13話:仕事ができればその分責任も増えていくけれどそれに見合ったお給料が出るかと言えばそうでもないから困ったものだよね?
迫りくる巨大な猫パンチを交わすと同時に巨大な牙の連撃が襲い掛かる。
寸でトンと躱して――無限流/無手/輪、つまるところは飛び回転踵落としをその頭蓋に一撃を入れて距離を取る。
公くんがやたらと気に入ってくるんくるんと連撃でいつもやっているけれど、そろそろ誰かスパッツをはかせてくれているだろうか?うん、きっと大丈夫だよね?流石にスカートであの技は目の毒過ぎるし!
「ごがあああああああああああああああああああ!!!!」
ライおっさんだった黒く巨大な獅子は大地が震えるほどの咆哮を上げて悠然とこちらを見下ろす。どうやら先ほどの一撃はつゆほども効いていないらしい。
――もはや声は届いていない。その肉体も心も魂すらもあの闇に飲まれてしまった。
「すまん、ライおっさん。俺が不甲斐ないばかりに」
崩れ落ちた玉座から聖剣が飛び出して俺の手に収まる。……うん、ごめんね?瓦礫の中にそのままだったからってそんなにしょんぼりとしないで欲しいな!男と男の拳の語らいをする必要がありましてね?
『我、気にしてない』『コレが気にしてるやつだ』
トゥルースからヤレヤレと言う波動を感じる。この感じ、聖鎧の方がお姉さんな感じなのかな?え、違う?……違うの!?
大地が地鳴りを上げて巨大な岩が突出し俺をすり潰さんと襲い来るのを飛んで躱して空中からその手に収めた刃を振る――おうとした瞬間に黒獅子のアギトがこちらを捕らえた。あの巨躯を躍らせて一瞬で俺の所へと跳躍して見せたのだ。流石のライおっさんのフィジカルだよ!半端ないな!
けれどもこちらが反応できなかったわけではない。その巨大な柱の如き牙に聖剣を押し当てて振りぬき、前歯の二本ほどを切り裂きながら衝撃に飲まれるがままに後方に吹き飛ぶ。
まるで高速道のダンプカーが突っ込んできたような威力!一般車ですらないありのままな俺がその体格差を覆すことはまずできないのは仕方があるまい。まぁシレーネさんならできそうだけどね!
風を繰って足場を作り空中へと飛んで、なんとか勢いを殺す。だが黒獅子は地面を素早く隆起させ、その勢いを利用して飛び上がり、俺にその巨大な爪を高速で振りかざす。
――ああだけど、それは完全に読んでいた。
無限流/刃奥義ノ肆/布刀玉-真経津鏡!
相手の勢いを利用し、更に威力を高めるその技でその腕と巨大な獅子の首を切り落とす!
地鳴りを鳴らして地面に落ちたその巨躯を見送って俺も又地面へと降り立つ。加減無しで切り裂いたけれど――まるで泥団子を繋ぎ合わせるがごとく、その首がにゅるんと着いた。そう、にゅるんと。
……なるほど、きもいぞアレ!
見た目はライおっさんの獣化形態を更に強化したような姿ををしてはいるけれど、こいつを構成しているほとんどはあの闇の泥なのだ。つまり、中のライおっさんを殺さない限りは延々と復活し続けるというわけだ。泥は地面から供給され続けてるからね!マジで厄介過ぎない……?
ため息を付くのはそこそこに復活した黒獅子に向けて聖剣を構えずに腰に収める。この聖鎧は便利なことに腰の辺りに剣を持っていくと自動的に鞘に収納してくれるのだ。無論、聖鎧の待機モードの鞘とは違い、簡素なつくりではあるけれど。
『なんでさ』
なんだか若干どころじゃ無い聖剣の不服な声が聞こえるけれども、俺も考えがあっての事なので言い訳は後にさせてもらう。
「がああああああああああああ!!!」
土煙を吹き飛ばし、ひと蹴りで俺の目の前に迫る巨大な黒獅子に向けて俺は軽やかなステップを踏んで拳を振るう。
――無限流/無手/奥義ノ壱/穿・韋駄天-阿羅漢/破邪!
「ライダー……パンチ!うぉらああああああああああああああああ!!」
あらん限りの全霊を込めて撃ち抜いたその拳はその巨大な体を形成していた泥を尽くに浄化しつくして勢いのままにライおっさんの体が上空へと打ちあがる。――がそれを追いかけるように闇の泥が地面から湧き上がる。
――今ならできる筈だ。
腰に据えた聖剣の鞘に手をかざし、一息にその刃を振るう。
無限流/刃/奥義ノ壱/武御雷-布都御魂!!
究極に練り上げられたその一刀を、さらに練り上げた霊力と魔力を絶妙に組み合わせた一撃必殺の絶技である。
『我、すべてを分け断つ剣なり』
「ああ、知っているさ」
切り裂いた黒い泥を払って刃を鞘に納める。金音が響くとともにライおっさんに迫っていた泥が消し飛び――やがて、地面にライおっさんが落っこちてきた。うん、痛そうだな!
「ぐ、う……何が、何を……?」
混乱するおっさんが訳が分からないという顔でぱちくりとしている。どうやら何とかなったらしい。
つまるところ、ライおっさんに巣くう闇の泥と彼を縛っていた契約を聖剣の力で断ち切った訳だ。切り裂けると思えば大体のモノを切り裂けるというのだから本当にチート武器も良いところである。……まぁ、使いどころはかなり限られているけれど。
『もっと褒めてよい』『いばるな、いばるな』
なんだか頭の後ろ辺りで聖剣と聖鎧がむむむむ、と言いあっているのが聞こえる気がする。……気のせいにしておこう!
「ともあれこれでライおっさんは解放されたわけだ。俺について来てと言いたいところだけど……」
「ああ、恐らくは俺では足手まといだろう」
先ほど俺が頸椎を一つ抜き去ったのだ。常人であれば下半身不随も良いところなのだけれど、あれ?なんか普通に立ってない?ふらついてはいるけど、何で立ってるのかな?
「そんなもん、気合に決まっておるだろう。だが、それが限界だな。無理に動こうとすれば前のめりに倒れる。大魔王四天王が情けない事だ」
大きくため息を付いているけれど、普通立ち上がってるだけでヤバイですからね?大魔王もだけど、四天王の人も大概無茶苦茶だよ!
「さぁ、とっとと行ってこい。激しくは動けんが、契約から解放されたのであれば最早あの泥程度に遅れは取らぬよ」
「……そう、それじゃあ先に行かせてもらうとするよ」
そう言って先ほど聖剣が飛び出た辺り――玉座のあった場所にぽっかりと開いた下階への入り口へと走り出す。
「ああそうそう、うちの娘は嫁に出すからな!絶対にだ!責任取れー!」
後ろの方から何やら叫び声が聞こえるけれど、今は聞こえない振りをしておくとする。責任って、俺何もしてないはずなんですけど!してない……よね?身に覚えがない事にして、全力ダッシュで俺は階段を下りて行ったのだった。
今日も今日とてとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ