33話:ふらりと一人旅は男の浪漫だけど多少なりとも計画していないと後で大変な目にあうから注意しないといけないよね?
夢を見る。
もう、二度と見る筈も無いと思っていた夢を。
――俺は、たった一人だった。
両親を一緒に乗った飛行機の事故で亡くし、家財一式財産諸共に親戚共に奪い尽くされて。
幼い身で何もかもが無くなった。
俺を引き取ろうという者はだれ一人として現れず、俺の友人だと思っていた人たちにすら疎まれて、何一つ悪い事をしていないのに俺は石を投げつけられたのを今でも覚えている。
孤児院に送り出されることは俺の知らぬ間に決まっていた。
幸せだった家を奪われ、居場所も、想い出すら俺の家を奪った奴らに捨てられてしまった。
悔しくて。
悲しくて。
辛くて。
俺は孤児院に引き取られる朝、逃げ出した。あんな奴らの思い通りになるのがとてつもなく嫌だったのだ。
涙を隠すように降りしきる雨の中を駆け抜けて、たどり着いたのは俺の元の家から近い山の奥深く、そこにポツリと取り残されたように廃墟になった神社だった。
お腹が空いて、苦しくて、悲しくて、いつまでもいつまでも声を堪えて泣いて、いつの間にか眠ってしまっていた。
目が覚めると雨は止んでいて――暖かな誰かの膝で寝かされていた。
その人こそ、水無瀬真名――俺の義母さんになってくれた人だった。
俺の本当の母親の妹さんで、駆け落ちしていなくなった母さんの代わりに当主の座に就いたのだと、見知らぬ人たちに嫌味のように聞かされたものだ。
陳腐な言い回しではあるけれど、義母さんはまるで太陽のような人だった。
初恋だったのかと言われてしまえば首をひねりかねないけれど。
とても素敵で、可憐で、底抜けに明るくて、こんな人が将来のお嫁さんだったらと夢想したことが無いとは言えなくもない。
ないのだけれど、兎も角それはない。
そうであってはいけない。
だって、その愛しい人を殺したのは――俺なのだから。
――忘れもしない。アレは俺の誕生日会の翌朝の事だった。
義母さんと真理と楽しくご飯を食べて。
嗚呼こんな幸せが毎日続けばいいとそう思っていたその次の日に――俺は義母さんと共に拉致られて上空数百メートルから霊力が枯渇した山奥へと諸共に墜とされた。
あの時の俺はまだ力の使い方も、無限流の技すら知らない本当にただの子供だった。
だから、俺は成す術もなく怪我をして動けなくなってしまった。思い返してみれば墜落して助かったのも義母さんが助けてくれたからだったのだろう。
そんなこともつゆ知らず。俺は全部義母さんにまかせなさい!なんていう普段通りな義母さんに励まされてまた、楽しい日々が戻って来るモノだと信じていた。
信じていたんだ。
その山には古くから巣食う化け物の住まう地だった。霊力が枯渇した地故に討伐されることなく延々とソレは生きながらえていた。
人を何人も喰らった悪鬼はその力を増してゆく。
その悪鬼は俺が出逢うまでに優に数千人を喰らっていた。そんな化け物、俺と言うお荷物を抱えた義母さんが敵うはずも無かった。
けれど、義母さんは俺を護りぬいた。護りぬいて、護りぬいて、鬼と相打ちになって――死んだ。
俺に、真理の事を託して――。
後から聞いた話ではあるけれど、現当主と次期当主を二人して死地に向かわせたのは儀式の一つだったのだという。必ずどちらかが死ぬ呪いがかけられるのだそうだ。
だから、真理と剣岳に墜とされたときも既にその呪いがかけられていたのだろう。
義母さんが死ぬ間際――俺は義母さんと約束をした。
――……真理の事お願いね。きっと幸せにしてあげてね?
――前に教えたお守りの言の葉――忘れちゃ駄目よ?
――真人。自分が守りたい人だけ守りなさい。一人が守れる数は限られているの。だから手の伸ばせる範囲の人だけ守るの。最悪、貴方自身だけでも守りなさい。
――男の子なら約束はきちんと守る事。小さなことでもキッチリと、よ?そうじゃないと男が廃るんだから。頼りにしてるぞ?
大体、そんな感じの話だった。痛くて、苦しくて、辛い筈なのに、心配するのは真理と俺の事ばかり。何でこんなにいい人が死ななければならないのか。何でこんなにも自分は弱いのか。守りたい人は目の前にいる。そんな目の前の人すら、自分は救うことができない!涙を流しながら俺は血に塗れた義母さんに抱き着く。こうでもしないともう二度と逢えない気がして。
――最後に、一言……だけ。愛しているわ、真人。貴方は私の――自慢の息子、よ。
そう言って義母さんは俺の顔をひと撫ですると、そのまま息絶えてしまった。
……何日、動けなかっただろうか。
水もとらず、食事もとらず、寝ることも無く、俺はただ義母さんの手を握り続けた。
動いたのはそれを邪魔したモノが居たからだった。
山の獣ではない、魔の獣。この地を支配していた鬼が殺されたことにより、この地を狙ってきた化け物猪だった。
ああ、これで俺も義母さんと同じところに行ける――。そんな、あきらめにも似た死を覚悟した時だった。
「何でぇ、しけた面してやがんなぁ坊主」
飄々とした様子で現れたのが、師匠だった。今更ながらになって思い返せば、師匠との結びつけてくれたのは義母さんだったのだろう。何の確証も無いのだけれど、俺にはそう思えて仕方がなかった。
だから、俺は必死になって強くなった。
義母さんとの約束を守るために。
義母さんの最後の願いを叶えるために。
俺は、俺は――
『まーくん!』
パチリと、サクラちゃんの声で目が覚めた。うん、ここはどこかな!息を吸い込もうとしてピタリと止める。ああ、だって吸ってしまう訳にも吐き出すわけにもいかなくなってしまったのだから。
――宇宙。
目の前には青くて丸い地球とは違う星が目の前に漂っていた。
そう。俺は今、宇宙にいたのだ。
今日も今日とてとってもとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ
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