15話:昔話や御伽噺って大人になって読み返すと感じ方が変わるモノって割とあるモノだよね?
大聖堂は教会としての機能はあれど、ここにユウシャが復活してくることは殆どない。
何故かと言えばここを復活ポイントとして設定できるのは基本的にSランク以上のユウシャ教所属のユウシャのみになるからだ。Sランク自体が少なく、更にユウシャ教所属となれば数は限られて来る。つまるところ、勇者教皇の直属の配下であり、パーティメンバーである十勇者のみがここで復活することを許されているらしい。うん、何だか上半身動かさずに腕を組んだりポッケに手を入れたりして走りだしそうなネーミングだな!と言ったらみんなが首をかしげていた。くっ、分かる人が少なすぎるよこのネタ!
「それで、ここに来てくれたと言う事はクエストを受けてくれると言う事で間違いないかな」
ユウシャ教本部、大聖堂の壇上から勇者教皇柳生恭司は俺たちを見下ろす。今日もライガーとシレーネさんにロムネヤスカ姉妹はお留守番である。
教皇の手には今日も大きな魔石の取り付けられた杖。どうやらよっぽどのお気に入りらしく何をするにも手の届く位置に必ず杖を持っていた。――ふむ。
「まぁ、やらないメリットはうちの姫様に無いですしね。報酬をしっかりと頂けるのなら当方のパーティ一同全力で当たらせていただきます」
にこやかな表情でそれは重畳、と言って教皇はクエストの受領用紙を近くにいた従者に渡すようにと指示する。もう準備してたのね。用意いいな!
「断られるとは思っていなかったからな。君たちなら必ず受けてくれると信じていたよ」
何をどう信じていたのか気になるところだけれど、詳しい話を聞かないことには先に進まない。
用紙を後ろに控えている真理に手渡して教皇に、まず一つ疑問を投げかける。
「それで、このクエストをまさか俺らだけでやれとは言いませんよね?」
「もちろんだ。四つある反組織を同時に殲滅しなければならないからね。教会所属の十勇者たちにも出てもらうつもりさ。彼らも君に負けずとも劣らない程の実力者さ」
「なるほどそれは心強いですね」
教会所属、Sランクの十勇者は、剣、銃、槍、魔法、回復、使役魔法、毒使い、防御、解析、潜伏――それぞれのチートのエキスパート集団だ。普段はA級でも対処できないクエストに参加し、手伝ったりしているいわゆるお助けユニットとして活躍しており、絶大な信頼と人気を誇っているのだという。
魔王討伐ともなれば教皇と十勇者を含んだ大規模作戦にて殲滅するのだというから、彼らがここの戦闘能力で無い事がうかがい知れる。そんな奴らが全員が全員右ならえで大人しく教皇を信奉しているというのも割と不思議な所ではあるけれど、それほどまでのカリスマ性がこの教皇にある……のだろう。
「君たちがその戦列に加わってくれるならば向かうところ敵なしと言えるだろう。期待しているよ冒険者スミレ・グリフィンくん、そして――勇者ピーターくんに真理くん」
「過大な評価、感謝いたします。その評価に応えられるよう尽力させていただきます」
恭しく頭を下げるビオラちゃんに倣って俺たちも頭を下げる。
――む?その瞬間、何だか嫌な感じをぬるりと感じた。この感じは何かしらの精神感応をされた感覚に近い。まぁ、俺たちには効かないんだけどね!こっそりと加護をくれているヒルコ様には感謝感謝である。ちなみにビオラちゃんにはヤマタノオロチ姉さんズが憑いている為、俺と真理と同じく精神感応系……つまり洗脳系の魔法や術なんかにめっぽう強くなっている。うん、帰ったら二柱にお菓子を備えてあげよう。
「後ほど討伐クエストの会議があちら側の会議室にある。時間まではのんびりしてくれたまえ」
そう言って教皇は従者を引き連れて奥の部屋へと行ってしまった大聖堂の奥には教皇の執務室があり、その更に奥には彼の私室が用意されているのだそうだ。本当にここを私物化してるんだなぁ……。
「兄さん、その、さっきの……」
不安そうな顔で真理が俺の服のすそを掴む。
「ん、アイツが何かしてきたみたいだけど問題ない。それよりも他のユウシャ達にもアレが同じような事をしていそうで何だか怖いんだよ」
つまるところ、今現在あの教皇に付き従っている十勇者たちや、この大聖堂関係者――だけですめばいいのだけれど、勇者教に所属している全員に先ほどの洗脳まがいの何かを施されている可能性が出て来たわけだ。だとすれば、なるほど好き放題に出来ている理由が見えてくる。
「どうされますか?」
小さな声でビオラちゃんがそっと耳打ちしてくれる。
……うん、そっとしておこう!ここでビオラちゃんの力で洗脳が解けたならば、寄ってたかって襲われてしまう可能性が高い。と言うよりもなんだか騒ぎになりそうな気がして怖いしね!できれば今はまだ目立つようなことはしたくない。
「なぁーにコソコソと話しているんだ、新入り」
ニヤニヤとしながら話しかけてきたのは背の高い赤毛の青年。身に纏っているのはこれまた紅の鎧で、何でか桃の紋章が付けられていた。うん、モモタロさん?
「ちげぇよ!俺は百瀬太郎だ!略されてももたろうとか言われていたせいで発注した防具にこんな紋章入れられちまったんだよ……。いや、良い防具なんだぜ?だけど、マーク消すなら別料金って言われてよう……」
「それはまたご愁傷様ですね」
分かってくれるか、とモモセの兄ちゃんは俺の肩をポンポンと叩いてくる。何だか気のいい兄ちゃんではあるけれど、彼こそがかの十勇者の一人――剣の勇者、百瀬太郎その人なのであった。
今日も今日とてとっても遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ