22話:ガラス細工って脆くて壊れそうで儚いけれどソレこそが美しさを際立たせるモノだよね?
二つの月が空高くに上ったころについぞ、作戦は開始された。
「おらおらおらおらおらぁああああ!!勇者様のお通りだ!どこに居やがる、このやろう!!!」
ひっそり潜入だと言う話はどこへやら、百瀬の兄ちゃんは青龍刀をぶんぶんと意気揚々と振り回して襲い掛かる構成員の皆さんを薙ぎ払っていく。殺していないところを見るにまだ温情はあるらしい。尤も、殲滅作戦であるから、兄ちゃんの優しさも明日の朝頃には無駄になってしまうのだろうけれど。
「まったく、モモは甘すぎます。殺しに来ているのだから殺すのが筋と言うものですよ?」
対照的に容赦なく殺しまくっているのは織姫さんだ。薙いで払って突いて叩きつける。正しく槍の正しいお手本を見せてもらっているかのようだ。うん、これ俺っていらないんじゃないかな?
「ええい、お前も真面目に戦え!というか、ここは抑えておくからとっと先に行ってここのトップをとっ捕まえちまえ!そうすりゃこいつらも大人しくなるだろうしな!」
「なる訳ないでしょ。殲滅されると分かってて大人しく捕まるバカはモモくらいだよ」
「あんだとう!?」
「それではお先に失礼しまぁす!」
口喧嘩が始まりそうだったので、逃げるように先に行かせてもらう事にする。地上のもつれに巻き込まれるのは勘弁して欲しいかなって!
とはいえ、すでにここから先はもぬけの殻。だからこそ彼らは必死にここを死守している。なにせ、このシャングリラのトップとその主力メンバーは既に大聖堂へとつながる地下道を走り抜けている最中であるからだ。そう、俺の本体と一緒に。
「――彼らはここを死地と決めてくれた。私たちはそれに答えなければならない」
走りながら厳しい顔で反勇者ギルドのリーダーであるクロエさんが皆に向けて話しかける。
「これは私たちの最後の戦いだ。悪足掻きだと思ってくれていい。予言の刻は迫っている。最早猶予は残されていない」
「って、予言ってナンノコトカナ?俺その話聞いてないんだけど」
クロエさんに並走しながら俺は首をかしげる。
「君はもう知っているだろう?魔神がこの世界に復活する刻限の事だ。その時までにこの勇者教を壊し、再建する必要がある」
壊すのは良いけれど、再建って今の勇者教をどうするつもりなのかとっても気になるところではある。だけど残念ながら今はそれどころではない。ともあれ目の前の事を片付けないとどうにもできないんだよ。
地下道のその先。ふさがれたその先こそが大聖堂なのだと言う。……どう見ても行き止まりだよコレ!
「問題ナッシング!さぁ、準備は出来ているかい?もちろん私は準備万端だこの日の為に行く千日待ち続けたことかわからない程だからね。いやはや人間待ちすぎるとコケが生えそうになるものでびっくりだ、いや私は既に人と言う枠を超えた勇者と言うモノなのだけれど――」
「葵、やってくれ」
「あいさ――」
収縮する魔力が葵の体に纏いつき、鋼の鎧を生み出した。これは特撮系変身!でも掛け声はちゃんと言って欲しかったな!こう、チェンジ――とか、変身!とか、蒸着とか!!
「んんん、そう言っている間があれば攻撃するのが信条でね。まぁ、この前は焦り過ぎて死にかけたのだけれど」
恥ずかしそうにポリポリと顔を書きながら元からのばねを見事に生かした跳躍にて壁に向けて連撃を放っていく。なるほど、これは中々のものだ。
「さぁこれで仕舞だっ――うぉらあ!!」
突撃槍の如き一撃が壁に穴を穿ち打ち破る。ガラリと瓦礫の崩れたその先は――大量の機械がひしめく地下空間が現れた。
見回せば、人らしきモノがガラス細工の箱のようなモノに詰め込まれて液体に付け込まれている。四肢は切り落とされ、体の至る所にはチューブが取り付けられている。時折身じろぎするところからようやくソレが生きていることが分かった。そうか、ここは――
「ここは勇者教大聖堂地下、魔石工場だ」
憎々しい目でクロエさんはギロリと睨みつける。
自動的に魔石を生み出す夢のようなシステムではあるのだけれど、そこには封じ込められた女勇者たちの犠牲に寄って成り立っている。
勇者とは魔力の塊だ。その彼らに魔物の子を成させ、それをある程度育成したところで屠殺する。ああ本当に、魔物も人もユウシャも誰もかれも考えることが同じ過ぎて頭が痛くなる。
「コレのもっと厄介なところは死んでもまた同じ箱の中で生き返るという所よ。死ねば教会に帰る。けれど、教会の中で死ねばその場で生き返るの。それをあの男は利用して……」
――延々と続く終わりなき地獄を作り上げたという訳だ。
「男は男で下に封印されている。栄養チューブを加えさせられて――見て行くかい?」
「丁重にご遠慮させていただくよ!」
現状でさえSAN値直送な気の狂った空間であるのに、それ以上のものを見る勇気はこの俺には無い。
……手持ちのエリクサーは後二つ。一度アークルに帰れば山のようにあるのだけれど、戻れない今彼らを救う手立ては、無い。
後ろ髪を引かれる思いではあるけれど上を――戦闘音?
「馬鹿な、すでに誰かが戦っているというのか?」
「クロエさん、まさか上の連中が教会の勇者たちを倒して……?」
「そうだ、そうに決まっている!」
「何言ってんだ、アイツらが勝てるわけが――!」
ザワザワと皆が不安げに口を開いてく。だけど、ああ、ああ、俺にはわかる。
「サクラ……ちゃん」
あそこには彼女が、サクラちゃんが、ナナちゃんが――いる。
だが、待て。彼女はこの作戦で一緒に参加すると言っていた。なのに、何故先行してあそこにいる?
「クロエ、どういうことだ?」
「……わからん。ともあれ、行くしかあるまい。最早退路はないのだから」
クロエの声が震えている。彼女も知らなかった?声の感じからして嘘をついている感じはしない。ならば、一体何が――
いや、今答えを求めても仕方ない。兎も角サクラちゃんに逢うんだ。やっと――
今日も今日とて遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ




