18話:お前の罪を数えろと言われてもキチンと数え切れてるか正直あまり自信が持てないよね?
「やぁ、待っていたよ」
階段の途中。以前来た時よりも広く整地されたその場所に二人はいた。
「待っていなくてもよかったんだよ?というか、この閉ざされた大魔王城の中にいつからいたんだ――ジャヴァウォック」
腰に据えた聖剣に手を添えつつ眼前の黒衣の男を睨みつける。隣に悠然と立っている鎧姿のアリステラさんは微動だにしない。彼女ももう操られているのだろうか?
「召喚された、と言われてもどうせお前は信じないだろうな。まぁ、簡単な話だ。この時が来ると分かっていたから最初からここにいたのさ。ココに、な」
トントンとジャヴァウォックがノックするのは漆黒の鎧に包まれたアリステラさんの胸の相中。鎧に包まれているとはいえ女性の胸を大胆に触るなんて、こいつ……羨ま……けしからんことを!
「なんだか、見ているところがおかしい気がするが……。まぁいい。俺とこいつは一心同体でね。いやなに、いつからと言うわけじゃあない。最初から一心同体なんだよ」
「最初から?」
俺の問いにジャヴァウォックは楽しげに笑う。
「最初から。生まれ落ちたその瞬間からだ。コレと俺は双子なんだよ」
「――なるほど。道理で似ていたわけだ」
言われてストンと納得がいった。だからこそ似ていた。だからこそこいつがここにいる。だからこそ――ジャヴァウォックなんて名乗って魔神の復活を望んだのだ。
「そうだろう?――アルフレッド王子」
「は、はは、俺がアルフレッド……だと?はは、ははははは!」
頭を押さえ腹を抱えてゲラゲラとジャヴァウォックが笑う。笑ってばっかりだなこいつ!
「……で、その根拠は?」
「聞いて来た。アンタの行動があんまりにも気になってたからね。世界一周の旅をしてる最中に立ち寄らせてもらったんだよ、君の国――アクシオムに……ね」
そうしてわかった。アクシオムの首都は一見平和に見せて完全なアラガミの配下になってしまっていた。
王はアラガミの闇の泥に操られ、王妃や姫たちは地下でプラントの実験に使われており、兵たちもすでに泥に飲まれアラガミの一員と化していた。
民草は幽鬼のように働かされ税として生きていく最低限のみ与えられ、街に活気などある訳も無くただその日々を生かされていた。まるで、機械の一部品のように。
「娯楽も何もない、ああそうだね見栄えはいい綺麗な場所だったよ」
「ああ、そうだろう?俺の自慢の故郷さ」
はは、と鼻で笑うとその漆黒の髪がはちみつで濡らしたかのような美しい黄金の輝きへと変化していった。うん、男にこの表現を使うのはとってもムカつくな!
「さて、種明かしも済んだところで君はここで永遠に戦い続けてもらうとしよう」
「永遠にとは大きく出たもんだね。何かな、俺を次元の牢獄にでも突き落とすつもりかな?」
「それも考えたけれど、今の君にはそれも通じない。聖剣なら切裂いて出てこれちゃうからね」
やれやれ困ったものだとジャヴァウォック――アルフレッドは困っていなさそうな顔で首を振る。
「やけに実感のこもった言葉だね」
「実際に出てきたことがあるからね。まぁその時は剣だけだったけれども」
「――……お前か。お前がサクラちゃんのお母さんを」
「違うね。彼女が望んだのさ。時空を渡り元の世界に還ることを。まぁ、知っての通り渡ることは不可能だと言う事は彼女の身をもって証明されてしまったという訳だ。聖剣を使って脱出しようとしたのだろうけど、あの時は聖鎧が無かった。そのせいで彼女の肉と魂は次元の間に囚われて、剣だけが戻って来ることになったわけだ。いやぁ、可哀そうにねぇ。そう、そそのかしたのは誰だったかな?ああ、そうだ。お前だ、アリス。お前が可哀そうな義母さんをそそのかしたんだ。故郷に帰りたくはないのかと寂しくないのかと!ん?覚えていないだって?そうか?そうだろうな!実際に言ったのはこの俺だったのだからな!」
ゲラゲラと端正な顔に不釣り合いな笑い声を男はあげる。――だが、アリステラさんは微動だにしない。まるで空っぽの人形になったかのようだ。
「んー。我が妹ながら張り合いがない。高々愛していた義父をその手で殺したくらいじゃあないか。この俺が直々に操ったとはいえ、だ。はは、いまだに手に感触が残るだろう?……んーダメか。このネタでちょっと弄りすぎちまったかな?」
「もう、いい。黙れ」
なるほど。こいつがベラベラと喋ってくれたおかげで、今までどれだけこの城の中で暗躍して来たかを知ることができた。
――同時にこのアルフレッドという男が途轍もないろくでなしと言う事も。
「んん?お前が怒るようなことは一切言っていないつもりなんだがなぁ。まぁいい。こちらの誘いに乗ってくれさえすればそれでいい。まぁ、俺らを倒さない限りはここの上には上がれないんだがな!」
アルフレッドの足元から溢れ出した泥が氷でできた壁に染み渡って行くとボトリ、ボトリと剥がれるようにナニカがいくつも地面に落ちてきた。
「大魔王に挑みし、いにしえの愚かで勇敢なる勇者達よ――さぁ!目の前に敵が現れたぞ。アレはお前たちの目指し辿り着かなかったモノだ。壊せ!砕け!蹂躙しろ!お前たちこそが選ばれるべきだったと証明してみろ!」
ふらり、ふらりと泥を鎧に変えた勇者たちがその手に武器を構えて立ち上がっていく。
「おら、お前も行け。愛しいこの俺の為にあの男を供物に変えて見せろ」
トンと、付き出された形で黒い鎧に身を包んだアリステラさんも俺に向けて歩みを進めだす。その兜と一体化した仮面の内側の表情は読み取る事はできない。
けれども――彼女の小さな、本当に小さな声が俺の耳に届いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――」
何度も何度も止まることなく、まるで泣き腫らした子供のようなか細い声が。
今日も今日とてとってもとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ