16話:四天王とか八部衆とか十二神将って単語だけで男心がくすぐられるモノだよね?
クエストの会議を予定していたと言う事は、俺らが朝一に参加するかどうかの答えを持ってくると予想していたと言う事だ。
それが予想か予測か予知なのかは測りかねるけれど、どちらにせよ気に喰わない。
だから、ふんぞり返って会議に参加してやろうかと思ったけれど、ビオラちゃんの従者として参加するのだからそんな事もできやしない。仕方なく、百瀬の兄ちゃんの隣に陣取って会議に耳を傾けてことにする。うう、我ながら何とも情けない……。
会議に参加しているのは百瀬の兄ちゃんを含む十勇者の面々と今回のクエストに参加するギルドやパーティのトップたちだ。参加するのは十勇者を除いて総勢百名ほどらしい。勇者を含んでいると考えれば中々の人数になっている気がする。
「この作戦はこの街に巣くう反勇者教ギルドの殲滅を目指すモノです。あちら側も決死の覚悟をもってかかって来ると思われますので、気を付けてください」
議長を務めている男――十勇者が一人、探の勇者である斉藤克月は眼鏡をクイと持ち上げる。無駄にイケメンでありながら勇者教の技術顧問を務めている自称天才科学者様である。ただし、正確に難有りすぎて未だに彼女はいないとかなんとか。
「そこ、聞いているのか!」
「あーはいはい聞いていますよ。それで、殲滅はいいんですが殺しちゃったら各地の教会に逃げられてしまうのでは?」
「問題ない。各反勇者教ギルドに所属している勇者の名簿とセーブポイント最終設置地点のリストもそろっている。復活した瞬間に確固捕縛してしまえばいい」
「しかし、復活地点で暴れられてしまえば変わらないのでは?」
「そこは気合で行けるんじゃあねぇか?」
百瀬の兄ちゃんがグッと筋肉マッチョな腕を見せつけるけれど、それは流石に無いんじゃないかなって思う。
「百瀬……お前はいつもいつも筋肉でばかり解決しようとする。こういうのは絡め手――頭を使わないといけないんですよ?ああ、モモは頭の中まで筋肉でしたね、ふふ」
「あんだとこのカメ!」
「やるというのならやりますよ、モモ?」
ガタンと椅子を鳴らして百瀬の兄ちゃんが隣に座っていた黒髪眼鏡なお姉さんに食って掛かっている。
彼女も十勇者の一人槍の勇者、武甕織姫さんだ。なるほど、漢字に甕ってあるからカメなのね。
「ま、まぁまぁ落ち着いて~。ともかく~、克月さんに指定された教会にはこちらから教団院を派遣していますぅ~。これも~冒険者の皆さんが今作戦に参加してくださるからできる事なんです~。感謝してもしきれません~」
そう言って頭を下げているのは十勇者が一人、丹島周防さん。生きてさえいれば復活させることができるという完全再生魔法を使う事のできる快の勇者だ。まぁ、回復人数だけで言えばうちの林檎ちゃんの方がすごいんだけどね!尤もその本人は彼女の事を知っていたからこそ、自分がエリクサーの下位互換であることを気にしていたのだろう。十分過ぎるんだけどなぁ……。まぁ、あえて見た目だけで言うならばおっとり顔でありながらもシレーネさんクラスのたわわなモノを実らせている周防さんに軍配が上がるような気がしないでも、あ、はい、見てません。見てないから真理?俺の足を踏まないで欲しいな!何でみんな俺の足を踏みたがるのかな!痛いよ!?
「だが、復活した奴らが襲い掛かって来るリスクはどうすんだ?」
眼帯を付けたいかつい兄ちゃんがジロリと周防さんを睨みつける。
「はい。勇者とは復活時、身に着けている装備を持ったまま復活できます。逆に行ってしまえば、装備していなければ、丸腰の状態で復活してしまうと言う事」
「つまり、殺すときは剥がすだけ剥がしてから殺せって事か」
「そうなります。もちろん剥がした装備は持ち帰ってしまって構いません」
ヒューと冒険者の誰かが口笛を鳴らした音が聞こえる。
勇者教の総本山である聖都ヴァルハラには入るだけでもランクが高く無ければならない。つまるところ、ここにいるというだけで皆、それなりに高価な装備を身に着けていると言う事だ。クエスト外にも報酬を得られるのは冒険者たちにとって魅力のあるクエストであると言えよう。
まぁ、剥ぎ取るのが魔物じゃなくて同じ勇者や冒険者なんだけど、彼らにそんなことを言ったとしても止まる理由にはならない。悲しいかな、彼らはもう元の世界の価値観なんて消え去ってしまっているのだから。
「散々威張り散らしてた冒険者がはいつくばって命乞いする姿は、さぞ見ごたえがあるだろうなぁ……イヒヒ。毒の兄貴もついて来てくれるからなぁ、ああどんな顔をしてくれるか楽しみでならねぇぜ」
ククク、といかにもな顔の冒険者がニヤニヤと笑っている。それに同調して他の冒険者たちも奴隷に堕としても構わないのかとか、女勇者を、むしろ男勇者が欲しいとか勝手気ままに注文を付けている。はぁ、まったくもって度し難い。
「奴隷につきましては捕獲した者の報酬とさせていただきましょう。ただし、勇者は処理が済むまではお渡しできませんのでお気を付けください」
「……処理、というのは?」
震える声で真理が訪ねる。
「手足の健をある程度切って~適度な再生魔法をかけるんです~。チートも~こちらで収奪させていただいて~復活能力だけがある~、一般人かそれ以下の奴隷として~みなさんにお引き渡し致しますぅ~」
笑顔で答える周防さんに、そうですかと答えた真理が真っ青な顔でうつむく。
真理の気持ちはわかるけれど、正直マシな方だと思えるのはそれ以下の処理方法を知っているからだろうか。ここの地下深くで稼働している魔石生成工場と言う名の苗床。そして、死ぬこともできず、ただただ生かされているというユウシャ封印施設。どちらも最低で最悪な代物。それに比べれば人間として生かされるのだから、マシと言えばマシだろう。……それが人として最低限の尊厳を守るモノなのかは別として。
そっと隣に座る真理の手を握ってあげる。こういう時を支えてあげるのがお兄ちゃんと言うモノだからね!
今日も今日とてとってもとっても遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ