19話:人間ってもふもふでふわふわと聞くだけで何だか幸せな気分になれる気がしてくるモノだよね?
「と、いう訳でこの三人が一時的にパーティーメンバーにパーティーメンバーに加わってくれる十勇者の方々です。くれぐれも粗相が無いように」
「よろしくな!って、女子ばっかりなんだが!?」
プルプルと震えながら百瀬の兄ちゃんが青い顔で俺の顔を見る。そんなこと言っても、俺にはどうすることもできません!
さて、帰って来たるはホテルのスイートなお部屋。
一緒に戦う仲間だからと百瀬の兄ちゃんに押し切られる形で三人について来られてしまったのだ。フレアとお使いから戻って来た公くんにはモフモフモードでお出迎えしてもらっている。流石に人の姿は色々とまずいからね!
「それにしても獅子族の獣人にヴァンパイア、子供とはいえサラマンダーにネズミか型の魔物まで使役しているとはなぁ」
「非凡なる実力を持っているとは聞いていましたが、なるほどこれで合点がいきました」
うんうんと二人して頷きあっているけれど、いまいちどういうことか飲み込めない。うん、シレーネさん分かるかな?
「ヴァンパイアは言わずもがなですが、獅子族は奴隷にしても反抗してくるので、あのように大人しく従っている事がとても珍しいのです。躾けるにも相応の能力が使役者側に無ければ逆にやられてしまいますので……」
なるほど、それで俺がその相応の実力があると思ってくれたらしい。まぁ、ライガーはものすごい勢いで俺をジトってくれてるんだけどね!アレは不機嫌になってるよ!後でおやつをあげてご機嫌を取っておかないと……。
「しかしふむ、前衛がピーターと真理にそこの獅子っ子だとして後は後衛か?それなら金の奴でも連れてくれば良かったか?」
むむむと百瀬の兄ちゃんが頭を抱えている。ちなみに金と言うのは十勇者が一人、防の金倉涙だ。盾使いなのに盾を斧の如く振り回して戦う摩訶不思議な戦闘スタイルらしい。尚、小柄な女の子である。
「問題ありません。私も前衛で戦えます」
そっと手を上げるシレーネさんに百瀬の兄ちゃんと織姫さんが驚きの眼差しを向ける。
シレーネさんは見た目は胸に大きな大きなおもちをつけたメイドさんだ。一目で背中から大きな腕を生やす近接系勇者だと気付ける人はいまい。尤も、シレーネさんのチートはアブソープション・チェンジという他者の一部を取り込むことで変身するチート持ちだったのだけれど、あまりにも無茶な変身を事故でしてしまった結果、元の人格が吹き飛んでバグってしまった。その結果として、今まで取り込んで来たものに体の一部だけを変身できるチートを得ることができたのだ。偶然が生み出した化け物ではあるのだけど、本人は今の方が幸せだと言ってくれているから、これで良かったのだろう。……いい話で締めようと思っているのに真理が俺の足を踏んでいる。おかしい、ただじっとシレーネさんの胸を見ていただけなのに。
「何でじっと見る必要があるのよ!」
「過去を回想するには記憶に残るモノを見ないといけないんだ。だからこれは仕方ない痛いな!ぐりぐりしないで!?」
「それで、彼女が言っていることは本当なんですか?」
織姫さんが呆れたと言わんばかりにため息を付いている。ふふ、何だかゾクゾクしますねぇ……。
「シレーネさんは元々勇者だったんですけど、事故のせいで元の姿を失ってしまったんです。その代わりに――」
「このように」
「うぉう!?」「んきゃあ?!」「ひゃ!?」
ニョキっと大きな腕がシレーネさんのお腹から生えて、百瀬の兄ちゃんたちが驚きの声を上げる。今まで静かにソファに腰かけていたレキちゃんまで出したところを見るに、相当驚いたらしい。そりゃあくびれのある女性なら誰しも羨むような整ったお腹から、腕毛ボーボーの丸太のような鬼の手が生えてきたら誰だって驚く。俺だって驚く。ビックリしたなぁもう!
「な、なるほどな。色んな意味でこえーが、近接は問題なさそう……か?」
「まぁ、最悪分身すればいいし行ける行ける」
「は、分身?!それがお前のチートって奴か?」
そうであったならどれほど良かったか……。とはいえ、ここは勘違いしてもらっておいた方が都合がいいので笑顔で誤魔化しておくことにする。沈黙は金とはよく言ったものだね!
「んで、あっちじゃ作戦らしい作戦は立てれてなかったがどうするんだ?」
「相手さんのギルドの拠点のデータによると、彼らは地下に幾つも施設を持っているらしいんだよ。だから、後衛のみんなと一緒に乗り込むと最悪生き埋め?」
「それはまずい」
みんなは死ねば大聖堂に復活できるのだろうけど、俺はそうは行かない。だからその最悪の事態だけはどうにかして避けたいんだよ!多少は頑丈とはいえ、俺だって人間。頑丈なようであっけなく死ぬときは死ぬのだ。最近は死んでないけど、大魔王国に居る時はよく死んでいたんだよ……。死因は大体アイツだったけどね!!
「つまり、前衛メンバーで潜入して中をかく乱させて、出て来た奴らを後衛メンバーで叩けばいいという訳か」
「ああいう奴らは抜け道を用意していそうだが……対策はあるのか?」
「それなら公くんとフレアにお願いしておくんだよ。二人は小さいし、鼻も効く。その抜け道に逃げ込んだところをガブッと行ってもらうよ」
と言うと二人が腕を組んでなんだか得意げな顔をしていた。ふふ、可愛い。
「ちっこいけど大丈夫なのか?」
「ネズミの子はわかりませんが、サラマンダーのこの子なら問題ないでしょう。精霊種は見た目がそのまま強さという訳ではありませんし。……それで、作戦がある程度決まったところで、その、フレアちゃんと公くんをモフらせてもらってもよろしいでしょうか!」「……わ、私も……」
ビシッと綺麗に手を上げて織姫さんが目をキラキラと輝かせて、レキちゃんはおずおずと手を上げていた。どうやら二人とも可愛いもふもふには目が無かったらしい。仕方ないネ、フレアも公くんもモフ可愛いからね!
「そういう訳でどうする?」
「んきゅ」
「んちゅ」
なんだかあきらめ気味の表情の二人。この姿で今まで散々モフられて来たのだ。最早慣れたモノなのだろう。
「あ、ああ、手が沈み込むふわふわで、あああ、も、モフモフぅ……」
「もふ……もふ……」
少女二人がそれからお昼の鐘がなるまでずーっと二人をモフり続けたのはここだけの話である。
今日も今日とてとってもとってもとーっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ