11話:運命の人と言われると困惑するけれど運命の人だと思えてしまえばそれはもう恋と言う奴だよね?
――……ゆっくりと目を開くと、そこは見慣れた大魔王城の謁見の間だった。
無駄に荘厳で絢爛で優美なその部屋は、大魔王が只の一人で勇者を迎え撃つためだけに設えられた。それがこの謁見の間。
壁と床はあれどもどこまでも続く異空間の空が広がるその部屋は自分が好き勝手に暴れられるようにするための設計らしい。尤、それでも壊してアリステラさんに大目玉を喰らっていたのだけれど。うん、本当に好き勝手に暴れ過ぎなんだよ!
「お待ちしていました――真人さん」
玉座に腰掛けるのは一人の少女。
ああ、よく知っている。知らないわけが無い。彼女はこの世界で俺が一番愛している人だ。彼女がいない人生なんて考えられないと思えてしまうほどに無くてはいない人だ。
「だが違う。お前は、違う」
抜き身にしたジ・アンサーを彼女に向ける。
だからこそ分かってしまった。目の前の彼女はサクラちゃんであってサクラちゃんではない。ガワがサクラちゃんであっても中身が全く違う。というか、サクラちゃんは俺の事をまーくんと愛称で呼んでくれしね!
「あら酷い事を言うんですね。私は、貴方の愛するサクラですよ?」
くすくすとサクラちゃんのガワを被ったダレかが笑う。ああもう不快すぎて自分の耳を潰してしまいそうになる。怒りで腹の奥底が煮えたぎるような思いだ。
「……それで、サクラちゃんはどうした?」
「人の話を聞いていました?」
人であればその話を真正面に受け止めていただろう。と言うかアンタは人じゃない。何せこの世界を喰らい尽くさんとする魔神そのものなのだから。
「ふふ、そうです。私は魔神です。この世界を喰らい、新たな世界へ渡り新たな地へと旅立とうと企てる悪いわるーい神です。ですが、私がサクラであることに変わりありません。なにせ――もう彼女は私自身に溶けてしまっているのですから」
楽しそうにくすくすと魔神が笑う。
――そんなことはわかっている。ああそうさ、サクラちゃんも知っていた。分かっていたんだ。あの日、あの時、サクラちゃんの魔石が封印から解かれて自分の肉体へと還る時に、こうなってしまう事は分かっていた。色々と策をめぐらせて足掻いては見たけれど、決して変えられない未来に引き寄せられるように、この結果に辿り着いてしまった。
「それでは、私を殺すのですか真人さん」
「ああ殺す。お前は殺す。返してもらうぞ、魔神。俺はお前からサクラちゃんを取り戻す!」
俺の言葉に魔神はまた楽しそうに笑う。そんなことは出来やしないと、不可能だとアレは思っているのだ。
「本当に愉快な人。先代は私を封じた先々代に敗れ、先々代は私を封じるしかできませんでした。貴方はそんな先々代に一度も土をつけることができなかったではありませんか。だのに――私に勝てるとでもお思いですか」
魔神の足元から黒い闇の泥が溢れ出し、かつて感じたことが無いほどの威圧感をビリビリと解き放つ。
「ああ、お思いだとも。何せ俺は――勇者だからね」
瞬間、腰に据えていた鞘が解き放たれ、鎧をその身に纏わせる。穢れなき白銀の装いに赤いマントをはためかせ、正しく物語に出てくる勇者のような出で立ちである。
「……真人さんにはあんまり似合っていませんね」
「何となく自分でも不相応かなって思ってるけど、そう言われるとちょっとショックかな!」
だって見た目が完全にヒーローなんだもの!俺ってば泥臭い勇者で十分なのに英雄じみた見た目はちょっと恥ずかしい。うん、格好いいよ?すごく格好いいからね?だからトルゥースは落ち込まないでね?うむ、大丈夫ってなんか元気ないぞ!?
「さて、茶番はここまでとしましょう。私は私の体を取り戻します。そうすればこの姿とも世界ともお別れです。真人さんは、ゆっくりと部下たちと御戯れくださいな。それでは――良き終末を」
「待て!」
投げつけた聖剣がその玉座に届くよりも早く、魔神の姿は泥となって消えてしまった。……アレは見た目だけのまやかし。俺と話していた魔神はすでに地下の封印された神殿にでもいるのだろう。
「んで、俺はそこに頑張って行かなきゃならないって訳だ」
「――そう言う事だ。我を倒せば次なる道が開かれる。クク、大魔王と戦う前に四天王と戦うのは物語の定石であろう?真人よ」
そして、泥の中から姿を現したのは――大魔王の腹心の配下、四天王が一人獣魔王ライオネルだった。
「……アンタほどの人が泥に飲まれるなんてな」
「抵抗など無意味だったというわけだ。こうならないように大魔王様は契約に隙を作っていたのだが……それすらも食いつぶされてしまったようでな」
なるほど魔神が一枚上手だったというわけだ。
「それで、やっぱりライおっちゃんを倒すだけじゃダメなのか?」
「無論だ。この契約が断ち切られぬ限りどちらかが滅ぶまで終わらぬ。お前は死ねばここに復活するのだろう?つまり、魔神様が復活召されるまでお前はここで死に続けるしかない」
だが、それは流石に早計と言うもの。勝つのは俺だよ?
「ふはは、聖鎧を手に入れたようだがその程度で吾輩を殺し尽くせると思うなよ?吾輩とて、この闇を取り込み更なる力を得ておる!お前ごときに斃せるものか!」
「はは、そいつは楽しみだ。さぁ――模擬戦のその続きを始めよう」
俺は白い手袋に包まれたその拳を握りしめる。
相対するは拳激だけでいえば最強ともいわれる獣魔王ライオネル。――相手にとって不足無し!でも、うん、なんか目が怖いよ?何でかな!?
今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ