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21話:瓶詰のうにもこれはこれで美味しいけれど生うに丼は最早筆舌に尽くしがたい味だよね?

 くるんくるんと振り回し、その喉元に刃の切っ先を届かせる。

 届いている。届いてはいるがそこまでだった。圧倒的な魔力により次々と生成される魔力の刃がひっきりなしに襲い掛かりまるでイガグリをひっくり返されたようなえげつなさを感じる。マジで全部たたっ斬らないと即死ぬのをコンマ単位で射出してくるのやめて欲しいんだけど!


「魔力の形成のカタチは妹のモノだ。は、こいつは心の奥底から大魔王を信奉していたらしい。だからこそ、あいつを護る剣となりたかったのだと。あの暗闇から救い出したあの男に心酔していたんだ。はは、なのにざんねんだよなぁ。その護る刃で護りたい人を殺したんだから!」

「――それ以上、しゃべんな、クソが」

「おっと、周囲の魔力干渉ごと切り裂いたか。なるほどそれでは魔力を物質化させることはできない」


 荒業には荒業で対応してやる。うん、周囲に満ちた魔力から刃が作られてるんならその魔力を形成できなくしてやったのだ。とはいえこれも一時しのぎ、早々に決着を付けなければ待つのは死。また最初からやり直しになる。


 足元が膨大なナニカの力で揺らいでいるのを感じる。


 恐らくは魔神の肉体が復活する予兆なのだろう。まじで時間が無くなって来たな、これ。


「お前もここに来るまで遊んできただろうに」

「馬鹿を言え、俺は常に全力だ。そうしなければ遅れると思ったからそうしたまでだよ」


 剣戟にて火花を幾重にも散らし、床を、壁をぶっ壊しながら余裕を見せるアリスさんinアルフレッドに肉薄する。だが、いくら切り付けても往なして躱して避けて逃げてばかり。


 ――こいつ、戦う気が……無い?


「お、流石のお前も気づくか。俺の役目は時間稼ぎだ。お前を殺して殺して殺し尽くしてしまえればそれで良かったんだが、作戦変更と言う奴だ。お前に俺を殺させなければそれだけでいいんだからな。はは、何なら(こいつ)の体を好きにさせてやってもいいぞ!まぁ、腰を振ってる間にこの世界は滅ぶだろうがな!」

「全力でお断りします!」


 確かにアリステラさんは美人で綺麗で笑顔は可愛い人だったけれど、中身がアルフレッドなのは絶対に嫌だ。それでもまぁ、そう言うのはきちんと手順を踏んでですね!


「童貞か!」

「童貞だよ!」


 結婚したのにまだ清い関係なんだよ!嫁さん五人もいるのに!ええい、今はそんなことはいいんだよ!


 太刀筋は読めた。なるほど、魔力量もパワーも速度も先ほどとはくらべものにならない程に伸びている。だが、それまでだった。やれやれ残念、期待外れも良いところだ。


 スゥと息を吸って、その目の前から霞むように消える。


「ちょございな!」


 アルフレッドが、魔力で無理やりに生成した数千にも及ぶ魔剣たちを一斉に周囲に放出させる。その一つ一つ凡てが触れれば即死級の代物だ。剣を弾くなり切り裂くなりした所に俺がいると踏んだのだろう。


「悪いけど俺忍者だからね」


 割と忘れられている気がするけれど!その影をクナイで縫い付けてさしあげて、気を取られて振り向いたその瞬間に真正面から聖剣を鼓草を振るう。


――今の俺とこの剣たちならできる筈だ。 


 風を識り、炎を識り、水を識り、土を識り、金を識り、人を識り、魔を識り、神を識り、魂を詠み解いてこの世界の理を()()()()()――神の域をも踏み越える!



――無 限 流 / 神 技 / 奥 義 終 局 / 木 櫻 之(コノハナ) 佐 久 夜(サクヤ) - 二 輪(にりん) !


「ばか、な……。俺が、俺は……」


 


「お前がアリステラさんに宿ったところで……いや、お前とアリステラさんが元の一つに戻ったところで結果は変わららない。もうお前から学ぶことは何も――ない」


 二刃を鞘へと納める階段へと足を進める。これだけ瓦礫まみれのボロボロになっても階段だけは崩れず、残されていた。


「水無瀬、水無瀬真人おおおおおおおおおおお!!」


 斬り分かたれた、アルフレッドだった身の丈もなる黒い泥の塊が俺に向けてスライムのように俺にとびかかって来た。最早、ボロボロに崩れかけて死にかけているのにだ。


 ああ、その覚悟だけは見事だよ――アルフレッド。


――無限流/無手/穿




「だから言っただろう?俺はお前を殺すと」


  振り向きざまに拳を振るうとパンッ!と言う子気味のいい音が静寂の中に響き渡り、今度こそ跡形も無くアルフレッドはこの世から消え去ったのだった。


「ごめんね、アリステラさん。外まで運んであげたいけれど。もうサクラちゃんの所に行かないといけないんだ」


 気を失ったままのアリステラさんにそう言い残し、踵を返して再び階段へと足を向ける。








「――冷たい事を言うじゃありませんか」

「!」


 振り向くと、そこには――サクラちゃんが、いた。


「お前!」

「愛しき人をお前呼ばわりとは!ああ、私は悲しい。なぁ、そうは思いませんか?アリス」


 アリステラさんの頭を鷲掴みにして邪悪な――サクラちゃんであれば決して浮かべることのない顔でそう言う。


「魔神……その手をアリステラさんから離せ」

「ええ、いいでしょう。大魔王が執心して集めた四天王がいかなるものかと期待しましたが、よもや時間稼ぎにも使えないとは、はは、あいつは部下に恵まれてませんねぇ」


 やれやれと、サクラちゃんの皮を被った邪神が首を振る。


「だけど、最早お前がどうしようとも私の復活は止められません。この(サクラ)を殺したとしても……ね」


 地鳴りと共に天井が、壁が、床が崩れ落ち、そこには氷漬けにされた巨大な黒い影がそこにいた。


 アレが魔神の肉体。いや、恐らくこれでも封じられ、小さくなっている。それでも見上げるほど――タワーマンションに匹敵するほどの大きさはある。これが復活してしまえばどれほどまでの大きさになるのか、今の俺では想像だにできない。


「さて、水無瀬真人。私が復活するあと数十分ほどです」


 闇の泥が巻き上がり、彼女の手には聖剣を模したかのような剣が納められる。


「ようやっと体が馴染んできたところなんです。楽しませてくださいね、まーくん♪」

「その呼び方をお前がするんじゃあない」


 聖剣を手に取り正面に構える。


 先ほど相対したアルフレッドやアリステラさんとは比べ物にならないプレッシャーを感じる。背筋にキンッキンに冷えた氷柱(つらら)を突っ込まれたかのようだ。胃の奥がぎりぎりと痛む。膝がわなないていっそこの場から逃げ出したくなるほどだ。


 だけど、逃げない。逃げて堪るか!やっとサクラちゃんの元にたどり着いたんだ!こんどこそ、取り戻すんだ!


 奥歯を砕くほどに噛みしめて一歩、前に足を出す。


「返してもらうぞ、魔神――ラオグラフィア・ノヴァ!」


 それは古い古い石碑にたった一行だけ遺された、この世界に生み出された闇の名前。


「は、よくぞ我が名を探しだしましたね。ですが……それまでです。この日をもってこの世界は終わりを告げます」


 ビシリ、と魔神の肉を封じている巨大な氷塊に大きなひびが入り、その隙間からドロドロとした闇の泥が溢れ出してくる。


「死んで、死んで、死んで、死んで、絶望の中で私の中へ還ってください。――この世界諸共に」


 美しいサクラちゃんの顔で、ラオグラフィアは楽しそうにほほ笑んだのだった。

今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ

~お知らせ~

魔神と邪神が混在していましたが、魔神に統一しております。

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