆっくりと見えてしまっているが、近づいてくればどれほどまでに高速で近づいているのかが分かる。動くだけで空気がわなないてプラズマの雷光が走り、大地は揺れ、砕けた。
「ああくそ、デカすぎて距離感が分かりづらい!」
空中をクルンクルンと駆け巡り、刃を振るってデザイアを蹴散らしながら頭の中を巡らせる。
単純な攻撃でできた傷は次元変換により瞬時に治して見せていた。だが、先ほどの腕だけは違った。泥を――大地から力を吸って腕を治したのだ。治ってしまえば同じだといえばそれまでだけれど、違うと言う事はそうせざるを得ない理由があったと言う事になるのだ。
ああもう!パワー魔力も回復力もすさまじいのにめんどくさ過ぎないかなこいつ!
『そのくせ、速い』
「うう、やっぱり蹴り技以外も使わなきゃダメっす?」
爆炎龍姿のフレアとその頭の上に乗ってる公くんが涙目になって来ていた。先ほど腕を吹き飛ばした時に一緒に攻撃に参加していたらしいのだけれど、攻撃が届く前に二人して風圧で吹っ飛ばされてしまったらしく落ち込んでいるらしい。
「そういう時は前に教えた韋駄天と組み合わせるんだ。普通の人じゃ足が砕けるけど、公くんならいけるんじゃないかな!」
「なるほどっす!」
『なるほど……』
焱を纏い、周囲のデザイアたちを焼き払うと爆炎龍の姿から真理たちを参考にしたという魔法少女な姿へと変じる。真理たちの意見を参考にロリータファッションよろしくふりふりなスカートの下は、短めのスパッツになっているらしい。けれど、お尻周りがショートショートパンツクラスに短くなっている気がするのはきっと俺の見間違いだろう。うん、見えてない!!あと、背中もガッツリ開きすぎじゃないかな!旦那さんとして他の人に見せたくないぞこれ!
『人の姿の方が力を振るえるか。ううん、ボクももう少し研究すべきだったかな……』
インド象クラスのデカさの龍型デザイアたちを風の刃で数十匹ほど切り刻んだ嵐龍姿なシルヴィアがぼやく。いや、十二分に強いとおもうけど――
「そうじゃないんですよね。ふふ、きっとまーくんに可愛いって言ってもらいたかったんだと思います」
『な、ちょ!?』
「なるほど……」
スカートをひらりと揺らしてサクラちゃんと巫女服姿な伊代ちゃんが俺の背中に背中を合わせてくる。二人とも華奢でとっても軽い。今すぐギュっと抱きしめたいのはぐっと我慢してシロナガスクジラサイズな龍型デザイアをサクラちゃんと二人で切り裂く。
――無限流/刃/奥義ノ壱/武御雷-布都御魂×2!!
綺麗に三枚おろしに切り分けられた巨大デザイアが灰になって跡形も無く消えてしまう。魔石もすでに持っていないこいつらは純粋に泥から生まれた化け物。倒しても何も残らないとか、労力に見合ってないと思うんですよ!
「うん、お疲れ様。全部終わったら大部屋でみんなでおしくらまんじゅうね」
ぎゅっとフレアが俺に抱き着く。たわわな感触がお腹辺りに当たっていて、正直やばい。頑張れ、頑張れ俺のザンバットソード!抜剣するのはまだこの時じゃあないぞぅ!
「はい、みんなで――です。私は――まだ、参加したこと――無いですから」
頬をポッと染めてしっとりとした表情で伊代ちゃんも俺にくっつく。
「はい!みんな一緒です!ふふ、いつの間にやらお嫁さん五人を軽くオーバーしそうな勢いですが……。正直、もうみんな幸せになればそれでいい気がするんです!」
背中合わせだったサクラちゃんがくるりと振り返って俺に抱き着いてくる。あ、シルヴィアがすっごい恨めしそうな顔をして――って、こんな時にうちの嫁さんは何を言い出すかな!
「だって、まーくんったら世相無しに女の子を助け過ぎなんですもの。アイリスちゃんにカトレアちゃんだってそう。サテラさんにナナちゃんだって――」
『まって、何で突然そういう事にいうの!?』
木札の通信にナナちゃんの慌てたような声が入って来る。うん、突然過ぎて俺もびっくりなんだけど!?
「こういうのは言えるときに言っておくのが重要なんです。ほら、俺この戦いが終わったら結婚するんだとか言えないフラグって聞くじゃないですか!」
「それもそうだけど、時と!場合が!あるでしょう!」
『私もそう思います――が、失礼いたします』
巨大な影が爆音と共に空を駆け上がり、両の手を広げて空中に多重魔法結界を展開させる。と、同時に魔神の手が結界に向けて振り下ろされたのだった。え、え、飛べたの!?あの巨体で!!!??
「っ!サテラさん、結界に傾斜をつけて!右方向で!」
『諒解――』
ミシミシとゴッド・ルクスティアーズ・エクステンドが軋む音を鳴らしながら結界を斜めにすると、振り下ろしていた魔神の巨大な手が滑って地面へと振り下ろされる。
「サクラちゃん!」「はい!」『風圧はボクが――!』
吹き荒れた爆風と土煙がシルヴィアの翼の一振りで消し飛ばされ、視界が、開けた――!
「焔!」「纏いてっす!」
聖剣と鼓草に炎が宿り、その刃が紅に染まる。
――無限流/刃/奥義ノ参/加具土命-火産霊×2!!
爆炎が瞬き、閃光が煌めく。数キロはある巨大な腕を焼き切ると、今度は焦ったかのように逆の拳が振るわれた。ああ、そう来るだろうね!
「今度は――私の番、です!」
九つの金色の尾を揺らした伊代ちゃんが空を駆け、札を幾枚も投げて両の手をパンと合わせる。
――巫術/第壱の秘術/八咫鏡-降天伍華!!
前面に張り巡らされた巨大な八咫鏡は攻撃を防ぐものではない。ただ――そう、先ほどと同じく照準をずらすだけでいいのだ。今度は右斜め上方向にだけど!
空を蹴って天高くへと舞い上がっていたフレアと公くんが反転、韋駄天にて音速を超えて墜ちながら焱を纏う。
「「むげんりゅー!むて!おーぎのろく!!」」
莫大な焱が空気を焼き焦がし、駆け巡る紅蓮の軌跡が彗星の如く尾を引きながら迫りくる巨大な塊へと叩きつける。
「「なたく-あらかん!!かてええええええええええええええええん!!!」
天をも焼き尽くすその純然たる焔は莫大な質量を持つ魔神の拳を肘まで炭化させ、その勢いのままに後方の山へと叩きつけたのだった。流石うちの嫁さんと「ペット!」だぜ!!
……ふんす、とススまみれの公くんが何だか満足げな顔をしていた。そろそろ自分が普通に女の子なのを自覚してほしいな!ペット扱いのままじゃ、俺が!!ものすっごく!!困る!!!!
今日も今日とてとってもとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ