27話:元旦の初詣で一番大切なのは願い事でもお賽銭でもなく去年の平穏無事を神様に報告したりお礼を言う事が一番大事だったりするよね?
――地鳴りは尚も止まることなく鳴り響き、辺りの壁や床にひびが入り始める。
何せ魔神のでっかい魔石が砕けていないのだ。つーか砕けない!傷すら入らないんですけど!
グリムが自らの中に魔神を封じた理由もコレだ。実際にやってみたけど本気で砕けないなこれ!まぁ、さっきの技を放った時に腕が破裂したらしく、その傷が治りきってないのも原因かもしれないけど。ふふ、すっごく痛い!
『そう、すべては無駄な事です――』
頭の中に声が響き、魔神の魔石がふわりと浮かぶ。こいつ、この状態でも動けるのかよ。
『世界は――滅ぶ。サクラと私を切り離したところで変わることは無い。大魔王となったグリムと魔王としてのサクラの力は残っています。つまり、あなたが何度も何度も死んで辿り着いた結末は――私の勝ちと言う事。さようなら、勇者真人。飛び切りの絶望の中で私の中へ還りなさい』
言いたい事を言って満足したのか、魔神の魔石は大魔王の間の床を透過してどこかへと行ってしまった。恐らく復活する己の肉体の元へと向かったのだろう。
「……サクラちゃん。ごめんね、すっごく遅くなった」
聖鎧を聖剣の鞘に戻して、地面に寝かせていたサクラちゃんをそっと抱き上げる。腕は……うん、完全では無いけど腕に見えるくらいには治ってくれているようだ。
「――……まー……くん?」
ふぅ、と息を吐いてサクラちゃんが目を開く。瞳の色も輝くような金色から綺麗な鳶色の瞳になってしまっていた。
ああ、可愛い!黒髪のサクラちゃんマジ美少女!銀髪のサクラちゃんも可愛かったけど、黒髪も似合っててすっごく可愛い!
「あ――まーくん、髪の色……」
そっとサクラちゃんの手が伸びて俺の髪に振れる。そしてやっと気づく。白髪――俺の髪の色は気付けば真っ白になってしまっていた。
「これじゃあサクラちゃんと髪の色を入れ替えちゃったみたいだなぁ」
「ふふ、何だか格好良くて私は好きですよ?」
にっこりとサクラちゃんのほほえみを見て、思わずぎゅっと彼女を抱きしめる。ああ、やっと抱きしめることができた。やっとサクラちゃんに俺の思いをまた伝えることができる。
「俺も大好きだ。黒髪のサクラちゃんもすっごく可愛い。ああもう愛してる!世界一可愛いよサクラちゃん!」
思わず握りこぶしを握って叫んでしまった……。サクラちゃんはてれてれと顔を真っ赤にしてそんなことないですようと顔を両手で覆っているけれど、そんなところも!可愛いんですよ!!
……地鳴りがまた大きくなった。
ラオグラフィアの言葉から考えると、あと一分と経たないうちにアイツは完全な魔神となって復活するだろう。
「世界が終わっちゃう……」
ぎゅっと俺の服を握ってサクラちゃんが震えた声でヒビが入り始めた大魔王の間の異空間の空を見上げる。
「いいや、終わらせないさ。その為に俺がいる。みんながいる。――サクラちゃんがここにいる」
サクラちゃんをそっと崩れた瓦礫に座らせて、俺は肩膝をついて鞘に納めた聖剣を差し出す。
「勇者サクラ。今こそ借り受けていたこの剣をお返しいたします」
俺の言葉にパチクリと驚いた様子でサクラちゃんが目を瞬かせる。だけど、すぐにそっと手を伸ばし――聖剣をその手に収めた。
「まーくんがそうしてって言うんだから。きっとそれはまーくんがそうすべきだって思った事……なんだよね」
瓦礫からトンと飛び降りて、サクラちゃんは一気にその刃を引き抜き、天に掲げて見せる。
<――汝、何が為に力を求む>
<――我は剣><――我は鎧>
<<――汝、何が為に力を求む>>
ジ・アンサーとトゥルース・ジ・アンサーの声があたりに響き渡る。
「そんなの、決まっています」
すうと大きく息を吸って天に剣を掲げ、サクラちゃんが叫ぶ。
「目の前の大切なみんなを私は護りたい。救いたい。手を伸ばしたい。私は強欲なんです。全部、全部救いたい。その為に、力が欲しい。世界を滅ぼすあの魔神を打ち倒すために!」
<<我ら、答えを得たり!なれば、我らが名を呼ぶがいい!>>
「――お願い、力を貸して!聖剣ジ・アンサー!!そして、聖鎧トゥルース・ジ・アンサー!!」
白銀の光が瞬いて、一瞬のうちにサクラちゃんに聖なる光が白銀の鎧を生み出す。……あれ、俺の時は前進鎧だったのに、サクラちゃんは白銀のドレス型の鎧になってるぞ!一体どういう事なんです、聖鎧さん!
『その方が可愛い』『同意、女の子は可愛いのを着ないと』
聖鎧と聖剣がうんうんと頷いているような返答をくれた。こいつら分かっていやがる……!
「本当に纏えました……でも、私は魔王で……」
「簡単な話さ。今のサクラちゃんはもう魔王じゃないんだ。何せ、魔石をもう持っていないからね」
「えっ!?そ、それじゃあ私、今魂が無いんです?」
驚いた顔も可愛いなぁ!つまるところ、俺がラオグラフィアに放ったあの一撃でやったことは肉体から魔石を切り離す事では無く、サクラちゃんの魂から魔石から切り離すことが最大の目的だった訳だ。だからこそ、本来そこにあるべきでない魔神の魔石は弾き出され、勇者の血筋である黒髪清楚なサクラちゃんが爆誕したのだ!カワイイ!
「グリムが言っていたんだ。サクラちゃんのお母さんが聖剣をここに残したのはサクラちゃんの為なんだって。何せサクラちゃんは魔王である前に、この世界を護って来た勇者たちの娘だったんだから」
「お父様……お母様……!」
ぎゅっと、聖剣をサクラちゃんが抱きかかえている。うん、抜き身で危ないから気を付けてね?
「でも、まーくんはどうするんですか?このまま戦うつもりなんですよね?」
「それなら問題ないよ。だって俺には鼓草があるし、それに――」
『そう、神である私がついておるのだからな!』
待っていましたとばかりに俺の懐飛び出して来たのはヒルコ様。俺が何度も死んでも頑張って一緒について来てもらっていたのだ。
『ふん、最初から私の力を借りておけばよいものを、此奴はまた無理ばかりする』
「まだそこまで力が戻ってないでしょうが」
それはそうだがの、と言って小さなぬいぐるみくらいのサイズのヒルコ様が俺の肩に座る。
「さて、時間か」
時空が砕け、外壁が、天井が、崩れ落ちてサクラちゃんと共に大魔王城の外へと弾き出されてしまった。
瞬間、爆風が巻き上がり俺とサクラちゃんは上空高くへと更に吹き飛ばされてしまう。
「サクラちゃん!」
「まーくん!」
なんとかサクラちゃんの手を取って、風を纏って体制を整え影に覆われた空を見上げる。
「――なるほど。神と呼ばれるほどの事はある」
そこには――雲を突き抜ける程に巨大な、本当に巨大な昏き神がそこにいた。
≪滅びの刻来たレり――さぁ、人ヨ、魔ヨ、精霊達ヨ。――我に、還レ≫
声ではない。魂に響く思念波が世界に向けて解き放たれたのだった。ああもう、半端ないなこいつ!!
今日も今日とてとってもとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ
前話に抜けがありましたので修正&加筆をしておりますOTL




