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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第九章:白銀の煌めきと勇者な執事。いいえ、光る蕎麦はありません!
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28話:毒のある生き物を無毒化してでも食べようとする日本人って美食に対する執念を感じるよね

 めぐる巡る炎が廻る。吹き荒れる風に乗り手に持つは――聖剣。

 

 グラトニウスの放つ炎と魔力弾を躱して弾いて切り裂いてこれで幾度目の致命傷を与えてやる。――が、即座に再生されてしまった。本当に厄介すぎるなこいつ!


「貴様に万が一にも勝ち目はぁ、ない。外の魔王共も私に勝てる術もない。何せ私はぁ勇者だ。ここで死ねばここで復活する。そう、私がいる()()こそが教会なのだからなぁ」


 楽しそうに笑うグラトニウス。なるほど、ようやっとこいつがプラトニアスと同じく地脈と繋がった理由が分かった。こいつは曲がりなりにも教皇だ。少なくともその肉体を有している。こいつがいるところこそが教会であると世界に認めさせたならば、こいつは自分が死んだ場所にすぐ様に――いや、自らの望む場所で復活できるという訳だ。なにせ、こいつがいる場所は即ちダンジョン(教会)になる訳なのだから。


 目の前の魔物たちを切り裂いて今一度グラトニウスに肉薄する。降り注ぐ剣も慣れたモノ。当たったら即死しそうだけど何とか躱して影に隠れた魔力弾を斬り弾く。


「そう、私はこの力をもってぇ――神となる!次元の狭間に堕ちた数多の神など恐れるに足らぬぅ!勇者如きに封じられた魔神もだ!私こそ!この世界を統べるにふさわしい存在なのだよ!だからこそっ!」


 初めて――聖剣の、その剣の刃をグラトニウスに受け止められた。こいつ、今もまだ成長してるとでもいうのか!?


「なに、簡単な事だ。私のチートが増えているのだよ。今のは絶対防御という奴だったか。くく、流石は(さきもり)の勇者のチート。聖剣も受け止める事だけは出来るらしい」


 ギギギ、と出現した鎧に防がれた刃が火花を散らす。すっごくわかりにくいけど、聖剣は鎧を全力で斬っている。けれど、その切断に至るより先に鎧が再生している訳だ。


「ちぃ、さらに面倒に!」


 くるんと反転、グラトニウスの横っ面を蹴り飛ばして地面に降り立つ。ついでに周りの魔物を蹴散らしたけれど、すぐにわんこ蕎麦よろしく追加発注がかけられている。プラントたち働き過ぎじゃ無いかな!俺みたいに過労死するぞ!


 ――さて、このままじゃじり貧も良いところ。後ろの方でビオラちゃんとナナちゃんが賢明に魔物達と戦っているけれど、押しつぶされるのも時間の問題だろう。


「――今度こそ、死ね!柳生!」


 放たれたのは呪符の付いた矢。それも雨のように降り注ぎ、魔物とグラトニウスに突き刺さっていく。


「爆ぜろ!」


 澄んだ掛け声白い発光と共に爆音が轟き、矢の突き刺さった魔物達が次々に倒れていく。


「クロエさん?!」

「……すまない、やっと自分を取り戻せた。ああ、今度こそシャングリラは――の前にこれはプラトニアス?魔法学園のモノは滅んだはずではなかったのか?」


 そう言って現れたのは洗脳されていたクロエさんだった。一体全体どうして元に戻っているのかが気になるところだけど……。


「私にもよくわからんが上階から水が降り注いで来てな。それを浴びたら頭がすっきりとしたわけだ」

「そう、それは正しく甘露と言うモノだろう。もちろん甘いわけでは無く天から降り注ぐ恵みの雨という訳だ。まさか知らぬうちにこの体を好き勝手に使われていたとは不覚の極み。これでは君に捧げると言った――」

「葵、ステイ」

「あう」


 クロエさんに頭を抑えられて葵さんがしょんぼりとしている。あのままじゃ話が進まないから仕方ないネ!しかし、なるほど。先ほどビオラちゃんが放ったュミナスアクア!ヒーリングミストが液状化して雨のように地下に降り注いだことが原因らしい。魔法で出した水って消えないからこういう影響も出たりするんだなぁ……。


 見回せば地下から戻って来た勇者教ギルドのメンバーと反勇者教ギルドのメンバーが魔物達と刃を交えている。ああ、つまるところ勇者教皇の奴は周りを囲んでいた教会メンバー全員を洗脳していたのだろう。それが彼の意思だったのかグラトニウスの意思だったのかは最早わからない。けれど、魔物から人々を護りたいという思いだけは彼らに残された共通点と言っていいのだろう。


「それで、状況を」


 説明を急かすクロエさんではあるけれど、どう説明したものかと俺はあたまをポリポリと掻いてしまう。端的に言ってしまえば柳生も魔王グラトニウスに操られていて、ついさっき全部喰われて勇魔王とかになったあと、プラトニアス化して小さいプラントたちを操りながら勇者喰いの真っ最中と言ったところかな?


「……意味が分からないと突っぱねたいところだが、現状の光景を見れば納得せざるを得まい。――まったく、恭司の奴め。初めて勝った魔王の魔石だからと砕かずに取っておこうとするからだ」


 つまり、そこから――魔王に勝ったという所から操られていたのだろう。


「正解だ。まさかチートを解除するチートがあるとはな。これはまた新たな発見だが――」

「グラトニウス!貴様、恭司を!」


 弓を構えたクロエさんがぐいと弦を弾いて幾本もの矢を天に放つ。


「ああ、もう心も魂も喰った。私が貴様の知る俺だよ、クロエ。貴様の愛した男はもうこの世に存在しない。ははは、残念だったなぁ」


 放たれる前に弾かれた矢が空しくも地面に散らばって行く。防の勇者のチート強すぎないかな!


「お前――おまえええええええええええええええ!!」

「はは、お里が知れるぞ田舎娘」


 風を切って瞬間移動と見まごうほどのスピードでクロエさんのみぞおちをその拳が撃ちつけられる。


「が、ふ――!?」

「そろそろ死んで置け。ああ、こいつの言葉をやろう。――目の前をちょろちょろしてずっとずっと邪魔だった。はは、残念だったなぁ」


 クロエさんごと大きく振りかぶった拳を壁に向けて振りぬく。腕力に任されて殴り飛ばされたクロエさんが壁に激突――する前に風が彼女を捕らえた。


 それはメタルヒーローよろしく全身を鎧に包んだ少女だった、


「ほんっと、いけ好かない男だ。私の尊敬するクロエさんをこんなにも酷い振り方をするなんて下の下の極みだな。男として最底辺と言っていい。世が世であれば最低魔王と――」

「葵、ケホ、今少し……黙ってて」


 顔を腕で隠したクロエさんが、震える声でそう答えた。肉体的ダメージも精神的にも相当なダメージだったのだろう。というか、クロエさんってあの男の事好きだったの!?衝撃的事実過ぎないかな!


「すぐに治します!」

「させると?」


 ビオラちゃんが手をクロエさんに向けた瞬間にグラトニウスの標的が彼女に代わる。


――無限流/無手/虎!


 無拍子の前蹴りにてビオラちゃんに襲い掛かろうとしていたグラトニウスを壁に叩きつけて差し上げる。


「それこそさせると思ったかこんにゃろうめが!」


 フンスと鼻息を鳴らしてビオラちゃんの前に立つ。俺の目の前で嫁さんに手出しをされてたまるか!


「ぐ、ぬ、防のチートで防いだはず」


 ふらりとダメージを負った様子でグラトニウスが立ち上がる。どうやら攻撃を防ぐことは出来ても衝撃までは防ぐことができていないらしい。ならば話は簡単だ。


「ビオラちゃん、お願いがある。勇者教のユウシャ達はこいつのチートで洗脳されてる可能性がある。シャングリラの拠点にいた俺の分身ももう消えているから状況はわかんないけど、百瀬の兄ちゃんたちも洗脳されている可能性が高い。ビオラちゃんの力でみんなの洗脳を解いて回って欲しい。――お願いできるかな?」

「はい、任せてください。私だって、真人さんのお嫁さんなんですから」


 ニッコリと柔和に微笑む妻の顔が愛おしい。


『むーいいなぁ』


 サクラちゃんの声が頭に響く。大丈夫、サクラちゃんを一番愛してます。これ言葉に出していったらみんなに怒られるからいつもは言えないんだけどね!


 えへへーとご機嫌なサクラちゃんの声を聴きながら、襲い来るグラトニウスに向けてありったけの水を地面から叩きつけて差し上げる。戦いながら引き寄せたこの都市の地下深くに流れる地下水脈である。


「な、がぶぼ!?」


 驚愕と言った様子でグラトニウスが水圧で吹き飛ばされ天井を突き破って行ってしまった。


「ナナちゃん、ビオラちゃんの事頼めるかな?」

「私――うん、大丈夫。やってみます!」


 その言葉に強くうなずいて返して、クロエさんにもビオラちゃんをお願いして空に向けて足を駆ける。

 今の腕で奥義を放てるか不安で仕方ないけれど、やってやれなきゃ漢が廃る!絶対に取り戻すんだ。俺の、俺たちの日常を――!

今日も今日とてとってもとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ

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