30話:大きいのも小さいのもいいモノだけれどできれば大きい方が夢とロマンとがあっていいよね?
百瀬の振るう大剣の衝撃波でボロボロと崩れていく外壁やら天井やらをかき分けるように突き進み、その鈍重なる刃を鼻先一寸で躱して無防備な顎に拳をお見舞いする。百瀬の体が浮きあがったところに追撃の技を放つ――瞬間、弾けるように飛び下がり、不意に現れた槍を躱して往なして掴んで近くのプラントに向けて投げる。よし、殺せた!
けれど、塩の塊になって消えたところを考えるとまたスタート地点に死に戻りしただけなのだろう。本当に面倒なモノを作ってくれたものだな!
「以前戦った魔王の幹部クラス以上の反射速度ですね。アイツ一体何者なのでしょうか?」
「うるせぇカメ!そんなのぶっ飛ばしてから考えればいいだろうが!」
……それにしてもダメージを与えている筈なのに百瀬の奴、ぴんぴんしているなぁ。ユウシャは魔物を倒せば倒すほどに強くなるとは聞いていたけれど、思った以上にかなり面倒臭そうだ。というか、チートが切れる気配も無いし!設定ガバガバ過ぎないかな!
「さぁ、行くぜ行くぜ!おらぁ!」
技も何もありやしない、乱暴な一撃を拳で弾いて勢いのままに死角から現れた槍を躱して掴んだ所で百瀬の脇腹へと突き刺す。
「ぐ、おらぁ!」
けれど、意に介さないとばかりに突き刺さった槍を筋肉で締めて返しの一撃をボクに目掛けて振り上げる。くるんと、槍を鉄棒の如く使って避けて太ももで百瀬の頭を挟んで引き倒し、脳天から地面に叩きつけた。
「モモ!」
地面から唐突に現れた大量の槍がボクがいたところを取り囲み、百瀬をすっぽりと包み込んでしまう。く、もう少しで意識を持って行けそうだったのに!
「ぐ、う、余計な事しやがって……。なんか天国が見えたぞ。やわっこかった……?」
「最低ね、モモ。魔物だというのに欲情するなんて」
「ち、ちげぇわい!こんなぺたんこに誰が欲情なんてするか!」
――プツリ、と何かが切れる音がした気がした。
えっとぉ、何を言ったかなコイツ?え、ぺたんこ?誰がかな?ああ、うん、ボクか!そうだね、隣の織姫さんおっきいもんね!そうだね!そうだよね!そうとしか考えられないよね!!……よし、殺そう。
めらめらと湧き上がる怒りが涙となって溢れ出す。この男はボクの逆鱗に触れた!ボク獅子族だけど!
「なんだぁコイツ。さっきとふいんきが変わりやがったぞ?」
「モモのバカが怒らせたんでしょう!」
なんだか和気あいあいと楽しそうに話している。なるほど!そうか!カップルなのかなこの二人?ボクなんてまだ好きな人に告白すらまともにできてない、というか振られる気しかしてないのにな!ふふふ、ぶっ飛ばす!
「な、何だか理不尽な理由で更に怒り出した!?」
「モモ、一旦逃げるわよ!全力で出口に――」
「逃すか、バカップルううううう!!」
無尽蔵に溢れ出す魔力を拳にのせて目の前のバカ二人とついでに遺体を漁っていた魔物たちに向けて振りぬく。
――無限流/無手/奥義の弐/摩利支天!
振りぬいた拳が光の塊となって目の前の全てを薙ぎ払い、吹き飛ばす!
「な、ぐああああ!!!?」「きゃあああ!!!」
いつの日か、ボクが遠距離攻撃の手段が乏しいと悩んでいた所に真人が教えてくれた技。この姿でなら反動も少なくて使い勝手が良いだろうと言っていたけれど、それでも中々にキツイ。真人の奴、こんな技を素知らぬ顔で連続で放って見せていた。まぁ、アイツが頭がおかしいのは分かっていたけれどこれほどまでの無理無茶を通していたのは正直もっと早く知っておきたかった。それならもっと――
「ぐ、ぅ……」「……」
崩れ落ちた瓦礫の中から百瀬がボロボロの姿で立ち上がる。
織姫は意識を失っているらしく、動く気配はない。どうやら頑丈な百瀬が彼女を庇ったらしい。
「どうだい、まだやるかい?」
「は、やらないと言って逃がしてくれるのか?」
ほとんど原型をとどめていない腕を無理やりに動かし、百瀬は折れて砕けている大剣を持ち上げる。
真人は言っていた。ユウシャの中で勇者と言える人間は間違いなくいるだろうと。目の前の大切な人を護るそんな奴が。
「馬鹿だな、お前」
「誰がバカだ」
ここでとどめを刺してしまえば彼らが向かうのは大聖堂。真人たちが戦っているあの場所だ。
彼らが死ねば彼らも犠牲者になりかねない。正直知った事では無いのだけれど、彼らの事を多少気にいっていた真人が悲しむ可能性がある。
――さてどうしたものか。
「デュミナス!アクア――ヒーリングミストおおおおお!!!」
白い塊が天空から舞い落ちた瞬間、悩んでいたボクの視界が真白の霧に染まる。
「申し訳ありません、戻るのに手間取りました」
「……私もついでにいますけど、ね!」
続いて風と共に落ちてきたナニカがその霧を薙ぎ払う。
――そこにはビオラ様と、魔法少女姿をしたとってもばつの悪そうな七竃撫子がそこにいた。
「一発ぶん殴ってやりたいところだけど、それはまた後にしておくとしよう。お前とビオラ様が一緒に居ると言う事はつまりは真人の奴はちゃんと取り戻せたって事だろうし、な!」
軽くデコピンでおでこを弾いてやる。あ、開放してるの忘れて思いっきり壁に吹っ飛ばしちゃった。ふふ、ついやっちゃったんだぜ!
「う、うぐぐ、甘んじて受けさせていただきますぅ……」
涙目の撫子がフラフラと立ち上がる。どうやら多少は以前より鍛えているらしい。
「まったく、迷惑ばかりかけて。おかげでボクはアイツの奴隷だ」
とヤレヤレムーブを出しつつも悪い気はしないのはここだけの話。お陰でやっとあのバカがボクのことを女の子としてちゃんと認識してくれたんだしね。まぁ、この七面倒な事態を招いたのは撫子が原因なのだけど、本意では無かったと言う事で今の所は先ほどの一撃で許してやるとしよう。今の所はね!!
「一発で済みそうにないじゃないですかやだー!」
「ははは、不用意に敵からアイテムを受け取った自分を呪うんだね!」
涙目の撫子が頭を抱えて嘆いている。アークルに戻ったらもっと大変なことになるんだろうけど、そこはまぁ真人の奴がうまく取りなすだろう。
「う、ぁ?なんだ、俺、何で魔物と一緒に戦って……?」
「私は、なんで、何を……ナニコレ?」
傷が全快した勇者百瀬太郎と武甕織姫が頭を振って辺りを見回して呆然としている。そりゃあそうだろう。見渡す限りにプラントから発生した魔物達が溢れ出し、街を蹂躙闊歩しているのだから。
「目が覚めたか?覚めたならボクなんかを相手するんじゃ無くてアイツらを倒すんだね。ああボクらも一緒に戦うから悪しからず」
「ま、待て。お前らは俺の敵じゃないのか?」
訳が分からないという顔で百瀬がポツリと言葉を零す。
「敵なんだろうさ。けれど、今だけは目の前の敵を倒すために力を貸してやる。ああ、空に飛んでる白と赤の龍は味方だから攻撃するなよ?」
そう言ってビオラ様と撫子と共に後方部隊の方へと足を向ける。どうやらあちらでも戦闘が起こっているらしい。空を見上げれば空を飛ぶ真人とナニカが戦っているのが見えた。あいつ、また無理をしていないだろうか?心配ばかりかけるんだから仕方のない奴だよ、まったく。
今日も今日とてとってもとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ