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4話:

 依然として凍り付いた大魔王国は、内部で侵食していく不気味な暗闇以外変化は無く、魔王とユウシャが強力をして戦いを準備すると言う摩訶不思議な光景があちこちと見受けられています。


 尤も、アークルでは割と普通の光景ですから“他の人達からしてみれば摩訶不思議”というのが正しいところなのでしょうけれども。


「ロベリアちゃん……ご機嫌ななめ?」


 氷塊から二キロほど離れた本部とは別の農村のお屋敷を改造した拠点の中庭で黄昏ていた私に、イチゴさんが小首をかしげます。


「そんなことはありません。真人様が戻ってこられなかったのは仕方のない事ですし、別にそんな事くらいで機嫌が悪く何てなってません」


 口をとがらせてそんなことを言って、はたと気付きます。これでは機嫌が悪いと言っているようなモノではありませんか!思わず自己嫌悪でため息がもれます。

 いえ、それもこれも真人様が全面的に悪いです。オウカ様を取り戻したらすぐにでも戻って来るーと言って早数か月。定期連絡はくれていましたが、こちらには一度も戻ってこられていません。勇者教の総本山であった聖都ヴァルハラまではアークルからシルヴィア様が嵐龍の姿で全力で飛ばしても数時間かかるほど。馬車を使っていたとはいえ。陸路を行った真人様が到達するまででも相応の時間がかかったのも仕方がない事なのは理解しています。ええ、頭では!けれども、理解と納得とは別の話。ちゃんと戻って来る、と言って出かけたのですからちょっと昏い顔を見せてくれてもいいと思うのです。寂しくは無いですよ?寂しくはありません。ただ当然の事を私は言ってるんです。


 ……分かります?


「ん、よく……わかる」


 うんうんとイチゴさんが頷きます。

 イチゴさんは真人様の奴隷であり部下でもあり、私とは似た立場。そして気持ち的な面でも同じだったりします。なのでアークルにいた頃も街に繰り出して林檎さんや夏凛さんに、他のメイドの皆さんも交えてお茶しながら愚痴をこぼしあったモノです。


 やっとの事で戻って来たのかと思えば、サテラ様の飛空艇から出てきたのはビオラ様とビオラ様お母様であり勇者の茜さんにシレーネさんとフレア様。だけではなく、まさかの真人様の妹さんに、旅の仲間だったという魔王ドラキュリア・ヴァン・ロムネヤスカ卿のご息女のお二人とフレア様の新たな眷属となった公くんでした。

 ついでに元凶となったナナさんと真人様が救ったという勇者の少女――レキと言う女の子もいたことは心ここにあらずだった私が気付くまで数秒かかったのはここだけの話ですが。


 ともあれ、女の子だらけだったのです!


 なんで、旅に出て側室候補増やして来てるんです!?奥様五人じゃ足りないんですか!はっ!まさかもっと胸がある人が好きで、それで?それであんなに……


「どうどう……おちついて、きっと胸は……関係ない。たぶん、きっと、めいびー?」


 ぽんぽんとイチゴさんに背中を叩いてもらい何とか心の平静を取り戻します。ええ大丈夫です。私冷静ですから。落ち着いてます。ちょっと想定外すぎてビックリしてただけですし。


「レキさんは……傷がかなり深かった。それに、黒い泥に……汚染されていただからこっちに輸送されたの。今あっちの勇者側の拠点にいる癒しの勇者なら治せるだろうけど、あの時は……彼女もチートを使えるほどの余裕が無かったみたい……だから」


 そう言えばそんな事を言っていたような気がしないでもありません。うう、私何やってるんでしょう……。


「それは正しく、想い人を待つ恋する乙女的な感じですね!……兄さんこんな小さな子にも粉掛けてるんです?」

「ま、真理さん、後ろから抱き着かないでください!」


 いきなり抱き着かれて思わずビックリしてしまいます。こんな距離に来られるまで気づけなかったなんて、一体どうして――


「申し訳ありません。私が余計な技を教えたからですね」


 そう言って鬼の角を生やしたメイドさん、沙夜さんが頭を下げます。彼女は真人様の元の世界では真人様の専属メイドをされていて、肉体を捨ててまで真理さんと一緒にこちらの世界に渡ってこられたのだそうです。……あれ、もしかしなくても沙夜さんまでもが真人様にホの字なのですか?いえ、そうでなくとも真人様を追いかけるために肉体を捨てている時点で重い気がするんですけど!


「真人様は私の全てです。肉体など、真人様のおそばに居られるのであればただの枷でしかありませんから」


 事も無げに彼女はそう言って優しく微笑みます。く、なんて覚悟なのでしょうか。物凄く負けている気がします!


「うん、ロベリアちゃん?沙夜の真似なんてしなくっていいからね?沙夜はちょっと特殊だから……」

「特殊とは、兄を追って元の世界の全てを捨ててやって来た真理様にだけは言われたくありません」

「ぐっ。だけど、それは、えと……だって……」


 むーと、真理さんが唇を尖らせて明後日の方角を見ています。どうやら真理さんも特殊な理由でこちらの世界に来られた模様です。


「そ、それで、お社の建設はどうなっているの?」

「ああ、その件でしたら滞りなく。アークルには現在、仮にお社を立てていますが何れ大きな拝殿を作り上げる予定になっています。それぞれの拠点にも小さなお社を真人様の指示通りに作らせていただいていますが、その……これって一体。とりあえず、手を合わせて健康長寿とか商売繁盛とか交通安全に恋愛成就とかを願いながらお賽銭を入れればいいとお聞きしましたけれど。何かの呪いですか?」


 この二日の間に真人様の元の世界の神様を祀るお社を小さくてもいいから色んな所に立てて欲しいと、真人様から指示がだされていたのです。


 現在アークルの郊外だけでなく、この戦いに参加してる魔王たちの国にもその小さな社を幾つも作っては配っています。


 中に入っているのは真理さんが墨で書いてくれたお手製の木札――それも真人様が自室に大量にため込まれていた大魔王国に生えていた大きな桜の大樹の枝から作ったモノでした。こんなものを配って、真人様は新たに宗教でも起こす気なのでしょうか?


「意図は残念ながら私にも。でも、兄さんの事だからきっと何か意味があると思うの」

「まぁ、昨日までたくさん書き過ぎて腕が上がらないとか真人様に呪詛をはいておられましたが――」

「それはそれ、これはこれ。本当に大変だったんだからね?」


 腕をぶんぶんと回す真理さん。そりゃあ数百もの木片に難しい字を大量に書き綴っていたのです。肩も凝りますよね。


「……真理さん。真人さんはいつ戻ってこられるのでしょう?」


 詳しい話は私には何も伝わって来ていません。ただ、世界中を単独で飛び回っているとだけビオラさんからお聞きしたくらい。真人様に万が一なんてことは無いと知っています。知っていますが、心配な気持ちはそれでも湧き上がって来るモノ。ううん、それもあるけれど、私は真人様に逢いたい。逢って、お帰りって言って、それで、また頭を撫でてもらいたい。ただ、それだけなのです。


「私にも何とも。だけど、もうあの氷は一日と持たないと思うの。嫌な感じがもうすぐそばまで寄って来てるし……。だから、兄さんはもうすぐ戻って来るわ。五日は欲しいとか言ってたけれど、そこまで向こうさんが待ってくれるとは思えないしね?」


 そう言って真理さんが私の頭を優しく撫でてくれます。――真人様に似た優しい手。


 だけど、この手は真人様ではありません。


 私は目を瞑ってあの日々を思い出します。


――何気ない、暖かで、幸せな、あの日々を。

今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ

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