20話:深海魚ってゲテモノばかりいるけれど食べてみると意外とおいしい事があるから世の中不思議なモノだよね?
クエストの待ち合わせ時刻と場所を確認して、百瀬の兄ちゃんたちと別れる。
十勇者である彼らと固まって合っているところを見られると怪しまれるであろうという織姫さんからの提案である。
ついでにと、帰る間際に彼女にお願いされたことが一つあった。
俺らと一緒に行動してくれる十勇者が一人、レキちゃんの行動を監視して欲しいと頼まれてしまった。何やら最近反勇者教やそれに類する組織と接点があると言う噂が彼女にあり、事を起こす前に情報を流さないかを見張っていて欲しいそうだ。それなら勇者教の部下にお願いすればいいのではと聞いてみたけれど、少し困ったような顔をして織姫さんは俺から視線を外し、こう言った。
「今の勇者教は一つにまとまっているように見えてそうじゃないの。十勇者なんて肩書をもらってはいても、彼らを導き指導する役目以上の力は持ち得ていないの。勇者教の権限の全ては教皇様が持たれている。私も――モモも逆らえない。だから、これはお願い。あの子が変な事をしないか見ていてあげて?」
――と。独裁体制だとは聞いていたけれど、十勇者に部下がいないことは割と意外だった。うん、部下がいてあとは全部お仕事丸投げできるなら楽そうだなと思っていたんだけど、どうやら世の中ままならないモノらしい。
けれどまぁ、織姫さんの言葉の端々に色々と気になるところがある。
逆らえないと織姫さんは言った。つまるところ、話に聞く教皇による洗脳系スキルが関係しているのかもしれない。伝聞ばかりで確証は何一つないから困りモノだ。しかしそうなると、教皇に対して反旗を翻すような行動をしている可能性があるレキちゃんの行動は気になるところがある。まぁ、織姫さんに良いように使われているだけの気もしないでもないけどね!!
ともあれ、レキちゃんが洗脳をどうにかして解いて自分の意思で行動しているのか、はたまた教皇の意志で動いてるのか、或いは――まぁ、考察はここまでにして尾行に集中することにする。
ちなみに俺の本体はホテルでくつろいでおり、今ここにいるのは分身。何かあった時にすぐに姿を消すことができるからこの方が色々と勝手が良いのである。他にもいくつか分身を放って、襲撃先の監視に他の襲撃する勇者たちの動向を確認しに行っても見たけれど、どうやら彼らはまだ取り分に関してもめているらしかった。ううん、生きて行くために仕方ないとはいえ粘り強い交渉をしているなぁ……。
彼らの無駄な努力に感心をしてると、スッと薄暗い路地にレキちゃんが入って行った。音もなく影もなく彼女の後を追う。
細い路地の奥。スラムのように成り果てているその場所のコケまみれの雑居ビルに辺りを気にしつつ彼女は入っていく。俺の調べによるとここは今回襲撃するどの反勇者教組織が居を構えている場所ではない。セーフハウスとしても利用されていないただのヤンキーユウシャたちのたむろする雑居ビルの筈。こんなところにいったい何のようなのか、私気になります!!と言う事で早速スルリと中へ潜入してしまう。三階建てビルの一番上の階、その中の一室でレキちゃんは誰かと話をしていた。手には魔導通信機。中々流通していないアークルの製品だった。
「――事は予定通り。勇者教は今日の深夜――反勇者教組織を……襲撃する。――そう……教皇は同時刻にあの実験を開始する、つもり。うん今回の襲撃は……体のいい人払いで、生贄のようなもの――だから」
レキちゃんの声が静かな雑居ビルの中に響く。生贄、ね。実験が何か気になるところだけれど、ろくでもない実験であるのは間違いなさそうだ。部屋の中を覗き込みたいけれどあまりにも遮蔽物が無さすぎる。仕方ない、天井に上がるとするかな?
「うん。私は――問題ない。襲撃には百瀬と武甕も一緒。それに――勇者真人が、いる。百瀬たちは――気づいてないけれど」
……あらら、バレちゃってるのね?思わず頭を抱えそうになるけれど、この事を百瀬の兄ちゃんたちに知られていないのは助かる。どうにか口封じをしたいところだけど、甘いモノで懐柔できないかな?うん、無理だよね!
「そちらも予定通り。……そう、わかった。眠り姫様は――ギリギリまで。もうすぐ、全部――終わる。全部。勇者教も、魔王達も、亜人も、人間たちも、勇者も、私たちも、全部、全部」
暗く、沈んだ声でレキちゃんの声が響く。
「――すべては、我らが神のために」
想定外の事に思わず声が出そうになるのを必死でこらえる。十勇者である彼女が邪教アラガミの一員だというのだ。そんなこと、想定できるわけがない。けれど――もし、彼女が元の世界に帰りたい。そんな願いを持っていたとするならば、新たなる世界へ向かう事を望んでいるというアラガミに加わる動機になる可能性は無きにしろあらずだ。尤も、俺たち勇者は既に死人。輪廻から筈かれた存在が再びその輪に加わるにはチートか神の御業か俺のやったようなバグ技しかない。普通にゲートをくぐろうとしたなら、その裂け目の相中に落ち込んでどことも知らぬ空間に永遠と彷徨う羽目になってしまう。
――まぁ、そんな事。彼女が知る由も無いのだろうけれど。
話を終えたのか、レキちゃんは深いため息を付くと魔導通信機を投げ壊してしまう。アレって割と良いお値段するのにな!もったいない……。
「我らが、神……?私、私は、なんで、何を……?」
レキちゃんが頭を抱え苦しそうにその場に膝をつく。と、彼女のフードが外れた。
栗色の髪の毛には白髪が混じり、顔の半分が黒い何かが侵食するように覆い、うじゅるうじゅるとまるで生き物のように蠢いていた。何なのかは分からない。けれど、アレが間違いなくレキちゃんを侵食している何かだと言う事だけは理解できた。
だが、今の俺にこの子を救う手立てはない。いや、あるにはあるんだけど今はまだ使えない。本当に使える技なんだけど、使い勝手が悪いな俺の奥義!
「んむぐ!?ん、んー!ん、ん……」
黒い影が彼女の顔を一瞬で覆い尽くし、暫くすると元の位置まで影が戻ると、落ち着きを取り戻した様子でレキちゃんは雑居ビルから出て行ってしまった。俺はもどかしさを覚えながら、彼女の後をまた追うのだった。ううん、どげんかせんとあかん!でも本当にどうしようかな、コレ……。困ったな!
今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ
誤字報告ありがとうございます。とっても助かっておりますOTL