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2話:

 魔神に亜人に魔物にロボに人間に勇者に――こんなにごちゃまぜの人種が一堂に同じ目的をもって集う事があったのか俺は知らない。いや、つーかロボって人種に加えていいのか?


「ロボもゴーレムの一種なのだそうだから加えて言いと思いますわ」


 簡易的に作られた教会兼、勇者詰め所。そこの礼拝堂でシスター服のカメ(織姫)が腕を組んで鼻息荒くそう言う。まぁ、カメがそう言うのなら違いは無いだろう。こいつは性格はクッソだが頭は良いからな。


「ナニカ言いました?」

「あん?な、なんも言ってねーだろ、なんも」


 あと、妙に勘が鋭い。本当に何で俺の心の中を読んで来やがるんだこいつは。


「……こんなところまでついて来て、モモは後悔していませんか?」

「何だよ、藪から棒に」


 いえ、ただ――と、カメが礼拝堂に飾り立てられたステンドグラスを見上げる。


「私たちがして来たことは何だったのかと思ってしまうのです。私は、この世界から魔物が、魔王がいなくなれば平和な世界になるのだと思い、勇者教に入りました。それが――思い上がりも甚だしい。魔人なんて馬鹿かげたモノがいて、魔王は……ただの、魔の王だった。そう、王だったのです。私たちが世界の敵だと断罪して来た者たちは――」

「バカカメ。一を見て全部を見た気になるんじゃあねーよ」


 ヤレヤレと俺はため息を付く。だってそうだ。俺たちが倒した魔王や魔物の中には確かにいい奴がいたのかもしれない。


 だが、誰かを傷つける奴じゃ無かったかといえばそんなことはねぇ。人を襲い、殺し、喰らい、犯し、奪ってきた奴らは確かにいた。


 だから、俺たちのしてきた事が全部間違いだったなんて言わせねぇ。


「……まったく、モモはこういう時は動じないんですから」

「うぇ、ほめるなよ。気持ち悪ぃ……」


 とか言ったら思いっきり槍を脳天に向けて投げられた。いや、死ぬから!普通に今のは死ぬからな!


「あら、躱さなくてもよかったのですが」

「こ、こいつぅ!」


 笑顔のカメとギギギ、といつものようにガンつけ合いをしていると、大きな音がして扉が開け放たれた。


「こんなところに居た!もう、こっちに来てから俺の天っっ才的な頭脳が活性化され過ぎて堪らないんだ!聞いてくれよ二人とも!」

「「え、やだ/嫌です」」


 思わずカメと被ってしまった。だが、それも仕方ないだろう。こいつ――調の勇者、斉藤克月(かづき)は天才的な頭脳を持った男なんだが、その分性格が面倒くさい。自己主張が激しくて自分の作った発明品やら薬やらを誰彼構わず自慢しやがる。一番の被害者は聞き上手の防の勇者である金倉(かねくら)(るい)くらいだろう。


「嫌って何だよもー。涙がいないから自慢してやろうと思って持ってきたのに」

「ああ、アイツは堀の守りをどうするか魔王達と話に行ってやがったからな」


 防の勇者の名は伊達じゃあない。女だからと言って甘く見て攻撃して返り討ちにあった――じゃねぇ、痛み分けになったのは今でも覚えている。キンの奴、本っ当にカテぇんだよなぁ……。


「はぁ、それで何を持ってきたんですか?」

「それはこいつさ!」


 そう言って克月が取り出したのは腕時計のようなモノだった。うん?なんでぇただの時計じゃねーか。


「違うね!全っ然違うね!これは時計型浄化装置!今あの氷の中で蠢いている泥を防ぐ効果のある腕時計型浄化装置さ!付けているだけで周囲二メートルの泥を浄化し続けてくれるという優れモノさ!」

「おお、そいつはすげぇじゃねーか!てか、こっちに来てニ・三日だって言うのによくこんなもの作りやがったな」

「でしょでしょ!すごいでしょ?最高でしょ?天っ才でしょ?」


 うぜぇ……。鼻を鳴らして克月がドヤ顔を決めてきやがる。これが無ければ手放しでほめてやれるんだがなぁ。


「で、本当の所は前々から研究していたのでしょう?」

「バレたか」


 カメの言葉にてへぺろと克月が舌を出している。可愛くねぇ!というかのほめ言葉を返せ!


「はっはっは、貰ってしまったモノは返さない主義でね。ともあれ、あの黒い泥は以前から気になって調べていたモノだったんだ。いわゆるアラガミ教の現れた地域で発生する魔物と亜人の凶悪化の一員になっていたモノだね。最悪な事にこれは勇者すら侵食する」

「浸食ってぇと?」

「泥に喰われると理性を失って泥――つまるところ邪神の一部に乗っ取られるわけだ。そうなったが最後、死んでも戻ることは無い。大聖堂の地下に封印されていた何人かはこの状態になったことが原因だったからね。俺のチート、オールアナライズを使って調べていたって訳。尤も、結果は解析不能でコツコツと実験を繰り返して調べるしかなかったんだけど、それがこっちに来て一気に氷解したってわけさ。いやぁ、アレを浄化できる人がいるなんて思いもしなかったよ!」

「浄化できる人って――」

「ああ、水無瀬真理さんに伊代さんだね。聖剣の持ち主である水無瀬真人氏の妹さんと婚約者さんだね。彼女らが舞を舞ったら泥が見事に浄化されたんだよ」


 舞っつーと踊りって事か?踊るだけで浄化されるなら……いや、流石に踊りながらは戦えねーなぁ。


「その通り!だからこそ、その仕組みをアナライズ(解析)したって訳。仕組みさえわかれば後は再現をして、最適化させればいい訳だ。元々どういう性質のモノか迄は分かっていたからね。分かってしまえばサクッと作れば良いだけだった訳だ!いやぁ、こっちにはいい素材だらけで堪らないね!魔鉄鋼の質もいいし、何よりあの魔導家電には心が惹かれる――。俺、平和になったらアークルに住むんだ……」

「そこ、死亡フラグを勝手に立てないでください」

「えー」


 こいつ、分かってて言ってやがる。はぁ、とため息を付いて肩を竦めて見せる。ヤレヤレ、こんな奴が住み着いた日にはアークルとか言う街に迷惑かけまくるに決まっている。遊びに行くがてら様子見には絶対に行くとしよう。それもまぁ、無事平穏に魔神なんて訳の分からん奴をぶっ倒せたらなのだけれども。


「……美鶴と毒島、深谷はあの後も行方知れずなのですよね?」

「捜索はしたんだけどね。見つかってない。たとえ死んでいたとしても大聖堂跡に復活する筈、なんだけど復活していないのを見るにどこかで生きているんだろうね。あの三人があんな格好の阿鼻叫喚の地獄(まつり)を逃げ出すとは思えないから調べてみたんだけど、たぶんアイツらアラガミに与してる」

「それは確定事項か?」

「なにせ、先日のドタバタのせいで彼らの拠点はぶっ飛んじゃったからね。恐らくという想定の域は出来れていないってのが現状だよ」


 それでも、仲間にそんな可能性があるというのは辛いところだ。もし、敵として出てくるとしたら気が重ぇ。柄じゃねーが、そう言うのって苦手なんだよな、俺。


「モモはこう見えて繊細ですからね」

「あんだ、やるのか?」

「まぁまぁまぁ。ここでケンカは無しってことで!」


 ふん、と鼻を鳴らして長椅子に腰を据える。

 氷が砕け、泥が溢れるまであと一日も無いと聞いた。


 それまでに俺らができる事は何かあるのか?馬鹿な俺には答えなんて分かる訳もなかった。胸の奥のチリチリとした嫌な感じが、俺の心をザワつかせる。ああ、本当に落ち着かねぇ……!

今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ

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