22話:変わらないモノ
兄さんがプラントを全部潰してくれたおかげで魔物の無限湧きが無くなったとはいえ、泥を被り受肉した魔物達の数はいまだに圧倒的だった。
魔王と勇者の全軍が全力で相対して、ようやく拮抗していると言う所。本当に数が減ってくれない!兄さんはやく戻って来てー!
「愚痴を知っても仕方ないだろう!ほら、手を動かす手を!」
「ああもう、魔力尽きそうなんだけど!」
ライガさんにせかされるようにさらに追加で魔力砲をロムネヤスカ姉妹と魔法少女母娘と一緒に撃ち放つ!いつの間にか五人になっていると話したら兄さんがとっても喜びそうだなと思って頭を振る。大分私も頭が疲れているらしい。というか、沙夜も一緒に頑張ってくれてるしね!
「数を減らせばそいつらが死んだ味方の魔石を喰らってパワーアップしてるのどうにか止めれないかなぁ」
「こちら側の魔石持ちの方々が魔石を取り込んでくださればいいのですが、それも中々。砕くにしてもそれなりに時間がかかってしまうのです」
アイリスちゃんが肩で息をしながらそう答えてくれた。分かっている。分かっているけれど、分かりたく無い!こう、地面に落ちてる魔石だけ掃除機みたいに一気に吸い取ってくれたらいいのに……。
「――なるほど、それはいいアイディアですね。風でからめとってすべて回収してしまいましょう」
「へ?」
声の方を振り向くとすごく綺麗な女の人が立っていた。薄緑色のふわふわとした髪を風になびかせて、白いドレスを身に纏った落ち着いた雰囲気の美人さん。ええと、どちら様でしょう?
「あら、寂しいですね。これでも皆さまと一緒に旅をした仲ですのに」
ニッコリとほほ笑む彼女ではあるけれど、丸で見覚えが無い。こんなに綺麗な人なら一目で覚えれそうなものなんだけれど……。
「ぶっ!?ウィンディア様じゃないですか!何でこんなところに!というか、真人の――」
「はい、なのでお手伝いをしにまいりました」
周囲に一陣の――凄まじい風が吹き荒れると、ウィンディア様とライガさん呼ばれた人の後ろに大量の魔石が転がっていました。え、何。何が起きたの!?
「はい。風で魔石だけを探し出してすべて絡めとって集めました。連続で使うと真人さんが不意を……あ、ええ、大丈夫ですね!」
「今兄さん死んだんじゃないの!?死んでないよね!」
コホンと咳払いをしてニッコリと笑顔で返してくれた。だ、大丈夫かなぁ……。
「彼女は風の大精霊ウィンディア様だ。ウィンディア様が大丈夫と言うのだから大丈夫……大丈夫ですよね?」
「はい、頑張って戦われていますよ」
ウィンディア様ーこっち向いて言って欲しいなー!と言ってみたけれどすごい苦笑いをされてしまった。兄さん、頑張って。超がんばって。
ともあれ、兄さんが無事なのは確からしい。それなら私たちも頑張らないといけない。……魔力の底が見えて来てるけれど!
「それなら簡単。魔石から魔力をもらちゃえばいいのよ!」
ウィンディア様の後ろからひょっこりと現れたのはこれまた美人さんだった。ぼさぼさの髪を後ろ手に纏めて眼鏡をかけ、ゆったりとした黒い服を身に纏っている。
「お久しぶりです菜乃花さん。まさか来ていただけるとは……」
「世界の危機だし、何よりシルヴィアちゃん直々にお願いされちゃったしね。そのおかげで首尾は上々だよ。ほら、背中向く!」
そう言って私とビオラちゃんの背中に何かを描く。え、何?何されたの!?
「私は魔術紋の専門家なの。さ、できた!どう魔力は回復出来てる?」
「――あ、あれ?本当だ!さっきの気怠い感じが無くなってる!」
何をされたのかはわからないけれど、魔力がほぼ完全に回復している感じがする。これはすごい!本当にすごい!
「そう言う訳だから頑張って魔物を倒してね!倒せば倒すほどみんなの電池が増えるから!」
「電池って魔石ですか?」
「そ、魔石から魔力を抽出してみんなに渡してあげてるわけ。背中に簡易の魔術紋を刻ませてもらってね?」
つまり、向こうが魔石でパワーアップする代わりにこちらは魔石があればいくらでも回復できるという訳だ。なるほど、これはすごい!すごいけど休憩できる言い訳が無くなったからちょっと辛い!
「はは、若い子は働かないと!――って、こっちにも大型が来ちゃったか」
現れたのは馬鹿でかい蜘蛛のような魔物だった。足だけで電柱くらいの長さはあるようにも見える。回復したんだし、ここはみんなでまた魔力砲を――
「はいはい、せっかく回復したんだし魔力砲ぶっぱは無しね?確かにアレは効率はいいんだけど、発射軸とかタイミングとかメンドクサイだろうし」
「で、でも!」
「まぁ、見てなさい」
そう言うと菜乃花さんの周りに幾つものバスケットボール大の魔力の塊が出現する。
「形成――射出!」
瞬間、光の線を描いた魔力球たちは巨大な蜘蛛の足を凡て打ち砕いて地面に叩きつけ、勢いのままに巨大蜘蛛にめり込むと、縦横無尽に蜘蛛の体内を駆け巡り数秒と経たずに巨大な魔石を残して崩れて消えてしまった。な……何それスゴい。スゴくない今の!?
「そりゃあそうだろう。菜乃花さんは大賢者と呼ばれる魔法使いの一人なんだからな。そして、シルヴィア様の育ての親でもある」
ライガさんが呆れたような顔でそう言う。なるほど、どこかで聞いた名前だと思ったら魔法学院で習った名前だったからのようだ。
「おばさんとかおばあちゃんとか思ったらその瞬間に全力全壊の魔力砲を叩き込むからそのつもりでね!」
そんなこと言えるわけが無いし、言うはずも無いんですけれど、怖いから怒気を納めて欲しいです!
「はいはい、ふざけるのもそこまでですよ、菜乃花。風の魔法でそっと魔石を集め続けていますので、彼らの目的はこちらになって来るのも必然です。気を抜けば死にますよ?」
「最近死んでないから死ぬのは簡便だなぁ……」
ヤレヤレと菜乃花さんが首を振ってまた魔力を練り始める。
「ここに私がやって来たのはここが一番魔石を護るのに適してると思ったから。何せ、優秀な魔法使いに魔法少女がこれだけいるんだもの。前衛専門の子たちもその内駆けつけてくるだろうから、踏ん張るわよみんな!」
「はい、魔法少女の意地を見せつけてやりますよ!」
鼻息荒くそう言ってこちらへ迫りくる魔物達に拳を向ける。
「……可愛い女の子たちにこう、光る入れ墨っぽいのがあるのを見るとエッチな感じするよね?」
「待って、唐突に何の話をしてるの!?」
本当に大丈夫なのかな……。私は心に一抹の不安を覚えたのだった。うん、兄さん早く戻ってこないかな!
今日も今日とてとってもとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ