19話:冬は石焼き芋が恋しい季節だけど家で焼くのと焼き芋屋さんが売っているのとじゃ味が格別に違う気がするよね?
トンと踏み出して真横に聖剣を振りぬく。
――無限流/刃/玉!
回転を加えて放つ斬撃は魔力やら霊力やらを纏って円を描くように周囲を切り開く。聖鎧さんが綺麗に補正してくれているらしいのだけど、どうかな?
『補正なし、主の実力』
どうやら何とかものにできてきているらしい。体を無理くりに動かして無駄を削ってくれるのは本気でありがたい。師匠は技を教えるのはうまかったけど、仔細はやって覚えろタイプだったからね!
「パリング!」「障壁!」「バリヤー!」
しかし、その綺麗に整った斬撃は前に飛び出して来た焦点のあってない勇者達の放ったチートにより見事封殺されてしまった。
「バーニングショット!」「ライトニングショット!」「ウィンドボルト!」「アクアトルネード!」
それと同時に後方から幾重にも放たれた魔法がダッシュで駆け抜ける俺に向けて降り注ぐ。その総てを避けて躱して壁を蹴って斬り払いながらそ魔法使い達のいるところへと音も無く空を蹴る。
振り返ると同時に魔法使いたちに聖剣を向けるとその刃を誰かに受け止められた。
「ここで、アンタかよ」
「――……」
アリステラさんの鋭い一閃が幾重にも降り注ぎ、俺はその総てを斬り払って何とか対応する。一撃一撃が重くてしんどい!ただその剣を振りぬいているわけではない。その斬撃すべてに莫大な魔力が込められているのだ。いってしまえば大砲が剣戟となって雨の如く降り注いでいるようなモノだ。マジでたまったものじゃ無いんだけれど!
そしてがら空きになったとみた他の勇者たちが俺に向けて手に持った武器を次々に振り下ろす。それを鼻先三寸で体をくるん丸めて空へと逃れる。そこを狙って放たれた魔法を斬り割いて氷の天井に着地してそのままダッシュで縦横無尽に駆け巡る。何人かの首を切り落としたつもりだったのだけれど――ああうん、なんでその場で復活してるんですかね?それちょっとずるくないかな!
「何を言っている。普通普通。勇者は死んでも教会で復活するものなんだからな!なにせここは神のみもとだ。復活して何がおかしい」
ケラケラと階段に腰掛けたアルフレッドが楽しそうに笑う。なるほど確かに言われてみればその通りなのかもしれない。残念ながら俺はここじゃ復活させてもらえそうにないけど!
刀を持った女性の勇者が高速で雷を纏って全力で突っ走る俺に追従し、俺の首を的確に幾度も狙ってくる。何とか交わしてこちらもお返しとばかりに切り落としたら、落ちたまま走って来た。ホラーかな?どう見てもホラーだよこれ!
仕方がないので、その勢いを頂戴してくるんと反転刃を振るう。
――無限流/刃奥義ノ肆/布刀玉-八十玉籤!
少女の胴を真横に薙いで、今度こそその動きを止め、さらさらと塩の塊となって消えて行った。
「ほう、魔神とのつながりを断ったか。だが、それをこれから増え続けていく勇者全てにできるかな?」
ゴトリ、ゴトリと幾つも音が鳴り響くと泥が瞬く間に溢れ出し、また勇者たちが追加補充で増えていく。あの、まだ一人しか倒せて無いんですけど、何で目の前に数十人いるんですかね?
「はは、地獄を楽しみな!」
「お断りしたいです!」
けれど、どうすればいいか大体わかった。
最早勇者として壊れてしまった者も含まれる彼らを傷つけるのは心が痛むが、やらねば死ぬ。死んでしまえばライおっさんの所からここまで来るのが手間過ぎるんだよ!
「本当はここじゃ使う気は無かったんだけど――時間も無いし、仕方ないネ」
そう言って手に持った聖剣と同時に鼓草も抜き放つ。
――無限流/二刃/奥義の弐/軍荼利-十忿怒尊!
足を止めることなく刃を煌めかせ、防御を張る寸前の勇者たちの相中に割り込んで剣舞の如く華やかに切り捨てたのだった。――が。
「この技も止めるか」
「――……」
ただ一人残ったアリステラさんは聖剣と鼓草の二対をただの一刀にて押しとどめていた。
「アリステラの実力は最早大魔王と同等。今までただの一度も大魔王に土をつけることすらできなかったお前には倒す事すら叶わないだろうさ」
暇そうにしているアルフレッドのクソ野郎をよそに俺は幾重にも剣戟を加えてアリステラさんと対峙する。すでに技は何度も放っている。だが、その総てを往なし、躱し、崩されててんで相手になっている感じがしない。
「何をしている。殺せ!手を抜くな!」
「――……」
最早、言葉すらなくアリステラさんの動きが更に加速していく。
抑えきれなかった刃が鎧を掠めては削り、掠めては切り開かれ、というか何度か俺の体を切り裂かれている。マジで痛いんだけれど、切り裂かれたと同時に聖鎧さんがそっと治してくれているらしい。なるほど、これで即死しなかったら安心だね!……と言ってあげたいけれど、そもそも頑張って貫通させないで欲しい。うん、無理なのはわかっているんだけどね!と聖鎧さんが落ち込んだ雰囲気を感じたので補足しておく。
――そもそも、だ。俺がまだまだ弱いから攻撃が当たっているのだ。
今この時、この瞬間を学んで、試して、斬られて、学んで、幾度も幾度も幾度も幾度も自らの技を磨いていく。今までそうしてきたように、これからもそうするだけなのだ。
数百度にも及ぶ剣閃を越えて、ようやく一太刀がアリステラさんの兜を掠めた。
千回を超えたあたりで鎧を切り裂き、三千回に到達する直前にようやく俺の刃が彼女の肉を捕らえた。
「ぐぅ!?」
痛みで一瞬我に返ったのか、驚いたように彼女の目が見開かれた。うん、おはよう?そして、おやすみなさい。
大振りになった彼女の剣を躱して二つ刃を真正面に叩きつける。
――無限流/二刃/奥義ノ肆/不動明王-倶利伽羅!
炎の龍が二刃に宿り、爆裂たる究極の二閃となって聖剣と鼓草がアリステラさんの体を焼き貫いたのだった。
今日も今日とてとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ