27話:バレンタインデーは菓子会社の陰謀と言われることもあるけれど貰えたら貰えたでそれはそれで嬉しいモノだよね?
それはもう本当に唐突だった。
私たちが待機していた反勇者教ギルド、シャングリラの本拠地が見える少し高めのビルの屋上から、召喚されたからとビオラちゃんが手を振って魔方陣に乗って転移して行ってしまった。ええと、こ、これって兄さんがピンチってことなの?ど、どど、どうしよう沙夜!
『真理様、落ち着いてください。恐らく計画通りに事が動いているという事なのでしょう』
そっと耳元でぬいぐるみモードの沙夜が囁く。つまり、兄さんが自分を囮にしてサクラさんを取り戻している所……なのだろう。恐らくはその最中、相手に聖剣を奪ったと錯覚させるために呼び出されたのだろう。うん、冷静に考えればなんかダイジョブな気がしてきた!
『昨晩のうちに聞いていたことを忘れないでください、まったく……』
ヤレヤレといった感じの沙夜のため息が聞こえる。だって仕方ないじゃない!大切な人がいなくなるのってとっても辛いんだからね!
『……まぁ、そこだけは同意いたしますが。さて――戦闘の準備を。魔力反応多数。可能性だけはあるとの事でしたがやはり――』
「おでましね、って思ってたより多いよ!?」
闇夜に赤い光を放ちながらワラワラと羽を広げたプラントたちが空に放たれていく。それを負うように白銀の龍が空に舞い踊る。あれは――
「シルヴィア様です。真人様の奥方様のお一人ですね。その背に乗られているのが伊代様です。彼女もまた――」
「まって、シレーネさん!あの子私より年下じゃないかな!めっちゃ小さいよ!?思っていた以上にロリロリじゃない?ぜ、全部終わったら兄さんを問い詰めないと!」
公くんを見る目からまさかとは思っていたけれど、兄さんがまさかロリコンだったなんて……。そう言えばフレアちゃんも割と、というかかなり背は小さ目だし?あれ、まさかカトレアちゃんにアイリスちゃんも射程範囲内?ま、守護らなきゃ……!ふふ、何で二人とも苦笑いしてるのかな?私ちょっと寂しいな!
『貴女もそう変わらないでしょうに……』
沙夜の言葉にそんなこと無いよ!と胸を張る。そう、まだまだ私は成長期!……勇者は年を取らない?ふふ、知ってます。けれど、魔法でどうにでもなる筈!魔法学園の学園長さんを見てちょっと自信が揺らいでるけど……。私はきっと、いつかばいんばいんになるんだから!なるんだい……ぐす。
言っててなんか涙が溢れそうになって来た。くぅ、せめてもう少し成長してからこっちの世界に来たかったなぁ……。選択肢なんてあって無いようなモノだったけど。
――とか考えていると、地面に唐突に現れた魔方陣から複数の光の鎖が出現し、私にシレーネさん、ロムネヤスカ姉妹の二人も捕らえられてしまった。これ、食い込んで割と痛い!
「……こちらは、完了。ぐ、う?わたし、何、を――」
頭を押さえてレキちゃんが苦しそうに呻く。まさか、操られてる……?そう言えば勇者教トップは洗脳系のチートを持ってるとか言ってたっけ。もしかするとそのチートで?
「いいえ、どうやらそちらではないようです」
「ぎ、ぴ!?」
シレーネさんのその言葉を皮切りにレキちゃんから黒いオーラが溢れ出すと、目深く被っていたフードが風で靡いて外れた。
――異形。可愛らしい顔の総てを黒く蠢く何かで覆いわれて明らかにレキちゃんの目ではない金色の瞳がギョロギョロと周囲を見回していた。そしてその額には、漆黒の角。その姿は正しく――
「鬼?」
『恐らくはその一種なのでしょう。人の悪意をエネルギーとした呪詛のようなモノを感じます。寝坊助なヒルコ様は如何思われますか?』
『寝坊助は余計だ。ふむ、アレは悪神の一部だの。なるほど、真人の言っていた呪詛の泥とはアレの事なのだろうな』
ぬいぐるみサイズのヒルコ様が腕を組んでうんうんと何か納得したような顔をしている。
つまるところ、レキちゃんはその悪神の一部とやらに乗っ取られて私たちを捕らえているらしい。あれ、これちょっとピンチじゃないかな!
「この程度――問題ありません」
「「シャドーランス!」」
背中から巨大な腕を生やしたシレーネさんが縛っていた鎖を砕き、カトレアちゃんとアイリスちゃんは闇の槍を魔法で出現させて脱出していた。あれ、私だけ抜け出せてない?んん!力を込めても外れないんですけどぉ!
『まったく、仕方ありませんね」
人型の姿に変わった沙夜が手に持った小太刀を振るう。
――無限流/刃/嵐
ざんざんばらりと切り伏せるその技は目にもとまらぬ速さで私を縛っていた魔法の鎖を斬り放ったのだった。もう、早くやってよう!でもありがとう!大好き!
「はいはい、集中してくださいね。来ますよ?」
空から自由落下で堕ちてきたのは先ほど教会から放たれたプラントたち。
「真理ちゃん、このプラントの人たちって」
「うん、たぶん教会地下の……」
つまり、殺しても教会で生き返る勇者達。そんな彼らがプラントになったのというだ。こ、これやばくないかな……?
レキちゃんが右手を上げると。プラントたちが共鳴するかのように魔物たちを生み出していく。子供サイズのゴブリンに犬と人を混ぜたようなコボルトという魔物、そしてオークの集団が一瞬にして姿を現していき、息をするかのように次々次とその数を際限なく増やしていく。
あたりに爆音と悲鳴が響き、至る所から黒煙が上がり始めた。
目の前にいるプラントだけでこれ程の数なのに、先ほど放たれたプラントたちが一斉に魔物を召喚したとすれば一体如何ほどの量の魔物がこの都市にあふれるのだろうかと考えるだけで足がすくみそうになる。見れば以前見た龍の影が幾つも、ううん、もうすでに数えきれない程に姿を現していた。
「問題ありません。要は、目の前の敵をひねりつぶしていけばいいだけですから」
「その通りです。ええ、良い気晴らしになりそうです」
「がんばるのですよ!」「ええ、特訓の成果の見せどころですね!」
どうやらみんなやる気満々のようだ。デュミナスフォーチュナーの衣装を叩いて深呼吸をする。
――大丈夫、お前ならできるよ。兄さんはそう言って私の頭を撫でてくれた。
元の世界に居た頃は素直に受け取ることができなかったかもしれない。けれど、今は違う。
ようし!頑張って頑張って、兄さんに流石俺の妹だって褒めてもらうんだから!
ギュウと握りしめた拳を目の前の魔物たちに指し示す。
「さぁ、行くわよ!ここからが私たちのステージなんだから!」
今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ