9話:地下に設置された施設ってだけでただの雨水を貯めるだけの施設でも地下鉄でも神殿に見えてくるから不思議なモノだよね?
大聖堂を出ると――何やら騒がしい。方向は先ほど馬車を止めた場所。何だかとっても嫌な予感がするぞう!
「ああ、おかえりなさいませ」
ニッコリとほほ笑むシレーネさんの背中には巨大な腕が生え、その握りしめられた拳は現代アートよろしく人を壁にめり込ませていた。
見回すと辺りには数人倒れているところを見るに、どうやら女性ばかりで勝てると思ったどこぞのバカたちが因縁をつけて襲い掛かって来たらしい。
「ぐ、ぐふう……く、くそう、俺を誰だと思っていやがる!Aランクのサトーだぞ!お、お前ら如きが――」
「それであれば私めを圧倒して見せればよい事です。数人がかりでかつ、女性一人に勝てないとなるとAランクと言うモノも大したものではないのでしょう」
拳と壁に挟まれていた男が呻きながら地面に崩れ落ちる。圧倒的差を見せつけられて睨みつける姿勢は評価に値するけれど、足が完全に震えてらっしゃる。どうやら相当怖い目にあったらしい。
「お疲れ様。それでこいつら何かな?」
「はい、馬車の中で休んでいましたところ、私たちに有り金と一晩の伽を命じられましたのでお断りさせていただいたところ、凶器を出されたので正当防衛を」
「なるほど、それはまた何とも間抜けな話で……」
ここにいると言う事はこいつ以外もBランク以上の冒険者である筈なのに何でこんなみみっちい真似をするのかが気になるところだけど、そう言えばこの馬車の外装ってビオラちゃんが貴族という建前を使うためにそこそこに豪華に見えるように仕立ててあることが原因なのかもしれない。
まぁ、アイツらからしてみれば金目の物の入った宝箱が目の前にやって来たようなモノだったのだろう。中には見女麗しい少女たちが詰め込まれていたしね!尤も、開けてビックリ玉手箱。ミミックよろしく巨大な腕が背中に生やすことのできるシレーネさんに返り討ちにされてしまったようであったのだけども。
「き、貴様ぁ……」
ふらふらと立ち上がるサトーとやら。どうやらユウシャのようで何やら力を使おうとしている。が、その前にシレーネさんの巨腕によるアッパーカットが見事にその顎に決まり、空高く舞い上がったあと、しこたまに地面に叩きつけられてしまった。うへぇ、痛そうだなぁ……。
「おいお前さん、何でこんな事したんだい?Aランクのお砂糖さんだか羅漢果さんがいるんなら金には苦労してないだろうに」
倒れ伏してた少年をつまみ上げて話を聞いてみると、完全に戦意喪失してしまっているらしくガタガタと歯を鳴らして答えてくれた。
なんでも彼らは反教会ギルドの一員らしく、組織に冒険者としてもらえる資金の一部を上納する必要があるらしい。しかし、最近その上納金が跳ね上がったらしく、喰うに困って思わずやってしまった、との事だった。まったくもって迷惑千万な話だよ!
「はぁ、こんな事態になっても門番は動かず、衛兵も来ない……か。ユウシャなんだから自衛は自分でしろって事かな?中々に酷い話だなこれ」
「いえ、教会側が衛兵隊を組んで治安維持に当たっています。ですが、基本的に教会と反教会ギルドが互いにけん制し合っているのでこういった犯罪は見かける事は無かったのですが……」
ふむ、とシレーネさんが首をかしげている。
もしかすると先ほど教皇が反勇者ギルドの壊滅の依頼なんて出したのも、ここに理由があるのかもしれない。反勇者教ギルドが活発化し、犯罪が増えてきている為に潰して欲しい、とか。そこに関しては調べてしまわなければ何とも言えないけれど、もしそのギルドの中にナナちゃんが逃げ込んでいる……或いは捕らえられているのなら、依頼を受ける前に動いておく必要があるだろう。
「それで、彼らはいかがいたしますか?」
「衛兵に突き出してやりたいところだけど、こっち見てる門番の兄ちゃんたちが何も動かないところを見るに、付き出しても即釈放されそう?うん、お金さえ積めばだいたい眼を瞑ってもらえるのがこの都市っぽいしね!」
金を渡せば捕まえてはくれるだろうけれど、犯人から金を貰えれば捕まえたことさえなかったことにするだろう。うん、これまでに潜入している中で何度も見かけた光景なんだよ!
「何それ真っ黒じゃない……」
真理が呆れたような顔で頭を抱えている。なんというか、権力が分離してない組織なんて基本的にそんなものだ。 うちの領や大魔王領なんかが特異な例と言える。せめて司法組織と行政組織は分けられていなければ腐敗が進んでしまって当然。俺たちの元の世界を鑑みればそれが普通なんだよ。
「そういう訳で逃がしてやるから、感謝して逃げるように」
「く、くそう、覚えて……あ、いえ、覚えてなくていいです。サヨナラ!」
ふらふらと仲間たちを抱えて強盗ユウシャたちは逃げて行ってしまった。振り向くとにこやかな顔で大きな拳をシレーネさんが振りかぶっていた。そりゃあ怖いよ!
「にしても、本当に動かなかったなアイツら」
「さっきの一件もあるし、助けるつもりも通報するつもりも最初から無かっただろうよ。むしろ焚き付けた可能性まであるのが怖いところだね。舌打ちしてたし」
「……すまん」
馬車の中のライガーがポツリとそう呟いたのが聞こえた。まったく、謝る必要も罪悪感を抱く必要も無いのに何でライガーが落ち込んでいるんだか。
「お前は悪く無いよ。というか、突っ込みをしてくれることを期待して連れてきてるんだから、元気でいてくれないと困るぞ!」
「なんで突っ込み役なんだよ!まぁ、そこまで役に立ってる気はしていないけれど……」
はぁ、とまたライガーはため息を付く。
役に立っているかいないかと言えば間違いなく役に立ってもらっていると言えるだろう。ライガーの匂いによる感知には助けられているし、何より普通に強い。単純な戦闘能力だけでいえば、変身した真理とビオラちゃん二人がかりでも叶わないだろう。まぁ、魔法とかが絡んでくるとギリギリになって来るだろうけどね!
「考えすぎなのもライガーの悪いところだね。まぁそこも良いところなんだけど。で、匂いはするかい?」
「……する。けれど、匂いが紛れて細かい位置まではわからん。もしかすると匂いが強いところに居るのかもしれない」
強い匂いと言えば下水道だけれど、下水自体は細い管になっていて人が通り抜ける隙間は無い。無いのだけれど。もしかするとそこに繋がる大雨対策の巨大貯留水槽に潜んでいる可能性が微量にある。しかし、そこは勇者教が管理しており、入り口も勇者教の大聖堂敷地内に設置してある。反勇者ギルドやナナちゃんが潜んでいるとは思えないのだけれど、可能性が出てきたとなれば調べてみる価値はあるだろう。
強い匂いと言えばゴミ処理施設も考えられるけど、街の外に設置されてるからそこにいるってことは無さそう、かな?
「にしても、隠密は得意だけど索敵は苦手って。兄さん、忍者としてどうなの?」
「は、はは、我が妹は手厳しいな!うん、その通りなんだけどね!」
だから分身して独り人海戦術で探していた。まぁ、それで見つからなかったんだから真理の言葉には首を垂れるしかない。
ともあれ、一旦ホテルに荷物を預けて、そこから手分けして情報収集だ。反勇者ギルドの動きについても調べておかないと!
今日も今日とてとってもとっても遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ