12話:親バカって愛情MAX振り切っているだけだから迷惑と思っちゃ駄目な気がするけれど本音で言えば少し抑えてくれるくらいが丁度いいよね?
「死ぃねええええええええええええ!!!」
全霊の込められたその拳は爆風を伴って床を打ち砕き、衝撃波であたりを諸共に吹き飛ばす。ギリギリでトンで躱したけどマジで当たったら死ねるんだけど!
「五月蠅い死ね、真面目に死ね、本気で死ね、問答無用でここで死ね!よくも――吾輩のプリチーなライガたんを奴隷にして弄びやがったなぁ!!!」
たん?たんと言いましたかこの人は?と言うか、うん?待ってライおっさん!俺じゃない!俺それワルクナイヨネ!?
よーく思い出してみよう。アレは元々大魔王の裁定。俺にはライガーが奴隷の首輪を付けた後で俺の奴隷になるのだと知らされたわけだ。ほら!どこをどう考えても俺悪くない!
「黙るぇえええええええ!!!」
地面を踏みしめて放たれただけのただの正拳突きの風圧で、後ろの壁が砕け崩れて異界のかなたに吹き飛んで行ってしまった。い、いやいやいやいや、話聞いて欲しいな!
「女の子なんだぞ!なのにあんな太くて大きな首輪を嵌められて……!く、可愛い……じゃなくて、かわいそうだとは思わないのか!お前は!!」
顔面を正確に狙い来る拳を籠手で往なして往なして、往なして、うおおお!マジ速い!マジ怖い!!
「お、思うけれども!今ライおっさん可愛いって言ったよね!聞こえたよ!?」
「いや、それは可愛いだろ?」
……まぁ、確かに可愛かったけれども。普段まじめでしっかりとしてるライガーが女の子らしくしっとりとした顔で「な、何か御用ですかご主人様……」とか言ったことがあったのだけれど。それはもう格別に?
「よし、死にさらせ」
「なんで?!」
俺を蹴り飛ばして距離を離した雷おっさんは、更に隆々と筋肉がウネリを上げて盛り上がり、魔力と共にその拳を解き放った。――あ、これまともに喰らったら死ぬ、と言うか消し飛ぶ奴だ!
「うぉらああああああああああああああああああああああ!!!」
膨大な魔力で獅子の姿となったその一撃は凄まじい爆風を伴って石畳の床を砕きながら一直線に襲い掛かる。
以前、ライガーから聞いたことがある。
獅子族は大地の精霊と親和性がとても高く、その能力と筋肉を極限まで磨き上げたのが彼――大魔王直属の四天王が一人、獣魔王ライオネルなのだと。
――だけれども、真正面から受け止めなければならない。
この人に認めてもらうにはそのくらいの覚悟がないと駄目だ。
大きく息を吸って眼前に拳を構え、大地を踏みしめて己が拳を解き放つ。
その技は最初にライおっさんとやった模擬戦で結局不発に終わった一撃をこの日、この時の為に練り上げた奥義――!
無限流/無手/奥義ノ壱/穿・韋駄天-阿羅漢
「おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
すべての技を修め、極みにに至ってこそ阿羅漢の名を冠することが許されるその超高速にて放たれる拳は、正しく無手にて居合の技を極めたがごとし一閃――!
だが、その一撃をもってしてもライおっさんの解き放った獅子は強靭で強大だった。なにせ、俺の前例の一撃で打ち砕く事しかできなかったのだ。こっからもう一撃放つのかなりきついんですけど!
「は、はは!吾輩の全開を受け止めるか!それでこそだ、真人!!」
一瞬で目の前に現れた拳をくるんと回して投げ放つ。
「がふ?!」
あれ程までに勢いよくとびかかって来たのだ、その威力もかなりのモノだろう。背中から落ちたし?しばらくは動けないだろうなーとか思っていたら、すぐに飛び上がるのと同時に両足にて跳び蹴りを放ってきた。慌てて躱すも風圧で吹き飛ばされてしまう。風圧だけれでこれって本気で怖いんだけど!
「ちぃ、避けたか」
「避けるよ!死ぬよ!?」
「くく、一度くらいと言わず二度三度と殺してやらねば気が済まんのだ。ああ、本当に気が済まぬ。確かにお前は大魔王様が認める程にいい男だ。我が渾身の一撃をも打ち破り、その才覚も多方面に秀でていることも認めよう。ああ、吾輩の息子にしたいくらいの男と言い切っても構わん」
ふぅ、と深いため息を付きライおっさんは頭を抱える。
「だが、だがな!手紙で、ライガーのお前に対する感情をつらつらとツンデレ気味に書き綴られたものを毎週送られてみろ!嬉しいのに辛いのだ!幸せなのに苦しいのだぞ!ああ、手が震える。ふふ、ふふふふ!」
な、なるほど、ここまでライおっさんが荒ぶるのも仕方ない気がする。……うん、ライガーの気持ちは気付いてるんだけどここではっきり言われるとは思わなかった。全部終わってからきちんとお話をせねばなるまい。……だけど、その前に。
「だからぁあああああああ殺すぅ!一回くらい死んでおけええええ!!!」
「全力で!!お断りしまぁす!!」
この場をどうにかしないといけないかな!
猛撃とも言える拳のラッシュを避けて躱して往なして投げる!が、投げた瞬間に体制をくるんと変えて逆に反撃に変えてきた!ええい、対応力が高過ぎないかな!
「ははは、これでも四天王と呼ばる身!ただでここを通さん!と言うか死ね!死ねえええええ!!」
ライガーのお父さんの愛が深い!けれどもその深さがマジで辛い!
早くここを抜けて先に行きたいのに、マジでライおっさんが強すぎて倒しきれない。実力的に拮抗してしまっているのもあるけれど、俺の一番得意な剣を握る暇が無いのがとても辛い。話している間も暴風雨の如く降り注ぐ拳を頑張ってしのいでいるのだ。本気でマジでかなりキツイ!
――けれども、ここは押し通らなければならない。
無限流/無手/奥義ノ伍/焔虎-阿羅漢!!
炎を纏い拳の隙間を縫って鍛え抜かれた腹へとうち放たれた猛虎のごとき一蹴でその巨躯が空へ浮き上がる。
「ぐ、が!?」
「悪いが――これで決めさせてもらう!」
無限流/無手/奥義の弐/摩利支天-阿羅漢
音も無く、俺の手がライおっさんを突き抜けて地面へと降り立つ。
「ぐがぁ!?な、何を、何を、したぁ――!」
苦しげにうめきながらライおっさんが倒れ伏す。起き上がろうと藻掻いているけれど、立ち上げることすらままならない様子だ。それはそうだろう。なにせ、おっさんの脊椎の一つが俺の手の中にあるのだから。
「骨、骨、だと!?ぐふ、肉を傷つけることなく、骨だけを抜き去ったのか!は、はは、なんて無茶苦茶な!」
抜かれた感覚も、痛みすらなく奪い取るこの技は暗殺技としての一面を持っているが、かなり難度が高い。というか、暗殺するならもっと楽な方法があるだろとか言われて何度か歴史に消えかけた技だ。俺も思う、本当に無茶苦茶な技だよねこれ!
「ともあれこれでライおっさんは動けない。そこで大人しくしておいてよ。全部終わったらエリクサーあげるからさ」
「は――はは、まったくお前には敵わんな。負けだ……ライガーは幸せにしろよ……」
ちょっと待って欲しい、この戦いってそういう話だったかな?多分違うと思うよ!
まぁ、その話は追々にねと出口はどこかと探して辺りを見回す。思った以上に損壊が酷くて、瓦礫まみれで床もほぼほぼ砕け切っていた。う、ううん。思い切り暴れまわったからなぁ……。
「だが――真人。吾輩の意思とは関係なく、吾輩は戦わなければならぬのだ。済まぬな、ライガを――」
「……おっさん?」
声が途切れ振り向くとすでにライおっさんは黒い闇の泥に飲みこまれてしまっていた。
そして、泥がその内へと収まると――黒い闇を鬣にした巨大な獅子がその姿を現したのだった。
今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ